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仕事が、楽しみだ

先日、新しい取引先の社長と面会をした話。

かれこれ20年、ハウスメーカーの下請け工事店として続けてきたが、現状で会社の売り上げは頭打ちになり、単価を上げるか客数を増やすか、を考えた。
客数(工事数)を増やすには人手が足りず、工事単価を上げるにもハウスメーカー主体の工事ではままならない。

ならば少しでも単価の良い、ハウスメーカー以外の仕事を探してみようと色々と調べてみると、ネットが普及しお客さん自身で比較検討が簡単に出来る様になったお陰で、リフォーム業界も価格競争の真っ只中らしい。

工事代金が安いと言うことは、当然原価も下げなければ会社が成り立たないのでハウスメーカーやリフォーム会社の原価を担ううちの様な工事店の代金はどこも低水準。

それに合わせて工事店が職人の給料を下げれば、仕事の出来る職人は生活の為に会社を変えたり職を変えたりすることになり、結果工事店や職人の数が減って行く。

そんな「負のスパイラル」に陥っているのが自分の居るリフォーム業界だ。

それでもうちの会社は、自分達が食べていければ良いだけの売り上げさえ上がれば良いか、と社長がお気楽なので今まで続いてきた訳だが、それすらも稼げないとなってはイカンので、今回、「新規の取引先開拓」となったわけだが、ハウスメーカー系はパス(開拓するまでも無く現役の工事店なので)して、リフォームの営業会社の仕事もやりたくは無い。同じ塗装工事店の下請けというのもどうなんだ?会社からあまりかけ離れた地域の仕事というのも避けたい。更に「材料支給!」というのも出来れば辞めたい。最近のハウスメーカーやリフォーム会社は「自社製塗料」を使わせたがる傾向が強いが、ラベルを変えただけのOEM的な物や、出処のよく分からない物を既存下地に関係なく使わせる様な会社もあって「自社製塗料」には良いイメージが抱けない為。(まあ、自分の所の材料屋さんや仲の良いニッペの材料を使いたいという思惑もチョットはあるが。)

そんなわがままな要件を満たす所が、そうそう簡単に見つかる筈もなく年明けから始めた新規開拓も3ヶ月が過ぎた。

その間、チラシの反響や以前塗り替えたお客さんからの紹介、ハウスメーカーの下請けなどの仕事をこなしながら、新たに見つけたテナントビルや小規模のマンションの改修工事をメインにしている会社さんの仕事を一件受けてみたが、人数の少ない今のうちの会社では、小規模とはいえマンションの現場が始まると、他の現場が出来なくなってしまう。あと1人か2人職人を雇えば回せそうだが、そうすると単価的に合わなくなる。

暇な時に声かけてタイミングが合えば請ける、という付き合いが出来れば良いかな。現場監督はたまたま地元が一緒で話も合うし、人柄も良いので最終日には「また現場が同じになったら、ヨロシクお願いします。」と言って別れた。
現場数が多いので監督さんも数人で現場を回しているため、同じ監督さんに会う確率は8分の1らしい。

そんな感じで3月が過ぎて4月に入った頃、ネットで「協力会社募集!」と出していた「名前は聞いた事のある地元の会社」を発見。地元だし戸建ての住宅がメインのようなので、「一度お話を伺わせて下さい。」とメールしたところ、後日社長さんから直接お電話を頂き、「駅前の〇〇ビルの4階がウチの事務所だから、そこに6時半に来てね。」と面談が決まった。

「。。。ん?駅前の〇〇ビルって。。。」

当日、現場を早めに切り上げて駅近くの駐車場に車を停めてからGoogleマップ頼りで歩いて行くと、1階には焼き鳥屋さんが入っているが、2階3階は明らかに男性向けのピンクな感じの店舗が入った古いビルの郵便ポストに、その会社の看板が。

。。。大丈夫か?ヤのつく方の事務所とかじゃないだろうか?

焼き鳥屋の傍にある階段も映画やドラマでよく見るタイプ。こんな階段の先にあるのは探偵事務所かヤのつく方の事務所、と相場が決まっている。

取り敢えずコッソリ覗いて確認を、とソロリソロリ階段を登っていくと、3階を過ぎた辺りで
「ピン、ポ〜〜ン!」
自動的にインターフォンが発動。「おう、入ってきて良いぞ!」

どんなシステムだ?

「どうもお世話になります。面会のお約束をした田村と言います。。。」

事務所の雰囲気は、探偵事務所に近い。
現場監督のような格好をした、ぱっと見60代半ばくらいの社長さんが
「今戻ったばっかりでな。すまんがそこに座ってチョット待っててくれ?」
バタバタと書類か何かを探している様子。他に事務員さんとか誰もいないが、机が何個かあるので、普段は何人かが働いているのだと思う。

年季の入ったグレーの皮張りソファーに木目調のテーブルが置かれた窓際の一角が応接スペースらしく、いきなり座るのもどうかと突っ立っていると

「いや〜、忙しくてな。今日中に見積書やら契約書やらを5件作らなきゃいけないんだよ。まだ工事日が決まってない物件がこれだけあって。。。」

郵便屋さんが持ってる様な鞄に紙の束がギッシリ詰まっている。

「スゴイですね。。。」

「また夜なべしなきゃならん。カミさんにいっつも怒られてんだけど、終わんないから仕方ないよなあ?」

「いや、誰か代わりにやってくれる人居ないんですか?事務の方とか?」

「俺1人でやってるからなぁ。。。」

「えっ?あそこの机とか。。。」

「ああ、ここは息子に任せてる会社の事務所だから。塗装工事は社員俺1人でやってる。」

パンパンの鞄からファイルを一つ取り出すと
「今ウチから頼んでる下請けは6社。その内の1社に頼んでるのがこのファイルに入ってる6月までの5件。それが6社分あって、コレが契約したけど、工事日が決まってない物件のファイル。それとコレが見積りをこれから出す分と返事待ちの分で。。。」

「トータル何件抱えてるんですか?」

「。。。。知らん。」

どう考えても1人で捌ける量じゃないと思うが。

「ウチは下請けに出す単価はかなり良いと思うぞ。ただ、一件あたりのお客さんから貰う金額は高く出来ないから、利益も少ない。その分、数取らなきゃ合わないだろ?」

理屈はそうだろうけど、それで簡単に取れる物か?卵の安売りじゃないんだから。

「いやでも、最近〇〇って塗装会社と相見積もりでよくバッティングするんだけど、5連敗。聞いたら向こうの方が金額高いのに、なんで取れないんだよ!って考えたんだよ。向こうは大卒の営業マンとかだから、どんな取り方してるのかとか。そしたらさ。。。」

そんな話をエライ楽しそうに話してくる。

「田村君だから見せちゃうけど、ほら、俺の携帯のカレンダー。ここまでにこれだけの見積書作んなきゃならないの。」

カレンダーの1日のマスが今月いっぱいは土日も含めて、真っ黒に埋まってる。

契約はしたけど工事店が足りないため、工事日が決まっていない案件も数件あって、協力会社募集を出す事にしたらしいが
「50社くらい応募あったけど、みんな遠くてな。埼玉とか茨城とかもあったよ。」と。

以前にも何度か募集を出して何社か使ってみたが、下請けに丸投げしてたり、現場での態度が酷かったり、従業員や足場屋に給料払って無いのが判明したりと色々あって、今頼んでる6社が残ったが、その6社も東京や千葉市の業者で、地元ではないらしい。
そんな時に自分の応募を見て
「おっ?市川市か?柏井町って言ったらアイツが知ってるかもしれんな。」と思い友達のアソウ氏に連絡した所

「裏の田村君なら良く知ってるよ。今なら誰かしら事務所に居るんじゃないか?」

「ヨシ!今から行くから待ってろ!」と速攻で見に行ったらしい。

自分の知らない所で。

後で経理に聞いたら「。。。そう言えば、アソウ氏と同じくらいの歳のオジサンが社長居る?って来てましたね。。。」と。

言えよ。。。

そんな訳でアソウ氏から色々な情報(事務所を手作りしたとか車塗ってたとか。)を得てから、会ってみようとなったらしい。

どうりで初対面なのにやけにフレンドリーだと思った。

あれ?そうすると、社長さんお幾つになるの?アソウ氏は今年で確か72とかだったような。。。

「70だよ。そろそろ仕事なんかしなくても良いんだろうけど、動いてる方が楽しいからな。」

70歳が休みも無く夜なべまでして仕事してたら、そりゃ奥さんも文句言うだろ。

「で、いつ頃からなら現場入れるんだ?」

「6月以降なら、何現場でもやりますよ!3人しか居ないけど。」

大卒の営業マンを多数抱える様な会社に、1人で挑む70歳の社長の会社で「7番目の下請け工事店」から「1番頼りになる下請け工事店」を目指す。

そんな仕事は、是非やらせて頂きたい。
単価とかは後で考えよう。

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