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私に映画熱はあるのか。【トロール・ハンター】

 宇野鯨です。
突然紹介したい映画が一本。現在アマプラでフリーに観れますが、何となく夢でおじさんに「サブスク終わるよ…」と言われたので、急きょ。

 簡単に言えばこの映画、「フェイクドキュメンタリー」です。どういうジャンルかと言うと、偽物の世界で、偽物の人物を捉えていく"ドキュメンタリー"の形式を取った娯楽映画のことを指します。

 他にもモキュメンタリー(mochu+dochumentary)、ヤコペッティ監督の「世界残酷物語」から生まれたモンド映画など様々な呼び名がありますが、ここでは「フェイクドキュメンタリー」と呼びたいと思います

 このジャンル、何がいいのかというと、 ̶低̶予̶算̶で̶作̶り̶や̶す̶い̶か̶ら̶誰̶で̶も̶作̶れ̶て̶一̶定̶数̶マ̶ニ̶ア̶が̶い̶る̶の̶で̶コ̶ン̶テ̶ン̶ツ̶が̶未̶だ̶に̶廃̶れ̶な̶い̶
何といっても「迫力」でしょう。

 記録映像として映画は始まりましたが、いつしか娯楽性を見出され、今では商業映画がほとんどを占めています。そして商業映画の本分も娯楽にあると思っています。フェイクドキュメンタリーの映画の特徴を簡単にまとめると次のようなものがあります。

・激しい手ブレ
・粗い質感(中にはビデオカメラで撮ってるものも)
・"現実"の感覚になる。

 まず「激しい手ブレ」なのですが、このジャンルは絶対に動くカットを撮らなければいけない!というわけではないです。
例えばオスンサンミ監督の「フォースカインド」(ミラ・ジョボウィッチが本人役で出てる)
などは宇宙人による第四種接近遭遇の模様をテレビ番組の形式を取って進行しています。

(ちなみにオスンサンミ監督は他にも作品を出しているのですが「エビデンス-全滅-」などは劇映画とホームビデオが合体した不思議な映画でした。編集時に生まれるジャンプカットを巧みに操ったユニークな仕上がりになってましたね)

 なので、「フォースカインド」のような形式をとって進んでいく「フェイクドキュメンタリー」が多くてもいいんじゃないと思うのですが、我々「フェイクドキュメンタリー」が好きな人間から言わせてもらうと凡庸でつまらないんですよね。(1意見です)

 そもそもこの映画自体、「本物だよ!」というふうに売り出されたのでフェイクであることがバレてしまっている今では本領発揮できないところがあります。悪魔に魂を売るような謳い文句ですよね。"やらせ"と言うんですけど。

 じゃあ何が面白いか、私がおすすめするのは二つ目の「粗い質感」なんですよね。

 そもそも「フェイクドキュメンタリー」はホラー映画のイメージが強いですが、実際のところ一番最初に始まったのはコメディだと言われています。(白石晃士監督の本で読んだ記憶が)

 だからホラー映画である必要は全くないのですが、ハンディカメラやビデオカメラと、とにかく相性が良いんですよね。
先駆けであり、マスターピース的立ち位置の「ブレアウィッチ・プロジェクト」然り、固定カメラで撮ってるのにすごく怖い「パラノーマル・アクティビティ」然り、ごく自然の家族や組織が怪異に巻き込まれていく様子を劇映画チックではなく、ドキュメンタリーチックに撮ることで、リアリティを生み出しています。

 でもこのジャンルが飽和してきているのも事実なんですよね。ほとんどが「ブレアウィッチ」のように
①テープを見つける
②なんかヤバい
流れが多いです。(ファウンドフッテージとも)

 (レンタルショップでこのジャンルを探したい!ってなったら「プロジェクト」「レポート」などや背表紙に画面のグリッチノイズがあったり、Recマークがあるものを探してみてください。)

 「こんなモン映画じゃねえ!」という方が多いですが、マーベルやディズニーと比べたら確かに予算もかかっていなくてどことなく「映画じゃないかも」と思ってしまうかもしれません。ですが逆に「映画ってなんだろう」と考えた時に、自分の先入観に気づくかもしれません。このジャンルを映画だと思って観ることができれば沼にハマるんだと思います。

 これらの映画の中には本当にお金が無くて作ってるものもあれば、お金があるのに作ってるなんてものもあります。(グレイヴ・エンカウンターズなど)

 「フェイクドキュメンタリー」を成立させるには偽物の世界として、偽物の辻褄を合わせる必要があります。これは他の商業映画同様ですね。存在しないスタバのコーヒーが画面にあったり、宇宙空間にジーンズの男がいたら興醒めですよね。

 そのため「フェイクドキュメンタリー」の世界では画面に映っているもの全てが現実のように見えて"嘘"でできていると言っても過言ではありません。全てが小道具で美術なんです。なので一つ一つにしっかり意味があって、それを考えるだけでも楽しいですよ。

 さて、本題に入るのですが「ブレアウィッチ」以後にヒットした「フェイクドキュメンタリー」と言うと、
「Rec」
「パラノーマル・アクティビティ」
「グレイヴ・エンカウンターズ」あたりではないでしょうか。僕はここにこの前観た
「トロール・ハンター」を捻じ込みたいんです。

 ずっと観たかったんです。コレ。
話は題名の通り、取材班が何かをやらかす王道のフォーマットで進んでいくのですが、今回は北欧の怪物「トロール」を政府が秘密裏に駆除しているというM.I.B.のような話になっています。

 じゃあトミー・リー・ジョーンズはいるのか?って話なんですが、渋いオヤジですよね、あるよ。今回取材班と一緒に行動をしているハンスという男が咥えタバコの似合う男なんです。謎めいたオヤジなんですけど、移動車のトレーラーの中には「トロールの体の部位」がプレデターの船みたいな感覚で置いてあります。
 本人曰く、「トロールに気づかれない」なんですが、ということはずっと臭いんですよね。まあそこがいい。

 この映画、CGがマジでうまいんです。僕は全く知識があるわけじゃないんですけど、「うまいCG」はマーベルのような光の反射なども考えてその場に馴染ませているもので、「まずいCG」は「グレイヴ・エンカウンターズ」ですよね。両者の違いは、現実に存在するのか、完全に現実と切り離して考えてるものなのか、だと思います。
どちらかのディレクションの違いによって表現も変わってくると思うのですが、「トロール・ハンター」では成功しているといっていいと思います。(CG感満載も荒々しさ全開で好きなんですけどね)

 とにかくトロールが本当にいるような感じで出てくるので(クレイアニメなのかな) 迫力がすごくあります。「フェイクドキュメンタリー」に伝わる伝家の宝刀、"暗視カメラ"も、トロールの息遣いと画角の狭め方が非常に上手くいい繋ぎになっています。

 「フェイクドキュメンタリー」にありがちなのが、登場人物の死。きっかり終盤で全員襲われるか襲うかでいなくなりますよね。これ、大体「終了時間が近いんだろうなあ」って思ってしまうので最近は好きじゃないのですがこの映画は期待を裏切ってくれると約束しておきます。

 あと「トロール」の設定も良かったです。知能が低いのはもちろん、"年齢に応じて頭の数が増えていく"など、クリーチャー好きからしたら「じゃあこれから何が出てくるんだい!」とワクワクさせられます。

 先ほどM.I.B.みたいだね、と触れたのですがまさしくそれが今回のテーマなんです。「劇映画」と「フェイクドキュメンタリー」。撮られている手法に画も違うわけですが、明確に表現の違いはあれど、しっかり作り込めばどちらも見劣りしない、そう僕は感じています。

 要はアドベンチャーなんです。マーベルなんです、「トロール・ハンター」も。ただその表現の違いを受け入れられるかというところで好みは分かれていますが「フェイクドキュメンタリー」の歴史はまだまだ浅いです。世論の理解も変わってくるに違いありません。

 映画は娯楽です。
そして映像であり、映像体験です。
「フェイクドキュメンタリー」を中華料理に例えるなら"毛蟹"ですね。美味しいものを得るためには、こちらも支払わなければならない。野性そのものですよね。人間は獰猛です。
 敷居はあれど、五感を震わせて、映画と取っ組み合いしながら観ることで、体験をする。
「観る」を越えて「得る」ことを僕はこの一本から可能性を感じました。
 それではまた次の波止場で。


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