英語語源辞典通読ノート B (baccalaureate-baggage) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp89からp92まで。


baccalaureate, bachelor

「学士号」を意味する。語源はフランス語 “baccalauréat” または 中世ラテン語 “baccalaureātus” からの借入とされ、中世ラテン語 “baccalaureus” からの派生である。ここからさらに遡ると “bachelor”(若い騎士、独身者、学士)と同じ語源である “baccalārius” に行き着くが、原義からは「学士」の意味は表れない。
KDEEでは、“baccalaureus” は “baccalārius” が “bacca lauri”(月桂樹の果実)に影響を受けて変形したものという見方である。古代ギリシャから英雄や大会の勝者などに月桂冠を与える風習があり、それになぞらえて栄誉の象徴とされているのだと思われる。英語 “bachelor” に「学士」の意味が現れるのも同根語の “baccalaureate” から影響を受けている。

back, bacon

“back”(後ろ、背中)と “bacon”(ベーコン)は語源的に関係があるらしい。KDEEでは同語源とまでは明記しておらず、あくまで「関係がある」とするに留めている。
“back” の語源を遡ると、古英語 “bæc” はゲルマン祖語 “*bakam” から発達したものである。一方 “bacon” の方は、中英語 “bacoun”, “bakoun” は古フランス語 “bacon”, “bacun” からの借入とされ、これは古フランク語 “*bako” からの借入とされる。”*bako” はゲルマン祖語 “*bakōn” からの発達で、この “*bakōn” と *bakam” に関係があるというのがKDEEの記述であるが、どう関係するのかは書かれていない。
また、”bacon” の語源が “back” と同じであったとして、どのように意味変化したのかもKDEEでは謎である。元々は豚の背中の肉を使う塩漬けがヴァイキングたちの「ベーコン」だったんだろうか?

ちなみに、”back” は派生語も多い。”back friend” の項では廃語義に「偽りの友」、現行の語義に「後援者」とあり、まるで正反対の印象になっている。また、現代では日常的に使われる “backup”(バックアップ)は、初出が1900年だがまだ意味が今とは違う。いわゆる「予備」を表すようになったのは1951年が初出ということで、かなり新しい語だということがわかる。

bad

“bad”「悪い」は1300年あたりから使われているが、とても基本的な意味の単語にもかかわらず語源がよくわかっていないようだ。それも、中英語 “badde” の直接の語源がわからないというレベルなので驚きだ。古英語 “bæddel” に由来するというのが一般的な説らしいが、KDEEでは不詳としてある。
また、18世紀ごろまでは比較変化形に “badder”, “baddest” も使われていたようだが、シェイクスピアは一貫して “worse”, “worst” を使っていたらしい。

badge, badger

“badge”「バッジ、記章」と “badger²”「アナグマ」の語源的関連は疑問が残るらしい。そもそも “badge” の語源が不詳で、中英語 “bad(d)e” がアングロフレンチ語・古フランス語 “bage” からの借入とする説も不詳であり、その語源も不詳である。由来が全然わからない。
“badger¹”(行商人)も中英語 “bagger” の由来が不明らしい。一説によれば行商人が許可を受けた印を付けていたことに由来するらしい。もっとよくわかっていないのは “badger²”(アナグマ)のほうだ。アナグマの額にある白斑から “badge” が連想されたとか、アナグマが穀物を貯蔵する性質から “badger¹” に由来するとする説とかあるらしい。

bag, baggage

“bag”「袋」も語源がよくわかっていないようだ。中英語 “bagge” は古ノルド語 “baggi” からの借入だが、その先の語源がわかっていない。しかし古フランス語 “bague”、中世ラテン語 “baga” など似た語があることから、ゲルマン祖語に遡れるとする説があるらしい。KDEEによれば、”pack” と関係すると考える学者もいるという。
“bag” と似た英単語に “baggage”「手荷物」がある。当然 “bag” からの派生だと疑っていなかったが、こちらは “bag” よりも語源がはっきりしているようだ。中英語 “bag(g)age” は古フランス語 “bagage” からの借入で、これは “bagues”(包み)の複数形である。”bagues” は中世ラテン語 “baga” に由来する。古ノルド語 “baggi” と中世ラテン語 “baga” に共通の語源があるとするなら “bag” と “baggage” は同語源、あるいは二重語といえそうだが、そうでないなら偶然似ただけということになるか?少なくとも英語 “bag” のルーツから直接派生したわけでないとは言えそうだ。


今回はここまで。これまでよりも語源不詳が多いページだった。