英語語源辞典通読ノート B (bake-bank) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp93からp97まで。


bake, bath

“bake”「焼く」は “bath”「風呂、入浴」と同根だった。”bake”の語源をたどると、古英語 “bacan” はゲルマン祖語 “*bak(k)an” から発達している。これは印欧語根 “*bhē-”(温める)に由来する。

”bath”も古英語から存在する本来語で、古英語 “bæþ” はゲルマン祖語 “*baþam” から発達している。“*baþam” は “bake” と同じく印欧語根 “*bhē-” に由来する。物理的な現象として「焼く」と「湯」はそれほど離れていないが、この2つの語源が同じとは考えたことがなかった。

balance

「天秤」を意味する語。中英語 “balaunce” は古フランス語 “balance” からの借入である。さらに遡ると後期ラテン語 “bilanx” に由来する。これは “bi-” 接頭辞(2つの)と “lanx”(皿)から成る。綴りは変わってしまっているが、語源的には2つの皿を釣り合わせる天秤そのものを表していた。"bi-" が隠れているのはちょっとアツい。

bald, balefire

bald”「はげた、毛のない、白斑」は中英語以前の語源が不詳らしいが、KDEEでは古英語 “*bællede” はゲルマン祖語 “*bala-” を語根に持ち、これは印欧語根 “*bhel-”(輝く)に由来するとしている。つまり、光の明るさから「白」へと連想されている語である。

一方 “balefire”「かがり火」の語源は古英語 “bælfyr” に遡り、”bæl” 部分は印欧語根 “*bhel-” に由来する。明るさから火を連想するのはわかりやすいが、問題はここでKDEEに書かれている “cf. blue” という一言である。印欧語根 “*bhel-” は “blue”(青)の語源でもある。詳しくは “blue” の項にたどり着いたときに改めて読むが、”blue” だけでなく “black” もこの語根に由来しているらしい。色の区別がめちゃくちゃである。

ball², ballad, ballade, ballet

ballad”「バラッド、物語詩」と “ballade”「バラード」はおそらく二重語、というかほぼ異形である。また、“ball²”「舞踏会」や “ballet”「バレエ」とも同語源であり、この2つも二重語である。

“ball²” はフランス語 “bal” からの借入で、古フランス語 “baler”(踊る)から発達している。これは後期ラテン語 “ballāre” に由来する。一方 “ballet” もフランス語 “ballet” からの借入だが、これはさらにイタリア語 “balletto” からの借入である。“balletto”も後期ラテン語 “ballāre” から派生したもので、同一の語がフランス語経由とイタリア語経由で再会した形になっている。

そして、同じ後期ラテン語 “ballāre” から派生した古プロヴァンス語 “balada”(舞曲、踊り)が古フランス語 “balade” を経由して中英語 “balad(e)” に借入されたのが “ballad” である。ところが、中英語 “balad(e)” の末尾の “e” の発音を残した形も “ballade” として英語に残っている。つまり、中英語までは同じ単語だったが、「バラッド」と「バラード」の意味の違いによって発音を変えて分化したということらしい。おそらく、「バラード」はフランス由来の詩体だから、フランス語らしい発音を残したのだろう。

band, bond

band¹”「縛るもの、ひも、帯」と “bond¹”「結束、拘束」は中英語まで同一語の方言違いでしかなかったが、現代では意味が分化したらしい。また、想像しやすいが “bind” も同語源である。

“band¹” の語源は2種類の説が挙げられており、中英語 “bond”, “band” から発達したとするもので、“古ノルド語 “band”(帯)からの借入で、ゲルマン祖語 “*bandam” からの発達であり、“*bendan”(縛る)に由来する経路。もう一方は、中英語 “bande”, “bende”(帯)から発達したとするもので、古フランス語 “bande”, “bende” からの借入、古フランク語 “*binda” からの借入、ゲルマン祖語 “*bendōn” からの発達と遡り、最終的に同じく “*bendan” に行き着く。

bank, bench, bankrupt

“bank” には “bank¹”「土手、堤防」、“bank²”「銀行」と同音異義があるのはよく知られているが、語源的には共通のイメージを持っていると言えそうだ。

“bank¹” の中英語形 “bank(e)” の直接の語源は不詳らしいが、KDEEでは古ノルド語 “bakki”(土手、堤防)からの借入としている。これはゲルマン祖語 “*baŋkōn” からの発達で、これも語源不詳だがKDEEでは印欧語根 “*bheg-”(割る、壊す)に由来するとしている。原義は川によって陸が分断されているイメージから来ているのだろうか。ちなみに “bank¹” は動詞として「境界を作る」という意味もあったらしい。

一方の “bank²” も同じゲルマン祖語 “*baŋkōn” に由来する。ゲルマン祖語からイタリア語に借入された “banca”, “banco”、または古フランス語に借入された “banque” が、中英語 “banke” として借入された。現在では「銀行」の意味が強いがもともとは「両替商」を指していた。KDEEではこの意味変化について、『意味の変化は「(両替商の)勘定台、帳場」→「両替商」→「銀行」』と説明されている。両替商側と客側を分ける台が土手や堤防に似ているという比喩から生まれた意味だろうか。

ちなみに、”bench”「ベンチ、長椅子」の語源も不詳ながら、印欧語根 “*bheg-” に由来するとされ、”bank” と同根である。言われてみれば堤防とベンチはスケールこそ違えど形は似ているような気はする。

“bank²” から派生した “bankrupt”「破産者、支払不能者」という単語もあるが、由来がおもしろかった。イタリア語 “banca rotta” が語源で、”banca” は「両替商」、”rotta”は「破壊された」を意味する。両替商が客に対して支払不能になるとその帳場が破壊されたという話に基づくらしい。


今回はここまで。"ba-" がなかなかおもしろい語が多くて足取りが重い。