英語語源辞典通読ノート A (auction-azure) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp81からp88まで一気に。ようやくAから始まる語を読み終わりました


auction, augment, author

現代の意味ではあまり関係なさそうなこの3語は、語源的にはかなり近いのに驚いた。これらはすべてラテン語 "augēre"(増やす) に由来する。

"auction"(競売)はラテン語 "auctiō(n)" からの借入で、これは "augēre" の過去分詞形 "auctus" から派生している。原義は「増加、増大」だが、競売で値がつり上がっていくことから競売そのものを指すように意味変化していったのだろうか。

"augment"(増加させる)は "augēre" の原義に近い。語源は中英語 "augmente(n)", "aumente(n)" がアングロフレンチ語・古フランス語の "au(g)menter" から借入されている。これは後期ラテン語 "augmentāre" からの発達で、遡るとラテン語 "augēre" にたどり着く。"auction" と比べるとかなり早くに古フランス語経由で入ってきたようだ。

そして意外なことに "author"(創造者、著者、作家)もここにつながる。中英語 "aucto(u)r", "auto(u)r" はアングロフレンチ語 "au(c)tour" からの借入で、これは古フランス語 "au(c)tor" に対応する。これはラテン語 "auctor" からの借入で、"augēre" の過去分詞形 "auctus" から派生している。「増加を生み出す人」ということで著者や作家といった意味になったのだろう。

aurora, Australia, Austria

この3語も意外な語源的つながりがあった。

"aurora" は、14世紀ごろは「あけぼの、曙光」という意味だった。今の「極光、オーロラ」の意味が使われ始めたのは1621年かららしい。中英語 "aurora", "aurore" は古フランス語 "aurore" またはラテン語 "aurōra" からの借入で、これは印欧語根 "*aus-"(輝く)に由来する。

この "*aus-" から派生した "austral"(南の)という単語があり、ラテン語 "austrālis" からの借入語である。そしてここから派生したのが "Australia"(オーストラリア)である。ラテン語で「南の地」が原義である。

一方 "Austria"(オーストリア)はドイツ語 "Österreich" に由来し、"öster"(東の)と "Reich"(王国)から成る。つまり原義は「東の王国」である。ちなみに、"east"(東)の語源は、ゲルマン祖語 "*austaz" であり、これは印欧語根 "*aus-" に由来する。ドイツ語の "Ost" もここに由来する。

"*aus-" から太陽が輝き出す方角を示す「東」の意味に派生していくのはわかりやすい一方で、ラテン語では「南」に転じていておもしろい。正午の太陽が一番輝いているというのもわからなくはない。
「オーストラリア」と「オーストリア」は広い意味では同語源と言えるが、同じ語根でも指す方角が違うというのは覚えておきたい。

authentic, authority

今度は逆に、この2語が語源的にまったく関係ないということが驚きだった。
"authentic"(信頼すべき、典拠のある、真正な)の語源を遡ると、中英語 "au(c)tentik" はアングロフレンチ語 "autentic" の借入で、古フランス語 "autentique" に対応する。これは後期ラテン語 "authenticus" からの借入で、これもギリシャ語 "authentikós" からの借入である。"authentikós" の元になったのは "authéntēs"(支配者)で、これは "auto-"(自己)と "héntēs"(行う者)から成る。原義は「自分の権威に基づいて行動する人」である。権威こそが正当性の根拠だったということだろう。

一方その「権威」を意味する "authority" の語源は "author" と同じくラテン語 "auctor" に由来する。どのように意味変化したのかはわからないが、何かを生み出した張本人であるという典拠があることがその人の権威や影響力を発生させるということだろうか。なんにせよ、こんなに意味が近くて綴りも近いが、"authentic" と "authority" は語源がまったくかすりもしない。びっっくりである。

automation

1948年から使われ始めた語で、自動車会社の Ford で生まれた造語らしい。 "automatic" と "operation" からできたのが "automation" で、そこから逆成して "automate" という動詞形が後からできたらしい。まだ1世紀も経っていないできたてホヤホヤの新語だ。

avail

"available" という形で見ることのほうが多いが、"avail"(役に立つ、利する)という動詞がある。語源を遡るとアングロフレンチ語 "availen" から借入で、"a-" 接頭辞(変化)と "vaile(n)" から成る。"vaile(n)" はラテン語 "valēre" に由来し、これは英語 "value" の語源でもある。言われてみれば意味的に近いが "available" と "value" の関係は予想していなかった。

avant-garde, vanguard

この2語は二重語らしい。英語 "avant-garde" はフランス語からの借入語である。古フランス語から存在するこの語は、中英語時代には頭音消失した "vantg(u)ard" という形で中英語に入ってきたようだ。"vanguard" の方は軍隊における前衛を、"avant-garde" は芸術における前衛派を表すように分化している。

average

語源からの原義と現在の意味にかなり距離がある。KDEEによれば、借入前の古フランス語 "avarie" は海運用語で「関税」や「海損」を意味していたが、「損害を平均に分配する」ところから英語独自に「平均」の意味に転じたと考えられるらしい。

award

よく見る意味は「授与する」「賞」だが、元々の意味は「判決を下す、裁定する」である。そしてこの語の語形成は "a-" + "ward" ではない
中英語 "awarde(n)", "aworde(n)" はアングロフレンチ語 "awarder" からの借入で、古ノルマン語 "eswarder"、古フランス語 "esg(u)arder" に対応する。これは "es-"(= "ex-")接頭辞と "g(u)arder" から成る。""g(u)arder" は英語 "guard" の語源でもある。
"guard"、そして "ward" の元々の意味は「見張る」である。見張っていた状態から脱して(ex)判決を下すということだろうか。

azure

Aから始まる語で一番最後に掲載されているのが "azure"(青色、空色、青空)である。中英語 "asur", "assure", "azur(e)" は古フランス語 "asur", "azur" からの借入で、これも中世ラテン語 "azura" の借入である。さらにこれもアラビア語 "al-lāzawárd" の借入だという。これは "al-" 接頭辞と "lāzawárd" から成るのだが、中世ラテン語 "azura" はこれを "al(l)-āzaward" と異分析した結果、語頭の "l" が消えてしまった形らしい。"lāzawárd" は "lapis lazuri" の "lazuri" の部分と関係しており、青を意味する。


今回はここまで。とうとうAを読み終わった。この勢いで次回からはBを読んでいく。