ゾンビ映画みたいな

黄:旅行の準備でさ、着る服入れてくじゃん。カバンに。

緑:うん。

黄:でさ、途中で「うわ、これ入らんな」とか思うんだけど、とりあえず詰めていって。で、おしギリギリ入りきった、ってところで「あ、帰りにお土産入れれないじゃん」となるのよ。

緑:計画性がないね。

黄:そう、計画性が無くて。で、結局大きいカバン探すんだけどね。…実家で久々に開けたカバンって、全然覚えてないレシートとか入ってるよね。全然関係ないけど。

緑:ムズイ折り紙広げたあとみたいな、尋常じゃない斜めの折り線入ってるレシートね。なんか愛おしいやつ。シワシワの。

黄:だね。でね、計画性。スーパーで買い物する時も、「これぐらいなら手で持てるかな」って素手で持ってウロウロするんだけど「うわ、パン安いじゃん!」とかなって、結局手で持ちきれなくなるのよ。

緑:計画性もそうだけど、大人なんだから小物買う時もカゴ使いなよ。なんか、恥ずかしい。銭湯のロビーでフルチンの人にも言いたいね。「大人だろ」って。「小さい手間はワイルドだから省きます〜」じゃないのよ。周りの人の、レジの人のためだから。タオルを腰に巻いて、カゴを持って歩くのが大人なのよ。

黄:同時にやっちゃダメだけどね。スーパーではタオルだけじゃダメだけど。なんかごめんなさい。で、途中で「やっぱりカゴいるな」と商品を持ったまま入り口のカゴ置き場に行くんだけどさ。この時に、ちょっとだけゾンビ映画気分を味わっているワケですよ、私は。

緑:…ん?なにが?

黄:分からない?ヒントなしでたどり着いてほしいなぁ〜。そしたら、とっても友達って感じがする。

緑:嫌だなぁ〜、気持ち悪い。えぇっと、手で商品待って、カゴを取りに行く時に、ゾンビ映画気分?意味わからないな。メタファー?

黄:やめてよ、恥ずかしい。大人になったらカゴを持つし、タオルを腰に巻くし、堂々とメタファーの話をしないよ。ヒントなしで行こう。

緑:分かったわかった。待ってね…あ、あれか、商品持って入り口に向かってるから、万引きだと勘違いした店員が追いかけてきて、それがゾンビみたいに見える?

黄:惜しい!大人に追いかけられること、そうそうないからね。確かに「万引き…?か?違うか?でも、あれ、一応声かけておこうか…?」という大人の逡巡が足取りに現れた時、それはゾンビさながらのステップなのかもしれない。

緑:分かんないわ。惜しいの?

黄:正解はね、なんかこうゾンビで荒廃した世界で、人類が街中にいないの。そこで、生き残りの自分が、食料を手に持って、そのまま外に出る感じ。もう会計とかじゃないからね?人類がほとんどいないから。結局は入り口のカゴに商品入れて店内に戻るけど、入り口に向かってる時だけは、なんかゾンビ映画のワンシーンみたいだなって。

緑:なるほどね。惜しかったね、確かに。…それで?

黄:そんな気分だ、って、言いたかっただけ。

緑:あぁ、そうか。「それで終わり?話の計画性もないな!」みたいな一言で、ビシッと決めたいところだけど、普通の会話で起承転結、伸身の新月面が描く放物線が栄光への架け橋ですけども?と言わんばかりのビシッと計画性のある話されても、少し冷めるよね。

黄:だね。

緑:では、行ってきます。

黄:はい、行ってきます。

緑:いってらっしゃい。

黄:はいはい。

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