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近くて遠い異国の話 【続1】


塾の階段を降りるとアーケードのお店はシャッターが降りたり蛍の光が流れていたりと夕方のごった返した景色とは違い閑散としていました。私たちはいつものバス停と逆の方向へ意を決して歩き出します。

アーケードを抜けるとひとり男子が「俺やっぱ帰るよ」とぽつり。その発言にみんな顔を見合わせ誰かが「仕方ないな、またね」と言うとみんな「うん、そうだね」「またね、バイバーイ」と帰る彼を目で見送りまた歩き出します。ひとり男子が減ったことで不安になりながらも足取りは止まること無く歩を進めます。

歩道の角を曲がるとそこからは一直線先に
ベースの前のストリートが少し遠くに見えます。ここからは男子と女子、女子と男子と女子のペアを組んで万全の体制で向かいます。
リーダー的存在の彼とペアになった私。
彼の「よし、行くぞ!」の掛け声。
みんなが個々に「うん!」と返事。
鼓舞しながら慌てない様に落ち着く様に各々が緊張したり、ドキドキしたりまたワクワクしながら歩幅を合わせてストリートの手前まで歩きました。

ストリートへ渡る横断歩道の手前に立つと
右側にある広い車道の先にはアメリカ海軍基地がドドンと構えています。 私たちはそれを横目で見ながらネオンが輝くまさに夜の顔をしたストリートに足を踏み入れました。危険な場所に入ってしまった後悔とそれでも歌手をひと目見たい気持ちが交差する私たちは多種多様の香水とお酒の匂いに酔いそうになりながらもロケ場所へと進みます。

ストリートに挟まれた石畳は一方通行の車1台が余裕に通れる程の道幅。縦も横もデカイ肌の色も異なる人達がその場に不釣り合いな少年少女を見つけるのは容易いこと。
冷やかしの目で見られながら平気風な顔して歩いていると1人の黒人が「What's up?」と声を掛けて来ました。こちらはビクッとなりながらその答えにどう伝えたらいいか躊躇していると今度はその人が続けて「Where are you going?」その言葉に私たちは「We want to watch location!」文法が合ってるか解りませんがその時の私たちが絞りだした英語がそれでした。

何とかカタコトの英語が伝わってホッとした束の間、彼が「Follow me」と言って手招きしています。私たちは顔を見合わせ「どうする?」 「怖いけど場所知ってるのかも?」「違う所だったら?」「どうしようか?」と
相談してると彼が「It’s OK!」と安心させるように言った様に聞こえたので私たちは何かあれば逃げることを決め取り敢えず彼について行くことにしました。

ついて行くとガラス越しにNAVYたちが大きな声で騒いだりゲームを楽しんでる姿を垣間見えます。街灯の下では外国人の男女が囁きあってる。もう1つの街灯の下ではNAVYたちが喧嘩をしてる。そんな見た事もない光景にドギマギしながら不安と恐怖で今頃になってどうしてこんな場所に来てしまったのかと泣きそうな気持ちになり親の顔がチラつく始末。きっとみんな同じような思いでいるだろうと思うと「あんな話をした私の責任だ」と心で中で半泣きにな気持ちに、気づくと私は隣の彼の腕にしがみついていました。

そうこうしているうち、「Follow me!」の彼の足がピタッと止まる。私たちは彼の「Look!」のジェスチャーでお店の中を覗きそこにTVでしか見たことない人気歌手と見た事のある若い女優さんのお芝居を見つけます。本番中なのか「静かに!」の紙が貼られそこから先は入れないようにロープが張ってあります。
「カット!」の声が聞こえるとメイクさんは女優さんのメイク直し、女優はさんはセリフの確認、歌手は監督と打ち合わせ、スタッフさんが次のシーンの小道具の配置、それぞれが忙しなく動いてます。私たちは彼にお礼をする間も忘れ、目が釘付けのままその場で固まってしまいました。

どの位の時間が経ったのか忘れてしまう程夢中になっているとお店の中から「入口あけてくださーい」と言う声を聞いてはじめて撮影が終わったのを知りました。奥の方からスタッフさんやら監督さん関係者の方々がゾロゾロ、こんなに人が居た事に驚きつつ人気歌手と女優が出て来るのを今か今かと固唾を飲んで待っています。「あ、出て来そうだな」と誰か「うんうん」とみんな知らない人の声に頷いた事が可笑しくて「ぷっ」と私が吹き出しだ途端仲魔の顔も綻んで、撮影が観れた満足感とちょっとした優越感で私たちはストリートに足を突っ込んだ時とは程遠い顔立ちでそこには笑みが溢れてました。

                                                              続

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