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美味しすぎない「欲ばりセット」

この店は、どこからコーヒーを卸しているのか。その意味合いはたったそれだけであり、むしろどこのコーヒーだからその店が特別に素晴らしいと言う印ではない。

なのに、キーコーヒーの鍵の画を見ると安心するのは何故だろうか。

謎の安心感

大変失礼な言い草になってしまうが、この看板が出ている店が「美味すぎる」なんてことは経験上ほぼ無い。当然、全部では無いのだが恐らく無いだろう。

カウンターを中心とした雑多な店内

そして、こういう店で初っ端からカウンターに座るのは、流石に難易度が高い。ありがたいことに店もそろそろ空く時間だった。4名ほどが座れるであろうテーブル席にドサっと座る。4席あるテーブル席のうち、ひとつは先客があり、もうひとつは予約席の札が立つ。奥まった場所にある卓には、備品が山積みだった。

令和に珍しい喫煙可の店内

コーヒーの出し殻なのか、それとも園芸用の土なのかが入れられたガラスの灰皿が置かれる。今どき珍しい愛煙家にやさしい店内からは、食後の一服の香りが揺らいでくる。

メニューを見る限り「欲ばりセット」がどうやら推しらしい。スパゲティとピラフがサイドを固め、メインはハンバーグとトンカツ、チキンカツから選べる。店の冠にあった「ハンバーグ&Coffeeの店」を信じてハンバーグを選ぶ。スープとドリンクも付くらしい。至れり尽くせりじゃないか。

箸からナイフまでカトラリーも欲張り

よしおしぼりで手を拭こう。中身は渇いている。幸先がよい。

わんぱくな見た目の欲ばりセット

運ばれてきた皿からは、それぞれのメニューがそれぞれの主張を強めにしてくる。サラダには、市販品ではあるものの、豊富なドレッシングから選んでかけることができる。

名バイプレイヤーのみで構成されたラインナップ

この欲ばりセットを目の前に、キーコーヒーの看板を見たときにはなかったワクワクが湧き上がる。カロリーゼロのコールスロー用ドレッシングを野菜にかける。シェフの味わいを知る必要も無いだろうと、早々にナポリタンにはタバスコをかけ、粉チーズを振る。

…と、粉チーズが出てこない。底に僅かに溜まったチーズをこそぎ落とすように、テーブルの角にカンカンとぶつけて塊をほぐす。

「あら?粉チーズ無くなってましたか?気がつくと無くなってるんですよね」

カウンター越しにママがはにかむ。とは言え新しい粉チーズが運ばれてくる様子もないので、また筒の部分の中頃を机の角に打ちつける。まあ十分に一食分ぐらいのチーズがナポリタンに降り掛かった。

カラオケ一曲200円

ふと顔を上げると、モニターの横にカラオケ一曲200円のPOPを見つける。昔の名残かと店内を見回すと、今どきの通信カラオケが鎮座する。予約席に、シンクロの鬼コーチのような見た目の老婆が腰をかけた。

箸を進める。料理が得意な友だちの母親がつくったような、馴染みは無いが不思議と懐かしい味がする。視線を変えるたびに見つかる刺激的な風景。なんとなく皿に盛り付けられたメニューも皆幸せそうだ。食べるに連れて、昭和の味ってマーガリンの味だったんだなと気づく。トランス脂肪酸が徐々に胃に膜をはる。食後のコーヒーぐらいでは解決できないレベルで膜をはる。

壁の色がマーガリンの色

食後の精算時にママが話しかけてきた。

「粉チーズ無くなってましたか?気がつくと無くなってるんですよね」

この話、なんとなくさっき聞いた気がするが、話しを合わせ笑って帰路に着く。奥まったテーブルにはキーコーヒーの出し殻が干されてあった。運転する車内で胃のもたれに襲われる。この原因はあの店の独特な雰囲気に寄るものだろうか。それとも大量のマーガリンに寄るものだろうか。何にせよ、店内に会話が戻ってきた暮らしがありがたい。

そして、令和の子らはマーガリンの味を知らないのかもしれないなと不安になる。


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lada
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