自作モノローグ「カウンセラー」 (初稿)

先生、私、実はカウンセラーなんです。

カウンセラーといえば一般の人は悩みを解決してくれる人だと思っていますが、本当はそうじゃないってこと
先生はよくご存知ですよね?

今日は私の悩みを聞いていただきたくて伺いました。
今日も仕事で、3人ほどのクライアントさんを励ましてきました。
相槌を打って共感して励まして、、、
皆さん、泣きながら喜んで下さいました。
そして元気になって帰って行かれました。
でも私の気持ちはちっとも晴れないんです。

先生、私の話を聞いていただけますか。

私は、こんな仕事をしながら実はとてもチャラい女なんです。

ある夜、私はホストクラブのソファーで周りに4、5人の男をはべらせてお酒を飲んでたんです。
ちょっと酔いが回ったころ、賑やかに周りの男達と喋ってました。


でも、その時突然、私思い出したんです。

私には赤ちゃんがいたってことを。

最初、自分でも、えっ?て思ったんです。
なぜかいきなり赤ちゃんの事が頭に浮かんできて、
それまで私独身のつもりだったのに。
なぜかいきなり、自分には赤ちゃんがいるって思い出したんです。

そのとたん周りの喋っている男たちの声が聞こえなくなりました。

心臓がバクバクし始めて、
周りの男達を突き飛ばして私走り始めたんです。

お店を出ると外は真っ暗で、歩道を私走り出したんです。赤ちゃんのところへ行かなくちゃって。
走りながら思ってました。これは夢っ?て。
何度もそう思いました。
でも夢のはずがない。
確かに赤ちゃんを抱っこした感触が私の腕にあったんです。
街灯がついている歩道を、私とにかく走りました。いつのまにかピンヒールも脱げていて、裸足で走ってました。

そして着いたところは田舎の私の実家でした。肩で息をしながらガラッと戸を開けました。

私の家は古い家なんです。大きな四角い梁があるような、天井の低い、昔の田舎の家なんです。

家に着くと、電気がついてて、ほんのり暖かくて、
でも、誰もいないようでした。ずっと誰も住んでいないようでした。

私は上がり框を上がって、サッシの戸を開けると、
ちゃぶ台の向こうに仏壇とブラウン管のテレビがあって、
テレビの前には一枚一枚バラバラにした新聞紙が山のように積み重なってました。
なぜだか分からないけど、私その新聞紙の下に赤ちゃんがいるって確信したんです。
怖かったです。

おっぱいをあげたのは何年前?
最後にオムツを替えたのはいつ?
もう少なくとも2年くらい前に思えました
私そのまま赤ちゃんを放置してたんです。
誰かに任せたとかじゃなくて、
赤ちゃんを置き去りにして、
赤ちゃんの事をまるっきり忘れて、違う生活をしてたんです。
母親じゃない生活を。

もうその新聞紙の下で、赤ちゃんはミイラになってるんじゃないかと思いました。恐ろしかった。

でも確かめない方がもっと怖くて。

新聞紙を一枚一枚ひっつかんで取り除いていきました。新聞紙の山はすごく大きくて、それがあと少しになった頃、
いたんです、私の赤ちゃんが。

私が何年も放置した赤ちゃんが。

ミイラじゃなかった。

私の赤ちゃんは穏やかに両手と両足を縮めて眠ってました。オムツもそんなに濡れてなくて、世話をしてくれる人は誰もいなかったはずなのに、赤ちゃんはお腹が空いてる風でもなく穏やかに眠ってました。
私がそっと抱き上げても赤ちゃんは眠ったままでした。

よかった。生きててくれてよかった。
本当にホッとしました。
赤ちゃんがなぜ生きていられたのか私にはわかりません。

でも赤ちゃんを殺すことにならなくて本当に良かった
私それからチャラい女ではなくなりました。
あのホストクラブにいた時赤ちゃんのことを思い出さなかったらどうなっていたんだろうと今でも思います

先生、私、この話を何人かの人に話しました。
でも誰も私を責めないんです。

結局赤ちゃんは死んでなかったんでしょう?よかったじゃない、とか、

それは夢なんだから気にしすぎよ、とか、

誰も私を責めてくれないんです。
私はひどい母親なのに。

でも私はやっぱり自分が許せないです。

先生、先生は心のお医者さんですよね。
だから私を責めて欲しいんです。

ひどい母親だって。

私のことを罵って欲しいんです。

子供に愛情のかけらもない、なんて母親だ!って

そうやって私の心を救ってもらえませんか。

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