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深読み:屋台かぶれ

播州(兵庫県南西部)の秋祭りの神輿型屋台は、新調から2〜3年目に漆塗りを施し、完成します。白木屋根に漆が塗られ、深い黒色に変わります。地区によって差はあるものの、10月の秋祭りの1ヶ月ほど前に完成式・お披露目を行います。その際に、慣習的に、練り子(屋台を担ぐ大人たち)が、カニ柄がプリントされた鉢巻やシャツ着用して、屋台を担ぎます。これには、漆にかぶれないように、おまじないの意味があります。

漆かぶれは、ウルシ科の植物に含まれるウルシオールの反応によるものです。漆の樹液や精製された漆塗料に直接触れることで表皮からウルシオールが浸入し、それを排除しようとする体の反応の大きさによって炎症がおきます。

昔からの言い伝えで、漆かぶれの対策のひとつとして、サワガニを潰してでる汁をかぶれたところにつけると炎症が抑えられるとあります。これは、蟹汁のたんぱく質成分にある程度効果があるそうです。そのため、現代では、さすがにサワガニをすり潰したりはしませんが、鉢巻やTシャツにカニ柄を入れる慣習だけが残ったと思われます。

ただ、いくら屋台が完成したばかりとはいえ、黒屋根の漆は完全に乾燥しており、練り子が漆にかぶれる可能性は極めて低いと思われます。それではなぜ、カニ柄の鉢巻やTシャツを着るのでしょうか。

これは、個人的な見解ですが、塗師が漆を施して、すぐにその地区の屋台蔵に届いた「出来立てホヤホヤ感」と、その完成屋台を神主が祈祷後、練り子らが屋台に肩を入れ、屋台の木肌と人肌が触れ合う「屋台と人の密接な関わり」が始まることへの安全祈願の気持ちが込められているように思います。

それにしても、完成屋台の輝きは息を飲む美しさがあります。一度でもいいから担いでみたいです。


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