失敗するのよ、失敗しないマジシャンは。

黄:すごく悩んでいてね。どうすれば良いのか。

緑:ほう。

黄:例えばね、そこそこ可愛いアイドルの子がいて、「私、全然モテないんです〜」と言うじゃない。そこそこ可愛いのに。

緑:そこそこ可愛いのが、一番モテると伺ってるからね、こちとら。

黄:そう。でも「モテないんです〜」と言うわけ。そういう子はさ。

【自分って、全然モテない!】
…と思ってる自分が可愛いんだろ!どうせ!

とか、思われちゃうわけじゃん。そのアイドルがどう考えてるかどうかは関係なく、発言をこっちが勝手に咀嚼し直しちゃうんだよね。

緑:かじってない串揚げを二度づけされるような感じだよな。

黄:ちょっとその例え分かんないけど、要するに裏に回り込まれて、回り込まれて、解釈されちゃうわけよ、そういう発言っていうのは。

緑:まぁ、真意は分かんないけどね。うがった見方はされちゃうよね。

黄:そうなのよ、で、僕は今、そんなアイドルの気分を味わっているわけ。

緑:ソースじゃなくて、串揚げの方だ。

黄:ちょっとその例えよく分かんないけど。あの〜、マジシャンっているじゃない?

緑:いるね。ミスターマリックに、トランプマンに、米村でんじろう。

黄:最後のはマジシャンじゃないね。あと、あんま苗字ちゃんと呼ぶ人いないけどね。でね、マジシャン見ていて歯痒いところがあって。例えば「私が念を込めて指を鳴らすと、あなたが先ほど選んだカードが山札の一番上にワープします」ってマジックだとすると。

緑:よくあるやつね。

黄:まぁ、カード選ばせるじゃん。覚えください、とか言って。で、山札に戻してシャッフルするわけよ。で机に置いて、あとは指を鳴らすだけ。で、僕は「鳴らさなくていいじゃん」って思うのよ。「あとは指を鳴らすだけ」で、トランプにもう触らないなら、もうマジック完了してるわけじゃん。鳴らそうが鳴らさまいが、もう一番上に来てるんだよ。もう準備完了なわけ。

緑:まぁ、たしかに。指を鳴らすっていうのは、ただの演出の部分だからね。

黄:そうなの。別に指の摩擦熱とか、空気の振動とか、マジックのタネに関係ないじゃん。トランプシャッフルする時とか、そっちでしょ?タネがあったのは。だから、別に鳴らさなくていいわけよ。

緑:分かるけど、なんか冷める意見だなぁ。

黄:あと、マジシャンが失敗するパターンあるでしょ?「あれ、さっきのカードと違うじゃないですか!!」とか責められて。

緑:で、「本当のカードはあなたの胸ポケットに」みたいな、どんでん返しのやつ?

黄:あれも見てられないのよ、僕は。本当に失敗した時の顔してないんだもん。「ヤッバイ、1万円落とした…」って言う時の大富豪の顔してるでしょ、アイツら。恥ずかしくて。親戚の子のお遊戯会ですよ。

緑:例えを2つも同時に使わないでくれ。そんな大富豪見たことないからわかんないし、親戚の子のお遊戯会に行くな。わざわざ。

黄:で!!!!!そこで!!!!!!

緑:うわ!何、急に。

黄:ここで僕は、串揚げの気分なわけです。

緑:え、なに?串揚げ?さっきの話?俺が出した例えだけど、俺ももう使い方忘れてるから、やめてよ。

黄:要するに、「マジシャンの失敗が見てられない」って話をするとね。

【俺、物事の裏側見えちゃってます〜】
…と思われたいだけだろ!どうせ!

と、回り込まれてしまうわけよ。

緑:まぁ……俺もそう思ったかな。斜に構えてんな、と。

黄:でしょ?でも俺は「生理的に恥ずかしくなる」って話をしているだけなのよ。「俺のこの視点、斬新でしょ〜物事を斜めに切りまくるぜ〜」じゃないの、決して。でも勝手に、二度づけされちゃうわけ。

緑:まぁでもね、俺は今の話聞いてて、思ったよ。

黄:なに??

緑:今どき「二度づけ禁止」を“ウチの強い信念“みたいな口調で掲げている店は、なんか見てて恥ずかしいね。【ウチの遊園地のウリは「身長制限厳守」です】とか言われてもさ、それは「こだわり」じゃなくて「ルール」だろ?と。「は?うるせぇ」と思っちゃうわ。だいたい、個人のこだわりやヤリガイが無い人に限って、ルールとか規則とか、そういう無機質な柱にすがるんだよ。恥を知ってほしいね。でしょ。

黄:……なに、急に?

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