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「Creative Leadershipとは『発酵する学び』である」 小田裕和さん

私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただきました。これまで受講されたアラムナイ(同窓生)の方々に登場いただき、受講のきっかけや見つけたクリアボイス※、受講後の変化についてお話を聞いていきます。

※クリアボイスとは
「クリアボイス」とは、リーダーとして自分はどうありたいのか、 内側から湧き上がってくる想いに向き合い、言語化すること。「迷いなき“クリアな声”」に由来してネーミングされています。クリエイティブリーダーシップのプログラムでは「クリアボイス」を見つけていく過程で、人々が内省を深めながら、自身が背負う「べき論」と「本音」を識別し、例え心地悪くとも「本音」に徹底的に耳を傾け、自分の信念を見つけ、そこから発せられる「クリアボイス」を見つけていきます。

今回は、これまで「Creative Leadership」のモジュール1・2・3すべてを受講してきた小田裕和さんにお話を聞きました!

●お話を聞いた方

小田裕和(おだ・ひろかず)さん
株式会社MIMIGURI デザインストラテジスト/リサーチャー
co-nel: 代表|株式会社MIKKE 社外取締役
千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了 博士(工学)

「考えたり作りたくなる気持ちを孵化させる、場や道具のデザイン」をテーマに、事業開発から組織開発まで、幅広いプロジェクトのコンサルテーションやファシリテーションに取り組む。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)『アイデアが実り続ける「場」のデザイン 新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ』(翔泳社 2024年5月刊行)がある。

●CLを受講したことが学生時代の一番の投資に

私は2016年に「Creative Leadership(以下、CL)」のモジュール1を受講し、その後、2017年にモジュール2、2019年にモジュール3と、3つのモジュールをすべて受講しました。

当時の私は大学院の博士課程に上がったばかり。先生から言われて大学内のプロジェクトベースドラーニング※1(PBL)において、見よう見まねでワークショップのファシリテーターをしていたころでした。

※1 課題解決型の学習方法のこと。グループワークなどを通して、数名で特定の課題解決に導く。企業や団体と連携しながら学習を進めることもある

それまでワークショップなどの「場」を作るための勉強は、完全に独学。試行錯誤しながらファシリテーションを行っていたのですが、次第に「きちんと学びたい」と思うようになりました。私がデザインしたワークショップが、参加する後輩たちにとって本当によい学習機会になっているのか、疑問に感じ始めたのです。というのも、後輩たちに結果を出してほしいという願いから、いつの間にか「この通りにやればうまくいく」という流れを作ってしまっていたのです。それは正しいことなのかと、モヤモヤした想いを抱えていました。

そんなとき、第1回のCLに参加した知人がFacebookに投稿していたのを見て、直感的に「これはよさそう」と感じました。世の中に「ワークショップでよいアイデアを出させる方法」のような講座はたくさんありますが、CLは場作りに必要なリーダーの在り方を体感できるところだと感じたのです。
大学院生の身には高額な受講料ではありましたが(笑)いま振り返ってみると、CLを受講したことが学生時代の一番よい投資だったと思っています。あのときにCLを受けていなければ、今のような仕事(事業開発や組織開発などの案件のコンサルテーション、ファシリテーション)はしていなかったでしょう。

●沈黙の時間=内なる声を聞く時間と知る

モジュール1を受けたとき、チェックイン※2の段階から驚かされました。当時はデイヴィッドとクリスターがファシリテーターで、思いついた人から話すポップコーン形式だったのですが、ものすごく静かで「どうするんだろう」と不安になるほどだったのです。

当時、日本で行われていたワークショップでは大抵、ファシリテーターが「〇〇さんから話しましょうか」と促すことが多かったのですが、どんなに静かでもデイヴィッドもクリスターもニコニコしながら見ているだけ。チェックインだけでけっこう長い時間がかかったのですが、私は次第に沈黙の時間が心地よく感じ始めました。

※2 ワークを始める前に参加者どうしの状況を共有したり、気持ちを整えたりする場。「今日期待していること」「今の気持ち」などのお題を投げかけられることが多い

沈黙の時間はすなわち、考えていい時間なんですよね。それまで私自身、発話を促すようなワークを後輩たちに行っていましたが、自分でもそれに違和感がありました。話を振って「話をさせる」ことが、どうも居心地よくなかったのです。でも、デイヴィッドたちのファシリテーションを目の当たりにして、こんなやり方があるのかと驚きました。沈黙の時間は、自分の内なる声を聞く時間。各人が、内なる声に耳を傾けたうえで出てくる発話って、ちょっと質が違うんですよね

ただ待っているだけで、一人ひとりの感情がこんなにも出てくる瞬間があるのだと体感したのは大きな出来事でした。これは非常に印象的で、ワークショップの最後に「今回のCLでもっとも印象に残ったこと」を問われた際に「サイレンス(沈黙)」と答えたほどです。

それから、デイヴィッドとクリスター、ふたりのスタンスにも感銘を受けました。まず、ふたりとも体が大きい(笑)。大きいゆえに、どっしりと構えた安定感があります。

ファシリテーションにおける身体性の重要さに初めて気づいたのは、このときでした。ふたりとも強い想いを持っている方ですが、自身の思想を押しつけることはありません。あくまで自分のスタンスの中でどっしりと構えて、その場から何が出てくるかを待つ。そして、出てきたものを歓迎して楽しむ。それはとても自然体で、ファシリテーターに必要なスタンスとして大きな学びとなりました。

●CLはいわば「発酵していく学び」

CLは、学んだことがすぐに実生活で役に立つと期待して参加すると、消化しきれないように思います。受講したときに感じたことを、実際の仕事のなかで発揮するには時間がかかる。

でも、受講後に感じたことをひとつのレンズとして、そのレンズを通して今を見つめ直すと、さまざまな経験や状況に対する解釈がふくらんでいき、柔軟性が増していきます。すぐには言語化できなくても、誰かに語ってみたり、書き出してみたりするたびに新たな発見があり、少しずつ形を成していくと思います。

だから、CLのことは「発酵していく学び」なんだと捉えています。数年の間、何度となく自分を見つめ直すなかで、当時感じたことが発酵していき、実践につなげられるようになりました。

受講前、私はプロダクトやサービスの意味を問い直していくようなワークショップを開催していたのですが、「何を言っているのかわからない」と言われることも多かったのです(笑)。でも、試行錯誤していくうちに「何を言っているかわからない」と言われることが減っていきました。おそらく僕なりに言語化ができたんでしょうね。

受講から6年ほど経ったころから少しずつ、CLで「ああいう場作りがしたい」と感じたことが体現できるようになりました。たとえば、ワークショップの場で誰かが「〇〇が好きです」と言ったとき、以前は「なぜそれが好きなんですか?」と聞いていました。でも、自分が熱量を注ぐ好きなものとか、わき出てきたアイデアとかは、外から影響を受けて入ってきたものが元になっていることもあると感じるようになりました。

だから、去年くらいから問いを「WHY」ではなく「WHERE」に変えたんです。「その好きだという気持ちは、どこからやってきたんですか?」と問いかけることで、参加者が自分の内側に関心や意識を向け、自分をリードできるようになると思います。このアプローチは8年かけて発酵していくなかで出てきたものです。

●CLで体感した、人間同士の関わりの重要性

CLで感じたことは、ほかにもさまざまな思考につながっています。

グループごとにプレゼンテーションを行うワークがありました。そのとき、あるチームが「私たちのプレゼンで面白いところがあればフィードバックしてください」と言っていたのが印象に残っています。

これは特にクライアントワークの際に、大切な感覚だと思います。私は組織開発のコンサルタントをしていますが、日本ではクライアント側にいる意思決定者の個人的な意見を聞くことがあまりありません。でも、人間同士として向き合って一人ひとりの話をよく聞くと、それぞれ葛藤を抱えていて、その想いを分かち合うことで信頼関係が築かれます。そこから始めることが重要だと感じるようになったのも、CLでのワークの影響もあったのだと思います。

また、最近は「ケア」という考えにも着目しています。マシュー・リップマンという研究者が「探求する共同体には『創造的思考』と『批判的思考』と『ケア的思考』の3つが必要だ」と書いているのを読んで、CLはまさにその共同体だとハッとしました。(引用:マシュー・リップマン『探求の共同体 ─考えるための教室』(玉川大学出版部))

CLはいわゆる「批判はNGのブレインストーミング」のようなものではありません。モジュール1で体験する「クリエイティブ合気道」が良い例ですが、新しい見方を相手に提供するという意味での「批判」を行う場合もあります。手を動かし、体を動かしながらの創造的な思考も行いますし、自分の内なる声に耳を傾けることは、まさしく心のケアだと思います。

なかでも「ケア」すること――自分をケアするだけでなく、相手からケアの意識を向けられること――は今後の社会で重要なテーマになると感じています。ケアし合う関係性を作っていくことがコミュニケーションを深めるためには重要です。CLを通して気づいたこのテーマを、これからさらに発酵させ、深めていきたいと考えています。

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次回Creative Leadershipのプログラムは、2024年10月に開催を予定しております。ぜひチェックしてみてください。

Creative Leadershipプログラム開催予定
10月:対面で学ぶコース

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