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英語語源辞典通読ノート B (bitter-blood) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp129からp134まで。


bitter

bitter”(苦い)の語源を遡ると、古英語 “biter” はゲルマン祖語 “*bitraz” からの発達で、 “*bitan”(噛む) から派生している。この ”*bitan” は英語 “bite” の語源でもある。

KDEEによると、原義は「噛むこと」から来ているらしい。古英語までは「苦い」だけでなく「鋭い」という意味もあったようだ。また、副詞用法では「身を切るように、ひどく」という意味もあったようで、味についての現代の意味とはだいぶ離れていたようだ。いまいち意味変化がイメージできないが、身を切るように苦しい、つらい味ということだろうか。

black, blank, blanket

black”(黒い)と “blank”(空白の)は同根である。

black” の語源を遡ると、古英語 “blæc”, “blac” はゲルマン祖語 “*blakz”(焼け焦げた)からの発達で、これは印欧語根 “*bhel-”, “*bhleg-”(輝く、光る)に由来している。輝くという意味から火が連想され、火によって焼け焦げた色を意味する語が生まれたという感じだと思うが、なかなか曲芸的な意味変化だと感じる。

blank” については、中英語 “blaunk”(白い)は古フランス語 “blanc”, “blanche” からの借入で、これも俗ラテン語 “*blancus” を経由したゲルマン祖語 “*blaŋkaz” の借入である。そしてこれも印欧語根 “*bhel-” に由来する。これは輝くという意味から白への意味変化は理解しやすい。そこから「無色、空白」へ転じたようだ。

ほぼ真逆の色を表す単語が同じ語根から生まれているのには困惑してしまう。印欧語根 “*bhel-” に由来する語は他にもたくさんあるようなので、今後要注意である。

ついでに、 “blanket”(毛布)も “blank” と同語源である。古フランス語 “blanquet” からの借入で、”blanc” と フランス語の指小形語尾 “-et” から成る。もともとは染められていない白い毛織物を意味していたようだが、そこから「毛布」に転じたらしい。

blaze¹, blazer²

blaze¹”(炎)もまた、印欧語根 “*bhel-” に由来する。「輝く」意味から炎への連想はイメージしやすい。そして “blazer”(ブレザー)も “blaze¹” から派生している。もともとは “-er” 接尾辞により「輝くもの」というそのままの意味だったが、現代の「ブレザー」の意味は19世紀後半に生まれたらしい。KDEEによれば、ケンブリッジ大学のボート部員が来ていた鮮やかな赤いチームジャケットが、遠くから見たら燃え立って見えたことに由来するらしい。そこから明るい色のジャケットのことをブレザーと呼ぶようになったようだ。

bleach

bleach”(漂白する)も印欧語根 “*bhel-” に由来する。古英語 “blǣċan” はゲルマン祖語 “*blaikjan” からの発達で、印欧語根 “*bhel-” にたどり着く。「輝く」から「漂白」への連想は比較的わかりやすいように思う。

“bleach” には名詞用法もあり、語義1に「青白さ、皮膚病、ハンセン病」、語義2に「漂白剤」を挙げている。しかし、語義1の用例が1601年を最後に途絶え、語義2の初例が1887年と約300年の空白があることから、KDEEではこの2つの語義に直接のつながりがあるとは考えにくいとしているようだ。名詞としては一度廃語になったあと復活したと見るとよいのだろうか?

blend, blind

blend”(混ぜ合わせる)と ”blind”(盲目の)も印欧語根 “*bhel-” に由来するシリーズである。この2つの語は語源の中で少し関わりがあるようで、KDEEでは互いに参照しあっている。

“blend” の語源を遡ると、中英語 “blende(n)” は古ノルド語 “blend-”, “blenda” からの借入で、これはゲルマン祖語 “*blandan” から発達した。

一方、 “blind” の動詞用法「盲目にする」の語源では、中英語初期にはもともと “blende(n)” と綴られており、”blend” と同形だったようだ。その後 “blind” への交替が起こり、最終的に “blinde(n)” となった。古英語では “blendan” という形で、これはゲルマン祖語 “*blandjan” から発達した。

ゲルマン祖語から中英語までの時期には非常に綴りが似ている。また意味の面でも、 KDEEによれば “blind” は「輝く」から「目が眩む」への意味変化を経ていると推測しているが、”blend” においても眩しさに目が眩んで視界が曇ることから、純粋な状態ではなく混ざった状態を表すように発達するのは、なんとなくイメージできる。「見えにくい」という状態に対して見る主体の側に注目しているのが “blind” で、見られる対象側に注目しているのが “blend” という感じもする。

blood

blood”(血)はゲルマン祖語から古英語に発達した本来語だが、KDEEの解説によると印欧祖語には「血」を表す共通語がなく、ゲルマン祖語以前の語源は不詳のようだ。”blood” との同根語はゲルマン語派にのみ見られるらしい。印欧祖語に「血」の概念がなかったとは思えないが、不思議な話だ。

また、”blood”の発音が /blʌd/ となった経緯についても解説がある。古英語 “blōd” から中英語 “blood” には、綴りのとおり /bluːd/ と規則的に発達したらしい。その後16世紀に母音が短くなった /blud/ に変わり、さらに16世紀後期には「起源の異なる他の /u/ と同様に /ʌ/ になった」とのことである。この母音の変化については巻末の語源学解説にも書かれており、“but” /bʌt/ などが例に挙げられている。


今回はここまで。このエリアではひたすら印欧語根 "*bhel-" に振り回されている。

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