音楽:クイーンズライク

クイーンズライクあるいはクイーンズライチというヘヴィメタルバンドはマニアの間では有名で、特にバーンというヘヴィメタル雑誌を読んでいる人は、洗脳されてしまった人もいるかもしれません。
でもいいんじゃないかと思います。何がいいのかというと、海外ではもちろんクイーンズライクは人気がありましたし、いい作品をいいとお薦めすることはいいと思うからです。
バーン誌の編集長の広瀬和生さんという方が、クイーンズライクのアルバムの収録曲を全て(当時リリース分)を訳した詩集なるものが発売され、ヘヴィメタルって知的な音楽なんだという印象を持ちました。広瀬さんは東大の工学部出身らしく、クイーンズライクのボーカルのジェフ・テイトへの独占インタビューで、理論物理学のことについて議論するなど、とんでもなくインテリな世界を展開されていたので、それもまた、すごい世界があるもんだと驚きました。
クイーンズライクはピンクフロイドやラッシュといったプログレロックの影響を受けたヘヴィメタルバンドで、プログレッシヴメタルと呼ばれたりもしていました。当時成功を収めたアルバム「オペレーション・マインドクライム」というまるで映画を見ているような最初から最後まで物語になったアルバムがあります。薬中の主人公ニッキーが、闇のカルト犯罪組織に洗脳され、暗殺者として利用され続け、その世界から抜け出せなくなるとてもシリアスなストーリーです。途中、慈悲深く純粋な女性メアリーに出会い、自分を取り戻しかけ、改心し、足を洗うことを決意するのですが、メアリーを失います。愛するものを失い、自分の愚かな行いに気がついていても、現代の社会では真っ当に生きるチャンスが与えられないことを示唆しています。資本主義アメリカの闇の部分を描いた野心作です。ロックなアルバムです。
ただ残念なことに、「オペレーション:マインドクライム」と次作「エンパイア」がバンド全盛期であり、その後は方向性がぶれ始め、バンドのブレインと思われていたジェフ・テイトやクリス・デガーモは脱退し、現在はトッド・ラ・トゥーレをボーカルに据え、残ったバンドメンバーとでうまくやっているようです。というか、バンドの音楽性のクオリティはジェフとデガーモがいた時代よりも高いかもしれません。
一時期、ジェフ・テイトがトラブルメーカーになっていたという噂も聞き、自分としては複雑な思いをしたことがあります。
バンドの人間関係というのは、社会の縮図のようなところがあり、人間関係のトラブル、レコード会社との齟齬、ファンや社会からの期待とプレッシャー、仕事と家族の両立、権利や印税のお金の話など、多かれ少なかれ名の知れたミュージシャンは、色んな試練を乗り越えてきているようです。
でも「オペレーション:マインドクライム」を聴く度に、僕の中ではクイーンズライクの古き良き時代の像が蘇ります。理論物理学について熱く語るジェフ・テイト、心理療法や夢を操作できることについて解説してくれるクリス・デガーモのことも。ニッキーのこともメアリーのことも。たとえそれが、悲しいストーリーだったとしても。

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