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播磨の昆虫:幼虫はどこへ行った?

成長したジャコウアゲハの幼虫が茎を食いちぎって、食草を枯れさせてしまうことはよく報告されています。

しかし、食草がなくなり、枯れてしまった場合は、爆食いしていたジャコウアゲハの幼虫はどこに行ってしまうのでしょうか?路頭に迷って死んでしまうのでしょうか?ある日突然1個体もいなくなると、All Goneって感じで、呆気に取られます。

幼虫が茎を食いちぎって、結果的に、食草を枯れてしまうことの適応的意義は不明で、いくつかの解釈(仮説)があります。

1. 資源枯渇説
増えすぎた幼虫により食害が進行してウマノスズクサの地上部は枯れ、葉が少なくなれば、さらに茎を食べてしまう。葉も茎も食べられるだけ食べるてしまう食べ尽くし説。

2. 他個体の適応度を下げる戦略説
十分に餌を食べて最終齢幼虫になり、蛹になるために食草を離れる際に、まだ食草を食べている他個体(同じブルードの可能性が高く、兄弟姉妹個体)の成長を妨げるために、茎を食いちぎってその食草を枯らせ、自分だけ蛹化場所へと移動する。一人勝ち説。

3.根茎からのウマノスズクサの毒(アリストロキア酸)を和らげるための他個体救済説
アリストロキア酸を分解する酵素を先天的に合成する能力を持っているとは言え、弱毒化する方が酵素合成や毒の代謝のためにエネルギーを使わなくてすむので、その食草の根元で茎を切り、地上部の葉っぱに供給されるアリストロキア酸を弱毒化し、自分も含め、ブルード個体(兄弟姉妹)も助けるように行動している。人類みんな兄弟説。

2と3の説もそれぞれ説明がしにくいところがあります。特に3は茎を食いちぎるとすぐに枯れてしまうので、成長が遅い個体にはリスクがあります。また、根に蓄積されるアリストロキア酸は、ある文献によれば少ないらしく、むしろ、葉っぱの方に蓄積されているので、茎を切っても弱毒化できるとは限りません。

2については、茎を食いちぎることで食草が枯れることは事実ですが、遺伝的情報の近い兄弟姉妹を淘汰する必要があるほど、ジャコウアゲハへの自然淘汰圧が強いのかが分かりません。

食草ウマノスズクサは、人里や農耕地などの定期的に草刈りがなされる場所で増える植物で、他の草本生植物(雑草)に比べて、競争に弱いように思われます。茎を切り枯れさせることで、食草の適応度を高めることができるなら、この説も有力になりますが、そうは思えません。

消去法ではありますが、1が一番妥当な気がしています。モンシロチョウやナミアゲハなど農作物の栽培量の増加に従って増える種もいる一方で、ウマノスズクサ類という農作物でない食草に特化したスペシャリストの運命かもしれません。

親のメス成虫は、ウマノスズクサを見つけたら、おそらく、産卵数を食草の量に合わせて産卵しているような印象はなく、ウマノスズクサが食べ尽くされている事例はよく見聞きします。

もしかすれば、今までは、里山的環境ではウマノスズクサも豊富だったのかもしれず、そういった十分な資源量に合わせたジャコウアゲハの行動の名残りなのかもしれません。近現代になり、急激に自然環境・半自然環境の変化が起こり、ジャコウアゲハも適応しきれていない可能性はあります。あるはずの食べ物がなくなった場合は、周辺にウマノスズクサがないか探して周り、ない場合は全て死んでしまうのでしょうか。

葉っぱが食い尽くされて茎も噛み切られたように見えるウマノスズクサ 2024/6/8撮影
茎付近につかまる幼虫 2024/6/1撮影
茎付近につかまる幼虫 2024/6/1撮影


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