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「マーマー、パパが誘拐されたって。お電話きてるよ。」

私がまだ小1くらいの時だった。家に一本の電話がかかってきた。

男:「お母さん居る?」
私:「はい。どちら様ですか?」
男:「おじさんはね、お父さんの知り合い。今ね、お父さんはここにいるの。手足が縛られて、口も塞がれて喋れないの。お父さんを誘拐したの。」
私:「少しお待ちください。(2階にいる母に向かって大声で)マーマー。パパが誘拐されたんだってー。お電話きてるよ。」
母:「えええーっ?!?!(2回から飛んでくる)。もしもし?どなたですか?夫を誘拐って本当ですか?今どこなんですか?」

携帯電話もない、家の電話だけが唯一の連絡手段だった時代。
母と男は結構長く話していた。
一度電話を切った。
母はその男から、「警察に言ったら夫の指を切り落とす」と言われたらしいが、切って1秒で警察に電話してた。

すぐに警官二人がやってきた。

母が言うには、
・男の声が夫の弟に似てたので、ふざけて電話してきたのかと思った。(叔父は一体どんな人だと思われてるんだw)
・でも違った。
・奥さんはヌード写真撮れるか、と聞かれたので、全然撮っていいと言った。
・要求をハッキリ言わない。
・夫の声を聴かせてと頼んだが応じてくれなかった。
・またかけると言われて一方的に切られた。
・「夫の指を切る」なんて脅迫してくるということは、夫がピアノを弾くことを知っている人だと思う。

警察:「ご主人と連絡取れませんか?」
母:「連絡はいつも取れないんです。どこにいるか分からないんです。帰ってきたい時に帰ってくるんです。」(←寅さんかよ)
警察:「あーそーなんですね…。ご主人に何かトラブルはありませんでしたか?」
母:「女性関係のトラブルはしょっちゅうあります。ただ仕事関係にはキレイな人で、人を騙したり裏切ったりは決してしない人です。」(←信用してるんだかしてないんだか分かりにくいw)
警官:「はぁ…。。では女性関係での怨恨ですかね。要求を言わないあたり、ただの嫌がらせかもしれないですね。」

男から電話がかかってきた。スピーカーで会話が聞こえる。
男:「警察に電話してねーだろうな。」
母:「したに決まってるでしょw夫が誘拐されて警察に電話しない人なんているわけないでしょ!(母のエンジンがかかってきた)。大体ね、何のためにこんなことしてるんです?私のヌード写真?帝王切開の痕もしっかり残ってるから、さっさと撮りに来なさいよ。それと指を切るなら足の指にしなさいよ!」
警官:「……」
男に喋る隙も与えないまくし立てっぷりに、警官もドン引いてた。

母はとても気が強いから、こうなる展開は予想してた。電話口で「あなたー!!無事なのー?!(号泣)」なんて展開になるわけなかった。

警官が母から受話器を取り(取り上げ)、電話口に出る。
警官:「〇〇署の者です。先ずご主人の無事を確認させて下さい。あと、具体的な要求は何でしょうか?」
男はずっと黙っている。
警官:「もしこれがイタズラなら、今すぐ辞めなさい。今辞めれば、ただのいたずらで済む。そうでないならすぐに本格的な捜査に入る。」

電話はガチャリと切れた。

警官が言うには、以前、三井物産マニラ支店長の誘拐事件があって、指を切り落とすなどと言ってるあたり、その模倣犯ではないかと。実は最近、都内でちらほらあるのだと言ってた。
ピアノを弾くから言ったのではなく、たぶん偶然だと。

怖い夜だった。と思う。(そこははっきり覚えていない)

父が帰ってきたのは2日後。
無傷。
なぜか日焼けをしていた。
友達と大勢で北海道にゴルフ言ってたらしい。
母激怒。
「なんで何も言わないで行くのよ!連絡先を教えてっていつも言ってるでしょ!」
「いや言ったよ。」
「いつ?!聞いてないわよ!」
「いつ言ったかは覚えてないけど、言ったのは覚えてる。」
「言った相手は私じゃないでしょそれ!!」
「んなわけないだろw」
「そんなわけあるでしょあなたは!!」

度々、修羅場を迎える我が家。

父:「そもそも俺が誘拐なんてされるわけないだろ~(笑)ドラマの見過ぎだろw」

火にハイオクを注ぐ父。

しかしあれは一体何だったのか。やっぱりイタズラだったんだろうな。
あの男からは二度と電話がかかってくることはなかった。

しかし、あれがマジな誘拐だったらと思うとゾッとする。。

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