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英語語源辞典通読ノート B (bid-bit) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp124からp128まで。


bid

bid”(値を付ける)はあまり使わない単語だが、”forbidden”(禁止された)の形ではよく見かける。語源は複雑で、KDEEでは中英語 “bidde(n)” は異なる2つの語源からの混成であるとしている。

1つ目の語源は、古英語 “biddan” からの発達で、ゲルマン祖語 “*beðjan”(祈る)、”*beðam”(祈り)、そして印欧語根 “*gʷhedh-”(祈る、尋ねる)に由来するもの。”*beðam”は英語 “bead”(祈り、ビーズ)の語源でもある。ちなみに “bead” のビーズ(飾り玉)の語義は、「祈り」から「ロザリオの珠で唱えた祈りの回数を数える」ことから転じたらしい。

もうひとつの語源は、古英語 “bēodan”(提供する、宣言する)からの発達で、ゲルマン祖語 “*beuðan”、そして印欧語根 “*bheudh-”(知らせる)に由来するもの。これら、古英語ではまったく異なる2つの語が混ざり合ってできたのが中英語 “bidde(n)” であるとしている。

“bid” の現在の活用形は “biddan” に由来しているが、語義のほうは “bēodan” の影響を強く受けている。これはKDEEによれば混用によるものとしている。また、現在の過去分詞形 “bidden” は13世紀以後のもので、似た綴りの “ridden” などとの類推によって使われるようになったらしい。さらにそこから類推で過去形も “bid” が逆成されたようだ。綴りから意味まで、何もかも間違えられ続けている。

big¹

big¹”も残念ながら語源不詳らしいが、少なくとも本来語ではなさそうだ。KDEEでは中英語 “big” の語源が古ノルド語に由来するという説を挙げている。今ではかなり一般的な単語だが、中英語期までは方言で使われており、14世紀以前の用例は少なかったようだ。また意味の面でも、はじめは「力が強い」の意味だったのが廃れ、「大きい」の意味で使われるようになったのは14世紀の後半のようだ。

bill³

bill³”(請求書、勘定書)の語源は「泡」らしい。中英語 “bille” は、アングロフレンチ語 “bille” または アングロラテン語(イギリスラテン語?) “billa” からの借入である。これらは中世ラテン語 “bulla” に由来し、元となった同じ綴りのラテン語 “bulla” の意味は「泡」である。

KDEEによればこの不思議な意味変化は、「泡」から「丸い突起、飾り鋲」に転じ、そこから「首にかけるお守り」、「文書の印」と変わり、最後に「印を押された文書」になったと推測している。かなり無理があるような気もするが、語源を調べていればこういうことはよくある。ちなみに、英語 “bubble” とは語源的にまったく関係ない。

bird

bird”(鳥)も語源不詳らしい。こんなに基本的な語で、文化や地域によらない概念だと思うが、だからこそなのだろうか。中英語 “bird(e)” は、15世紀ごろに “brid” から音位転換したらしい。これは古英語 “brid”(ひな鳥)から発達したものだが、これより前の語源がわからないようだ。KDEEによれば、「他のゲルマン語に同族語が見出され」ないらしい。また、古英語の意味「ひな鳥」は次第に廃れ、13世紀ごろから「鳥」一般を意味するようになっていった。意外に謎多い語である。

biscuit

実は “biscuit”(ビスケット)の ”bi-” もいわゆる「2」の接頭辞である。語源を遡ると、中英語 “bisquit(e)” は古フランス語 “bescoit”, “bescuit” からの借入である。これは中世ラテン語 “bis coctus”(2回焼かれた)が縮まったもので、ラテン語 “bis-” 接頭辞(2回)と “coctus”(調理された)から成る。 “coctus” は過去分詞形で、原形の “coquere” は英語 “cook” の語源でもある。

中英語期と綴りが微妙に違うが、現在の形は19世紀頃にフランス語 “biscuit” から再借入されたものらしい。フランス語では「ビスキュイ」と発音するが、中英語期に借入していたことで十分に発音が英語化されているようだ。
ちなみにWikipediaによれば古くは2度焼いて長期保存可能にした堅パンのことを指していたようで、原義通りのものだったようだ。

bishop

bishop”(主教、司教、監督)は”bi-” 接頭辞のように見えるがまったく「2」とは関係ない。古英語 “bisċop” は俗ラテン語 “biscopus” からの借入で、後期ラテン語 “episcopus” と対応している。これはギリシャ語 “episkopus”からの借入で、“epi-” 接頭辞(上)と “-skopus”(見る)から成る。”skopus” は英語 “scope” の語源でもある。「上から見る者」という原義から「監督者」を意味することはわかりやすい。

bit³

コンピューター用語の “bit³”(ビット)の語源はなんと、”bi(nary) (digi)t” の略語であるらしい。おそらく “bit²”(小片)と引っ掛けたダジャレにしたのだろうと思うが、長らくコンピューターに触れていても知ることのなかったまさかの由来だった。


今回はここまで。"bi-" 地帯は謎多い語が続いて危険だ。