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短編小説とか妄想小説

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突然浮かぶ妄想の世界をとらえて文字にしています。
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2019年11月の記事一覧

ビフォアサンライズと不思議な出会い

その映画はブダペストからパリへ向かう列車のシーンから始まる。ドイツ人の中年夫婦が恐らくどうでもいいことで、延々と言い争っている。ドイツ語なので、何を言っているのかわからない。雰囲気の悪い空気が車内を支配し、隣に座っていたソルボンヌ大学に通うセリーヌは、いたたまれずに席を移動。そこで出会ったのがアメリカ人のジェシー。物語はこんな会話から始まる。 「夫婦はお互いの声が聞き取れなくなるのよ。歳と共に男は高い声を識別できなくなり、女はその反対なの。聞こえなくなるのよ」 「だから殺し

聞き上手は流し台

 わたしは相槌を打つのが得意だ。   「うんうん」 「それで?」 「へぇ、そんなことが」 「なるほどねえ」 「そうだったんだ」    おそらくこの5つの言葉を使い分けるだけで、相手は延々と話し続けることだろう。誰に習ったでもないのに、わたしのこのスキルはかなり高く、周囲からは「聞き上手」として定評を得ている。    「前の旦那さんがアスペㇽガーだったから、自分は話さなくなったんじゃないの?」 そう指摘した友だちがいて、ハッとしたことがある。     自分の話を夢中になって喋り