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英語語源辞典通読ノート B (bear¹-beer) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp109からp112まで。


bear¹, beaver

bear¹”(クマ)の語源を遡ると、古英語 “bera” はゲルマン祖語 “*berōn” から発達し、これは印欧語根 “*bher-”(褐色の)に由来する。この語根は “beaver”(ビーバー)と共通する。KDEEによれば毛の色から名付けられたのだろうと推測されている。

しかし、「クマ」そのものを表す印欧語根は “*rkto-” があり、前にも “antarctic” の項で登場した。ラテン語やサンスクリット語、ギリシャ語では “*rkto-” に由来する語が「クマ」を意味しているが、なぜゲルマン祖語ではそれを使わなかったのかという謎について、KDEEの解説がおもしろい。それは、ゲルマン語やスラブ語などでは危険な動物であるとタブー視されたために “*rkto-” に由来する語が見られないという説だ。つまり、「クマ」を直接その名で呼ぶことがタブーとされ、「褐色の生き物」と婉曲表現で呼ばれたということだ。「名前を呼んではいけないあの生き物」的な感じだろうか。

また次の解説もおもしろい。英語の株式用語では “bear” は「値下がりを見越して思惑売りをする人」を指すらしい。この由来は、”to sell the skin before one has killed a bear” ということわざに由来するらしく、日本語の「取らぬ狸の皮算用」と同じ意味だ。ちなみに別で調べてみると「取らぬ狸の皮算用」は日本では明治期になってから登場したらしく、英語のほうが早くに存在してそうだ。もしかしたら翻訳なのかもしれない。

bear²

bear²”(産む)は “bear¹” とまったく違う語源を持つ。古英語 “beran” はゲルマン祖語 “beran” から発達しており、印欧語根 “bher-”(運ぶ、産む)に由来する。この “bher-” は英語 “bring”(持ってくる) と共通するほか、ラテン語 “ferre”(運ぶ)を経由して、”transfer” や “offer” などの “-fer*” の語根にもなっている。「運ぶ」の意味のほうで意外な単語とつながっている。

KDEEの語源解説ではこの「運ぶ」と「産む」の両義性について深堀りされている。ラテン語においても “ferre”(運ぶ)と “fertilis”(肥沃な、多産な)の対応が見られるようで、印欧語族に共通してみられるのだろうか。コウノトリが赤ちゃんを運んでくるという言い回しもひょっとすると関係あるかもしれない。

beau

beau”「しゃれ男」は見た目のとおり “beauty” や “beautiful” と同じ語源である。この語は中英語期と17世紀、さらに19世紀の3回借入されているおもしろい語だ。

古フランス語 “beau” が中英語に借入されたときの発音は /bóu/ だが、英語化されるなかで /bjuː/ になったらしい。その後、形容詞用法の “beau” は衰退するが、17世紀になって名詞用法の “beau” が改めてフランス語から借入され、こちらは英語化することなくフランス語の発音 /bóu/ をそのまま残すことになった。そしてさらに時が経ち、19世紀になって形容詞用法が復活するが、今度は名詞と同じくフランス語発音になったようだ。これはもはや復活というより再々借入されたと考えていいのではなかろうか。

bed

bed”(寝床)の語源を遡ると、古英語 “bed(d)” はゲルマン祖語 “*baðjam” から発達し、印欧語根 “*bhedh-”(掘る)に由来する。KDEEによれば、原義は「寝ぐらのために掘った穴」ではないかとのことだ。

同じ “*bhedh-” に由来する語には “fossil”(発掘物、化石)があり、意外な同根語だ。こちらは印欧祖語からラテン語、フランス語を経由して英語に借入されている。子音の変化はまさしくグリムの法則だが、意味も離れているのであまり好例とは言えなさそうだ。

beef

beef”(牛肉)の語源を遡ると、中英語 “bef”, “boef” がアングロフレンチ語・古フランス語 “boef” からの借入であり、これはラテン語 “bovem”, “bōs”(牛)から発達している。印欧語根の “*gʷou-” に由来し、これは “cow”(牛)と同根である。動物とその肉の語源についての詳細はhellogを参照してほしい。

beer, beverage

beer”(ビール)の語源は古英語 “bēor” より先が不詳らしい。KDEEでは後期ラテン語 “biber”(飲み物)からの借入である説を挙げており、これはラテン語 “bibere”(飲む)からの派生である。“bibere” の印欧語根も不詳のようだが、 “*pō(i)-”(飲む)に由来する説が挙げられている。

また、”bibere” は英語 “beverage”(飲み物)の語源でもある。ラテン語から派生した古フランス語 “bevrage” が中英語に借入されたようだ。ビールイコール飲み物ということで、それほど昔から生活に密着したものだったのだろう。 日本語の「飲み」が飲酒のニュアンスを持つのと同じだ。
なお、”ale” と “beer” の関係については以前に取り上げた。



今回はここまで。"be-" シリーズはまだまだ始まったばかり。