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PlusUltra 小説 ヒイロの冒険

プロローグ


これは弱小ヒーロー「スカーレット」と
落ちぶれていた伝説のヒーローたちの物語

1.弱小ヒーロー ヒイロ

ボクの名はスカーレット、
みんなからは馬鹿にされて
「ヒーローになりきれないヒイロ(緋色)」
って呼ばれている。
そんなボクは貧乏ヒーロー事務所に所属していた。

世間は悪行が目立っていて、
弱小でお金もない事務所だけでは
どうすることも出来ないから
ボクは思い切って、10年前に伝説となった
4人のヒーローを探す旅に出ることにしたんだ。

ここからだと、海の近くに住んでいる
「ガイア」というヒーローがいる
この情報を頼りに、ガイアの元にむかった。
弱虫のボクでは無理だから、
みんなに力を貸してもらうために・・・

ガイア編

2.メタボ体型ガイア

「海藻はいいなぁ、何もしなくてもゆらゆら生きていける」
ぽつりと口にしながら、酒瓶を片手に海を見ている
だらしがない体形の中年のおっさん
そんな彼の名は「ガイア」
ヒーローを引退してもう10年
当時のたくましい姿はどこにもなく
二人の子を持つ親とはなったものの
妻と長男に見放され、すっかりダメな大人に
なってしまっていた。

そんな彼の後ろ姿を、泣きながら誰かが走ってきて
「お父さん!本当のことを教えてよ!」と叫んでいた。
その子は、ガイアが伝説のヒーローだと信じていた、
次男の息子「グラン」
でも、なぜ泣いて叫んでいるのか?
それは、今日学校の帰りで
思いがけない出来事があったのだった。

3.悲しみのグラン

僕のお父さんはヒーローだ!
学校の友達にも、
よくお父さんのことを自慢しているよ
「僕のお父さんは今でも強くてかっこいいんだ!」って
でも、みんな信じてくれない。
そんな中で、帰りに下駄箱の前でクラスメイトの
一人が珍しくお父さんのことについて
話してきたんだ。
やっとお父さんがかっこいいヒーローであることを
わかってくれたと内心喜びながら話を聞いてみたら
「昔お前のオヤジのせいで、ヒーローが一人死んだらしいよ?」
まさかの内容だった。
「そんなことないもん!」と言い返したけど
「死んだのはお前の父親のせいだ」
「殺したのはお前の父親だ」
とずっと言われ続け、僕は泣きながら走って学校を飛び出していた。
疲れて、とぼとぼと歩いていると
海辺でぼーっとしているお父さんを見つけた
信じたい気持ちとショックのあまり、
走り寄って怒鳴っちゃった
「お父さん!本当のことを教えてよ!」

4.フレアの死

グランが泣きながら怒鳴っている
いったいどうしたというんだろう?
理由はわからない、
ただ、何かあったことはたしかだ。
「いったい、どうしたんだ?」と声をかけた。
グランは何とか泣き止んで、信じた目をして
こういった
「お父さんは人をころしてないよね?ヒーローだよね?」
俺はショックを受けた。
まさか、あの10年前の出来事を
息子が知ってしまうとは
「直接ころしたりはしていない・・・が
正直俺が殺したものだろうと思っている。
でも、信じてくれるグランには本当のことを話そう」

思い出したくもない出来事だった
それは、仲間のフレアが死んでしまう2週間前のこと

フレアは病で生死を彷徨っていた。
なんとか、治せるかもしれないという医師は見つかったのだが
その医師が求めた治療費がはるかに高額だった。
時間がなく、4人で別々にお金を集めた
みんななんとかしたかった。必死だった。
でも、力しか取り柄がなく人と話すことが苦手な俺は
集めなければいけないお金を用意することができなかったのだ・・・
仲間は俺の足りない分を用意しようと必死になってくれていた
俺も町中で大声を出して募金活動を行っていた。
そんな中、1本の電話がボルトからきた
「フレアの状態が急変している、すぐにきてくれ」

全力で駆け付けた。
そこには2週間前より、さらに顔色が悪いフレアが寝ていた。
医師にありったけのお金を渡したが
「金額が足りない」といって手術をしてくれなかった。
頭も下げた、後で払うことも伝えた
「フレアの命がかかっているんだ!」
「どうか・・・どうか、助けてくれ!」
それでも手術を行ってもらえず
そして、その日の晩にフレアは死んでしまった。

話を終えて、グランの顔をみた。
「お父さんのせいじゃないよ」
「僕はそうであってほしい」
息子がぽつり、ぽつりとつぶやく中
波は夕日を浴びながらさざめいていた。

5.ガイア、地面に立つ!

フレアの死から、4人でヒーロー活動を続けられるわけもなく
事務所は解散をして、それぞれがヒーローとはかけ離れた
生活になってしまった。
俺があの時お金を集めていれば
フレアは死なずに済んだかもしれない・・・
何度も、ずっと思っていた。
そして今、息子のグランでさえもつらい思いをさせてしまった。
泣かせて、気を使わせて、そして信じてきてもらった事さえも裏切った。

話を終え、息子と無言で家に帰りながら
不甲斐ない自分自身に怒りが湧いた
「こんなのでどうする?」
「ここで変わらなければどうする?」
「このまま家族や仲間に苦しい思いをさせ続けさせるのか!」

俺は決心をした、もう一度ヒーローになるために
これ以上誰かが俺のせいで悲しむことが無いように
今度こそ、守れるように

想いを胸に、早朝から修行のために山にいる師匠の元にガイアは向かった。

フラウ編

6.陰キャ生活フラウ

あれから10年
私は何をしてきたんだろうか?
ヒーローをやめた後、詐欺のように悪い男どもに騙され続け
何もかも、どうでも良くなっていた。
そんな彼女の名前は「フラウ」
くたびれたジャージ姿で家をうろつき、適当にお菓子を手に取り
「もうどうでもいいわ」とつぶやきながらポテチを食べていた。

髪もボサボサ、すっぴん、目の下のクマ
10年前、アイドルとさえ呼ばれていた可愛さは
跡形もなく消えていると自分でも思う。

イケメンばかりアプローチしては騙されて行く日々
そんなバカな私には、もう誰も寄ってこないだろうし
私も、もう寄りたくもない。
見た目だけの恋なんて、もういらないのよ。

7.突然の出会い

気まぐれに家をでた
ただ、なんとなく天気の良い朝だったから。
なんの気兼ねなしに公園へと向かった。

何もない、ただ1日を過ごすだけの日々
このままでよくないのはわかっているけど、昔のようには
戻れないと心のどこかで思ってしまっている私

そんなことを考えながら、いつの間にか公園についていた。
さて、とりあえずベンチに座って空でもながめるか。
そう思い空を眺めていたら、隣から「綺麗ですね」と声をかけられていた
あまりにびっくりして「え、私が?」と言ってしまった。
それが、彼との出会いだった。

彼は面白い人だった、いきなり話しかけてきたと思うと
私の返事は聞かぬまま、また歩き出していった。
「あぁ、ちょっと・・・」と声をかけたが
彼は気が付くことなく、空や公園の草木、鳥の声などに耳を澄まし
太陽を全身に浴びて今日という日を楽しんでいるようだった。

8.これは恋?それとも変?

私は、彼がなんだか気になり
それから、毎日公園に行っては彼を探すようになっていた。
彼を見つけると、他愛のない会話を私からする。
彼は答えたような答えていないような素振りを示す
だけど、なぜかそんな自然な流れが私は楽しく感じていく。

気が付けば毎日、公園でそんな彼と話しをしていた。
私は少しずつ、服装や髪型が変わり、化粧をするようになった。
そして、夜更かしもせずに健康的な生活を送るようになった。
前のような自堕落で不摂生な生活とは明らかに違う
あの頃の私以上に私自身が変わっていくのを感じた。
「今日が楽しくて明日もきっと楽しいだろう」と
この気持ちは彼のおかげだと心からそう思った。

9.やっぱり恋だった

公園でであった彼。
見た目は特にイケメンではないし
田舎臭いなまりで喋る
でも、好き。
だって、彼の心はきれいで
やさしく、そして強さを感じるから。
そしていつも私を笑顔にさせてくれるから。

彼は私にとってヒーローだったんだ。
そして、ヒーローがどういうものであったかを
思い出させてくれたんだ。
私の中で何かが変わった。
もう一度、みんなを笑顔にしたい。
みんなを守れる強く美しいヒーローになりたい。

それから私は、もう一度ヒーロー活動をするために
仲間に会いに行く決心をした。
そして、以前のメンバーで活動できるようになったら
必ず彼に「ありがとう」と伝えて告白しようと心に決めた。
毎日が楽しいのは、彼のおかげだから。

ボルト編

10.守銭奴 ボルト

あの頃を時々夢に見る、そうフレアが死んだ日だ。
フレアを死なせてしまった日から、俺は変わった。
なぜなら、人は金でしか助けられないと知ってしまったからだ。
あの時の無力感と怒りは今でも覚えている。
思いやり?優しさ?そんなものは欠点になるだけだ。
金こそ正義、金こそ真実。
金さえ払ってくれればそれでいい。
世の中はギブ&テイク、もらった金額分だけ助けるだけだ。

そんな彼の名は「ボルト」
姿や見た目もすっかり変わりきり
周りからは「インテリヤクザ」と呼ばれるぐらいに
金でしか行動しないボルトがそこにはいた。
今日も金を払ってもらえる見込みのある家に呼ばれて・・・

11.盲目の少女と

「さて、今日の依頼主はここか」
いかにもお金を持ってそうなでかい家だな。と思いながら
門を開けてゆっくりと景色をみながら歩いていると
突然、後ろから何かがぶつかってきた。

何だ?と思って振り返ると
そこには中学生ぐらいの女の子が立っていた
女の子は「ごめんなさい」と謝ると
家とは少し違う方向にあわてて歩き出した。
ボルトはその時に違和感を感じながら女の子に伝えた
「そっちはあぶないぜ?」
女の子は返した
「また、間違えてしまったのね」
「いつもの事なの」
この子は目が見えていないと気がついたボルトは
なぜかこの時、女の子の手を握っていた。
女の子は嬉しそうに
「ありがとう」と言いながら手を握り返した。

12.本心に抗う?

「ありがとう」
女の子からのお礼の言葉に、なぜか心が温かくなった。
今までもありがとうと言われることは
まったく無いわけではなかったが
いつも言われている言葉とは別に
女の子の言葉には違うものを感じていた。

そのまま家について、中を見渡すと
一般的などこにでもある作りであり
決して盲目の子用のバリアフリーな家ではなかった。
女の子はそんな何かを感じたのか
俺にこう言った。
「思っているよりも普通の家でしょ?」
少し焦ったが、そっけなく「そうだな」と返した。
そのまま女の子は話を続けてきた。
「あえて、補助が無いようにしているの
自分の感覚を大事にしたいから」
俺の考えていた事を知っていたかのように
はっきりと力強く言った、そして
「でも、時々自分がどこにいるかわからなくなる時があるの
 だから、さっきすぐに手を握ってくれた事が本当にうれしかったよ」
と見えない目なのに俺に向かって笑顔で伝えてくれた。

俺は、電気ショックを浴びたような感覚になった。
忘れかけていた感情が戻る
相手からの喜び、それに対してうれしいと思える気持ち
心のままに手を差し伸べた事がこんなにも喜びに変わる瞬間だったと

13.改心

世間からはすっかり嫌われ者として生きてきた。
でも、ここに感謝してくれる女の子がいた。
俺はなぜか女の子に10年前の出来事をはなしていた。

静かに話を聞く女の子
口をはさむこともなく、ただ俺のほうを向きながら。
そして、俺の話が終わったとき
女の子は静かに、でも強い口調で答えた。
「私には、10年前のあなたがどれだけ辛かったか
そこからどのような行動をしてきたかは全てを知ることができないけど
今日、あなたと最初に出会ってちっぽけなヒーローには感じなかったよ?」
「もし、たくさんの人から嫌われるようなことを
してきたのだと思うのなら、今から変わればいいだけじゃないの?」
「もう一度やり直すことは決して遅くはないと思うよ
私の手を握ってくれたあなたは、間違いなくヒーローだったから」

女の子の言葉を聞き、俺は完全に目が覚めた。
10年間、俺の中で止まっていた時間が進み始めたのだ。
「ありがとう」
俺は女の子に対していつの間にかお礼を言っていた。
それに対して女の子は
「かっこいいヒーローに戻って、これからもみんなの事を助けてあげなきゃ
私はみんなに、やっぱりインテリヤクザでした!っていいふらすからね?」
そう笑いながら返してくる女の子に
「あぁ、約束する!」
はっきりと力強く答えたのだった。

アクア編

14.アクア、病室の中で

あなたがいなくなって10年の間、立ち直ることが出来ず
毎日をボーっと過ごしていた。ただただ過ぎていく毎日に
ヒーローだった頃の私は消えていくだけだった。
そんな思いの中、病室にいるのは「アクア」

フレアがいなくなってから、私だけではなく
みんなも変わってしまっただろう。
伝説とまで言われた私たちはバラバラになり
何か大切な気持ちまで思い出せず失ってしまった。

それでもみんな自分の道を進んでいる中で
私だけが体まで壊し深い悲しみの中を彷徨っている。
フレアは私の恋人だった。
フレアを支えること、チームを支えることが私の役目であり
生きがいになっていた。
いつでもそばにいて、好きな人を一番近くで助けられる

でも、現実はそんなに甘くはなかった。
肝心な時に何もできなかったと今でも思う。
あの時、私にもっと力があれば・・・
なんて今更なことはわかっている。

そんなある日のことだった
病院から会話が聞こえてきたのだ。
「難病なんかに負けずにみんなで諦めず前を向いて
この病気を乗り越えるんだ!」
誰だろう?と、声のする方向へ向かってみると
子供たちが集まり、その真ん中で元気に笑っている男の子
周りの子供たちが彼をキラキラした目で見ながら話を聞いていた。
病院に入院していると思えないぐらいに素敵な彼を見て
私は、子供たちの様子を毎日見に行くようになった。

15.ヒーローみたいな男の子

あの男の子は、いつもみんなを元気づけて
困った子がいたら、すぐに手を差し伸べる
ヒーローのような存在だった。
ずっとその姿を見続けていたら、不意に誰かと重なった
その瞬間、自分でもびっくりするぐらい自然と涙がこぼれていた。
私が泣いているのを見て「どうしたの?」と
心配そうに集まる子供たち
私は感情を抑えきれずにただ、泣き続けていた。

どれくらい泣いたのだろう
やっと落ち着いて「もう大丈夫」とみんなに笑顔で伝えたとき
自分の中で何かが吹っ切れた事を感じた。
それからも、子供たちは変わらず私と接してくれて
楽しい毎日を送ることが出来た。

16.男の子の不安

そんな毎日を過ごしていた中
ヒーローみたいな男の子の様子がおかしかった。
明らかに元気がない。
私は気になって、男の子と二人きりの時に
「どうしたの?」と聞いてみた。

彼は泣きそうな顔でそっと私に告げた
「僕はどれだけ頑張っても
もうすぐ、死んじゃうかもしれない」
その後、とぼとぼと自分の病室に帰っていった。

その場所にいた看護師に聞いてみたら
男の子は大きな手術があるみたいで
手術前の検査ではあまり良くない結果だったらしい。
ずっと手術に対して不安だったんだろう
そんな中でもみんなを励ましていたこと
一人でその不安と戦ってきたこと

・・・次は私が彼を勇気づけてあげる番だ。
過去にフレアを支えていた時のように
また誰かを助けられるヒーローに戻りたい。

17.足りない何か

私は、病室にいる男の子に会いに行った。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
不安な顔をした男の子がそこにはいた。
私は、彼に伝えた
「手術の事、心配しているんでしょ?
でも大丈夫。かならず成功するわ」
優しく伝えたつもりだった、でもそれは届かなかった。
「大丈夫?何もわかっていないくせに!
なぐさめなんかいらないよ!でていって!」
男の子からきつく言われて、私は部屋を追い出されてしまった。

何がいけなかったのだろうか?
私は、過去の自分の行動を思い出していた。
そうだ、私は冷静に分析をしてから行動をするのが役目だった。
今の状態もわからず、ただ感情だけを伝えてはだめだ。
まずは、男の子の手術について、しっかり調べよう
そう思い、私はすぐに男の子の主治医の元に行き、確認をした。
主治医からは
「医療が進化して、いまなら手術をすることが可能」
「事前の検査で良くない結果がでているのは手術前だから安心して良い」
「男の子は手術をすれば必ず助かる」
これだけわかったら、男の子が不安を感じる必要はない
ちゃんと伝えて安心させてあげよう。

18.男の子と自分に向き合う

もう一度、男の子の病室に行った。
男の子はバツが悪そうに
「さっきは怒ってごめんね」
そう言ってくれた。
私は、男の子に静かに優しく伝えた
「私のほうこそ、何もわかっていないのに
ただ、大丈夫なんて言ってごめんね。」
「あなたの病気の事、手術の事を調べてきたの
安心して、手術をすれば間違いなく病気が治るのがわかったわ」
穏やかな感情が伝わったのか、男の子は
「うん、それはわかっているんだけど、どうしても手術をするのは怖くて」
そんな男の子に私は10年前の話をした。
あなたのようなみんなに笑顔を与えることが出来るヒーローがいたこと
でも、そのヒーローは手術ができなくて今はもういないということ
そして、同じことになってほしくない、悲しむのは仲間だと
真剣に伝えた。
「もう一度いうね、あなたは大丈夫、必ず治るわ」
そう伝え終わったとき
男の子の目に力が戻ったのを感じた。
「お姉ちゃん、ありがとう!ボク頑張って手術を受けるね!」
笑顔が戻った男の子を見て、私もハッキリと思い出した
そうだ、フレアもこんな笑顔を私に見せてくれていた
私は仲間を笑顔にさせてあげたかったんだ。
「こちらこそありがとう、私も頑張るね」
よし、リハビリをはじめよう
決してあきらめない仲間たちの元に帰らなきゃ。

ヒイロ編

19.ガイアを探しに

ヒイロは、一人目のヒーロー「ガイア」を探して
海の近くまで来ていた。
道行く人に伝説のヒーローの居場所を聞き
ようやくここまでたどり着き、会えることに
わくわくする気持ちが抑えられなかった。

地図を頼りに歩いていると、物凄いスピードで
向こうから走ってくる人がいた。
何かと思い視線を向けると、探していた張本人だった
動揺しつつ、早く声をかけないといけないと思い「ガイアしゃん!!」と
大声で呼び止めてみると、走りすぎる瞬間に急スピードでブレーキをかけ
「何か用か?」と聞いてくれた。

本物の伝説のヒーローを目の前に早口になりつつ
ガイアさんを探していた理由と、一緒にきてほしい事を伝えた。

「そうか、行きたいところだが見ての通りこんな体のままでは
役に立ちそうにもないのでな、今から山に修行に行くところだ」
なんと、仙人の元へ修行にいくというのだ
ヒイロは少し悩んだが、1か月以上は家に帰れないと聞いて
ついていくことに決めた。

20.山で修行、そして逃亡

険しい山、山、山、山。
到着まで一体何日かかったのかもわからない
付いた先はいかにも仙人が住んでそうな山の頂上
そこでガイアと共に師匠のもとで修行をすることになった。

今度は修行、修行、修行。
来る日も来る日も同じ修行
ヒイロも最初は「最弱ヒーローから生まれ変わるかもしれない」
と思い、始めて見たもののあまりの過酷さに逃げ出そうと考えた。

そして、二人の目を盗んでまとめていた荷物を片手に
夜中にそっと山を降りたのだった。

一つ目の山を降りたその先には、ガイアがいた
目がばっちりあい、気まずそうにしている中、ガイアは言った。
「逃げたければ、逃げればいい」
ヒイロはびっくりした。
連れ戻されると思っていたから。
しかし、そのままガイアはつづけた
「だが、一度逃げたら何度でも逃げようとする
そして、最後は俺みたいになるんだぞ」と。

21.そして修行がおわり

ヒイロはその言葉をきいて
今までに自分が何度も逃げてきたこと
その後に後悔して成長できなかった自分の姿
過去の自分を思い出しながらガイアを見直したとき
ガイアはどこか悲しそうな顔をしていた
「すいませんでした、戻ります」
ヒイロは逃げようとした気持ちは間違いであると
改めて気が付き、修行に戻った。

修行中、ガイアの過去をはじめて知ることができた
ガイア自らの話にはとても重みがあり
もう同じ過ちは繰り返さないという決意を感じることが出来た。

その言葉と修行から、ヒイロもまたヒーローとして
一歩前進したのであった。

無事に1か月の修行を終え、次のヒーローの元へ行くことを
ガイアに伝えると
「辛い修行によく一緒に頑張ってくれた、ありがとう。」
そう言って、次のヒーロー「フラウ」の場所を教えてくれた。
ボクはお世話になった仙人とガイアさんにお礼を言って山を下りた。

22.かわいいフラウ?

ガイアさんと共に修行をしたボクは
体力や力だけではなく、心までもが強くなったように思えた。
フラウさんに会いに行くと行った時にも住んでいる場所を知っていたりと
仲間のことを今でも把握しているガイアさんは
今も昔もきっと仲間想いの人なんだろうな、と思いながら
教えてもらった事を思い出していた。
フラウさんはみんなのアイドル的存在の
とてもかわいいヒーローだったらしい。
今でもかわいく美しい姿なのだろうと考えながら会うのを楽しみにして
ついに家の前まで来たのだが・・・

ボクの前に現れたのは、かわいいとはかけ離れた
アイドルではないフラウさんだった。
イメージしていた人と違い、固まってしまったボクにフラウさんは言った。
「今、私の事かわいくないっておもったでしょ?」と
ボクは何とも言えない表情で
「いや、そんなこと思ってないですよ」というと
「ウソね」と言われ、ドアを思いっきりしめられた。
呆然としてドアの前で立っていると、
アイドルのステッキのようなものを持ったフラウさんが現れ
ボクにステッキを向け、怒った顔で「おらー」と走ってきたので
ボクは恐怖を感じ、全力で逃げたのだった。

23.逃走から!

全速力で走り続けるボクとフラウさん
先にフラウさんが「ぜーぜー」と息を切らし
ようやく追いかけることを諦めてくれた。
ボクも息を整えて止まっていると
落ち着いたフラウさんは僕に何をしに来たのかを聞いてくれた。
そこで、これまでの経緯を話すと
「ガイアにあってきたのね」
と、懐かしそうにフラウは笑顔をみせた
ボクはフラウさんの元でも何か修行ができないかを聞いてみた。
フラウは少し考えたあと
「わかったわ、でも逃げ出すんじゃないわよ」と
天使のような悪魔のようなほほえみでOKをくれたのであった。
いったい何が始まるのだろうか?
ボクは少し後悔した・・・

24.フラウとの修行開始

そこからフラウさんとの生活が始まった
はじめて見たときは可愛いとは思えなかったが
完全に落ちぶれていた訳でもないと感じさせる
心に秘めているオーラのようなものがあった。

フラウさんの生活は早起きで規則正しかった。
朝は決まって公園に散歩
ボクはなぜか「ついてこないで」と言われ
行かせてもらえなかったので
その間は外で筋力トレーニングを欠かさず行っていた。

フラウさんは一人で生活が長かったのか
家事全般は得意なようで、そつなくこなしていた。
「筋肉をつけるだけではヒーローになれないの」
そう言って家事を修行として
掃除から始まり、料理の作り方までボクは叩き込まれた。
なるほど、家事も必要だと・・・
ちょっとわからないところもあったが
素直に覚えることにした。

25.フラウの過去から現在へ

そんなある日の事、フラウは話をしてくれた
最近まで不摂生な生活で肌もボロボロだったこと
でも、まだヒーローをやり直したいという思いから
今は自分磨きの最中だということ
そういえば、最近は少しやせてキレイになったように思える
ボクたちは少しずつ変わっていけるという事が
フラウさんをみてわかった気がした。
こうして一か月が過ぎた。
フラウさんはアイドルと言われていたこともあって
見た目に関する助言もしてくれた
背筋を伸ばし、いつも笑顔でいることが
自分もみんなも幸せにできるという事だった。
フラウさんはそう言いながらボクの
髪型や服装も整え直し
「次の仲間にもよろしくね」
そう伝えてボクを見送ってくれたのだった。

26.逃げの一手

ボルトさんに会いに向かっているものの足取りは重い。
というのも、お金しか動かない人だという事を
ヒーロー界の間でも噂になっていたからだ。
正直、怖い。まぁ、命の危険性は無いと思う・・・たぶんだけど。
フラウさんからだいたいの場所を教えてもらった
ガイアさんもフラウさんも仲間の場所を知っていることはすごいと思った。
解散した今でも絆があるように感じて、なんだか温かい気持ちになれた
だから、きっとボルトさんも変わってしまったとはいえ
10年前の姿がまったく無くなってしまったわけではないだろうと
そう思い、一歩一歩前に進んで目的地に向かった。

そして、ボルトさんがいるというビルの前までたどり着いた
きょろきょろしていると、後ろから「誰だ?」と声をかけられた。
「すいません!」反射的に謝るボク
「誰だ?と聞いているのに何で謝るんだよ!」
ボクは・・・怖くなって全速力で逃げた。
後ろからは「おい、ちょっと、待てよ!」
という声が聞こえたが、立ち止まったら終わりだと思い
必死に走るボク
でも、つかまった。
さすが元とは言え伝説のヒーロー
物凄い速さで首根っこをつかまれてしまったのだった・・・

27.みんな今までありがとう

もう、今日が命日になるのだと震えて振り返ると
そこには思っていたよりも落ち着いた
少しヤンキーのようにも見える男の人がいた。
この人がボルトさんではないかと思い
おそるおそる「ボルトさんですか?」と聞いてみた。
すると「そうだけど?」と返ってきたので
やっぱりボルトさんなんだと思い直した。
「で、お前は誰なんだ?」と聞かれ
ヒーローであること、今までの間にガイアさんとフラウさんに会って
修行してたことなどを話し、ようやく納得してもらった。
そこからは話が早かった、とくに何も伝えなくても
「ついてこい」と言われ、雑用係としてこき使われることになった。
買い物や洗濯などフラウさんに教わっていなかったら出来なかっただろう
重いものや、何かわからない荷物を運ぶことも
ガイアさんとの修行がなければ
体力も筋力もなかったボクには難しかっただろう
二人から教わったことと一緒に学んだ事が役に立ち
幸いながらもうれしい気持ちになった。

28.雑用から昇格

ずっと雑用係として過ごしていたが
このままではいけないと思い、ボルトさんに
「ヒーローとして、お手伝いできることはありませんか?」と
尋ねてみた。
するとボルトさんは「ある。でもお前に出来るのか?」と聞かれた。
ボクはやってみないとわからないと思い
「無理だと思われていることでも全力でやります!」と答えた。
ボクのやる気が伝わったのか、ボルトさんは「わかった」と
首を縦に振ってくれた。
思いは言葉にしないと伝わらないと改めて思った瞬間だった。

そこからは、ボルトさんが今行っている仕事のすごさや
難しさを知ることになった。
何を運んでいるのかわからなかった荷物
これらは全てヒーローの仕事に関するものだった。
ボルトさんはもう一度ヒーローとして活動するために
勉強をし直し、今まで稼いできた全ての資金を使って
困っている人たちを助けるために膨大な計画を立てていた。
そうとも知らずに、ただ雑用ばかりをやらされていると思っていた
自分が恥ずかしくなった。
それから少しずつ、色々な手伝いを任されるようになった。

29.ボルトさんからの教え

1か月を過ぎたころ
ボルトさんからヒーローとしての活動について
お金だけの為に動いてきた自分は間違っていたこと
ほかの過去の過ちについても全て話してくれた。
そのうえで「決して、優しさだけでは成功しない」
という事を教えてもらった。
ボルトさん自身の10年間の経験から語られた言葉には
すべて重みがあり、二度と同じような事は起こさないという
信念を感じた。
そんな話を聞いて、ボクはボルトさんは間違いなく
たくさんの人を助けられるヒーローになると感じることが出来た。

全ての準備が整い、手伝える事がなくなって来た頃
ボルトさんからアクアさんに会いに行ってほしいと頼まれた。
ボクは最後のヒーロー、アクアさんに会いに行くことになった。

30.優しさの象徴、アクアとの出会い

ボルトさんが教えてくれたアクアさんの元にボクは行った。
10年前のことについて、誰も多くの事を語ろうとしなかったが
アクアさんが病院で10年もの間入院していることを聞いて
フレアさんの死に関係してるんだろうと感じていた。

アクアさんがいるという病院に着き、どの部屋にいるのか
看護師さんに聞いてみたところ
最近退院して、今は難病の子供たちが入院しているフロアに
いるという事を教えてもらった。
その場所に行くと、子供たちの元気な声と共に
優しく温かい声で楽しそうに話をする女性がいた。
ボクは確認をしなくてもその人がアクアさんだとわかった。

31.アクアのやさしさに触れて

アクアさんはボクに気が付くと
初めて見る人だと不思議そうに見つめていたが
ボクが挨拶をして、これまでに3人の伝説のヒーローに
出会ったこと、アクアさんに会いに来たことを伝えると
少し驚いた表情と共に、この時を待っていたというように
「よく来てくれたね、ありがとう」と
笑顔でボクを迎えてくれた。
そして、子供たちにボクのことを紹介してくれて
ボクにも一人ずつ子供たちのことを教えてくれた。
そのおかげもあり、子供たちとも仲良くなり
アクアさんがみんなから好かれ、信頼されていることが
伝わってきた。

32.アクアの決意

アクアさんはこの病院の子供たちの力になりたいと
日々みんなを見守り、体調管理をしていた。
ボクには、病気について勉強し治療を受けるための
支援をおこなおうとしていること
そのためにはたくさんの課題や問題があり
一人の力だけでは叶えられないことだからこそ
もう一度10年前の仲間と集まり、
みんなの力を合わせてたくさんの人を助けたい
ヒーローとしての活動を再開させたいと思っていた時に
ボクが来てくれて嬉しかったということを
順番に話してくれた。

そして、アクアさんからもう一度過去のメンバーで
集まれるように今から声をかけてほしいと頼まれた。
ボクはみんなの力になりたいと思い
快く提案を引き受けたのだった。

33.過去について

ボクが他のメンバーに声をかけに行く前に
アクアさんは10年前の全ての事をはなしてくれた。
特に、フレアさんの事について。
フレアさんはアクアさんを助けるため無茶をして
その後に病気になり、仲間で力を合わせたものの
救えずに亡くなってしまったという。
アクアさんは自分のせいで死なせてしまったと思って
ずっと10年間自分を責め続けてきたらしい。

今はフレアさんのおかげで生きていることができて
とても感謝している
だからこそ、もう一度ヒーローとして活動し
たくさんの人を助けたいとアクアさんは伝えてくれた。
その話を聞いて、ボクはもっと力になりたいと
心の底から湧き上がる思いを感じた。

34.仲間を集めて、そして・・・

ボクは伝説のヒーローから、数々の大切な事を学んだ
最後にアクアさんに教えてもらったフレアさんは
本当の強さや優しさ、思いやりの心をもったヒーローなんだと
それを知ることが出来て本当に幸せで
もっと成長して、このことを多くの人に伝えていきたいと思った。

ボクはボルトさん、フラウさん、ガイアさんのところに行き
アクアさんがみんなに会いたいので来てほしいということを伝えた。
3人は集まることをすぐに了承してくれて
準備をしてアクアさんの元へ向かってくれた。

その後4人は10年ぶりに再会し
それぞれがヒーローとして、もう一度活動したいという思いを
持っていることをお互いに確認した。
ヒーロー活動が再開されることを4人はとても嬉しそうで
その姿を見ていたボクはとても誇らしい気持ちになった。

ヒーロー編

35.ヒーロー活動再開!

少し前までは、伝説から落ちぶれたヒーローとして
みんなに忘れられていったかもしれない。
でも、今はみんなが立ち直り、この先どんな事があっても
フレアさんの分までたくさんの人を助け
どんな困難も仲間で協力して乗り越えていけるだろう
ボクも負けていられない。
一人のヒーローとして強く優しく何があっても諦めず
これから起こるであろう困難に立ち向かい
多くの人を笑顔にさせて、幸せにできるような
そんなヒーローになりたい。
「なりたい」ではなく「なるんだ!」と
ボクは心の中で決意をしながら
自分のヒーロー事務所に帰ろうと扉に手をかけた。

36.5人目のヒーロー、スカーレット

「おい、どこにいくんだ?」
ボルトさんに呼び止められた。
「もともと、ボクはみなさんに助けてもらおうと来ましたが
自分の力で乗り越えようと思ったので帰ろうかと」
「だから、どこへ帰るんだ?」
「え?」
「いまからお前も一緒に活動するんだよ、一人で帰るなよ」
とボルトさん
「まだ、教えてない事色々あるけど?」
とフラウさん
「その体で一人前と思っているのか?」
とガイアさん
急にみんなから言われて慌てるボク
そこに、アクアさんが優しく話しかけてくれた
「前と同じようにヒーロー活動を行うのに
どうしても一人足りないの
もしよかったら、一緒に活動しませんか?
スカーレットさん」
「ボクではまだ役に立てないですよ・・・」
そう言って逃げようとするボクの前に
いつの間にかボルトさんが立ちふさがっていた。
「お前が頑張っている姿はあいつと被るんだよ
同じような赤色のアイツとさ」
アイツ?だれだろう??
「俺もそう思っていた。」
「あら?私もよ」
ガイアさんとアクアさん
「本当にいいんですか?」
ボクはドキドキしながら言った。
「スカーレット、あなたの頑張っている姿はフレアと一緒ね。
そんな素敵なあなただから、みんなは一緒に活動したいのよ」
アクアさんが優しく微笑む
「ふんっ!まだまだ未熟だけどな!」
ボルトさんはそういってニヤッと笑顔を見せた。
ボクも一緒に活動できるんだ!
湧き上がる熱い思いが胸いっぱいにあふれてきた。
「みなさん、これからもよろしくお願いします!」

エピローグ

37.ボクの名は

そう、ボクの名はスカーレット
これは弱小ヒーローだったボクが
落ちぶれていた伝説のヒーローたちと
出会い、そして共に成長する物語
「過去の自分を超えていく、ボクたちの物語だ」


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