GPSの便利な使い方 -浮気調査に抵抗してみた話-

年の瀬も近くなり今年の世相を反映した流行語が聞こえてきますが、IT業界の今年の流行語は「ミュートのままですよ」だと個人的には思っています。

はじめまして、もんじろうです。

流行り言葉もそうですが、IT業界あるあるな話として「コンピュータっぽいのは何でも分かる人」と勘違いされて色々な相談をされる事ってありませんか?
今回はそんないくつかの相談の中から数年前の話を書こうと思います。
※ 以降は過去を思い出しながら書いています。当時とは異なる部分や再確認している箇所がありますが、気楽に読み流してください。

「なぁ、これ何だか分かるか?」

行きつけの飲み屋でハイボール片手に酔っぱらっている友人から唐突に言われた言葉です。彼の手にはGPSデータロガーと思わしき代物が握られていました。

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画像: 調査したGPSデータロガー(機種名が判明するためぼかしてます)

GPSデータロガーとはGPSから受信した位置情報を記録し続け、そのデータを地図アプリに重ねることで後から移動した軌跡が確認できるようになる機器です。ライフログなんて言葉が流行った時代に結構な数が出回ったのを思い出します。安いものでは数千円で手に入れられます。

この友人は奥さんから持たされるよう言われ、日々記録を付けさせられているとの事。なぜ彼はこれを持たされているのかは想像どおりです。そんな彼の口から出た言葉は「記録を書き換えられるか?」と。全く懲りてないな、こいつ。

ですが、機器には興味がありましたし、この分野はちょっと知っていましたので出来る範囲で確認するとして、その日は機器の情報を控えて帰りました。

後日、同機器を購入し確認作業に入ります。
まずこの機器は台湾製であること。またGPSのフォーマットはNMEA0183という米国海洋電子機器協会( https://www.nmea.org/ ) で定められた規格で書かれており、非常に広く知れ渡ったごく一般的なものであるということが分かりました。

きちんとログが書かれているのか、また取得できるのかを確認するためGPSBabel ( https://www.gpsbabel.org/ )を使いデータ吸い出しを行いました。

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GPSBabelはGPSの業界では非常に有名なオープンソースのツールです。GPSログのフォーマットを変換したり、直接データを吸い上げることが可能です。ソースを読むだけでもフォーマットの仕組みの参考になります。
ドライバを入れて接続先ポートを確認し、下記を実行することでデバイスから簡単にデータを取得することができます。


> gpsbabel -w -t -i skytraq,baud=38400 -f COM3 -F C:/GPSLog/NMEA1803.txt

こんな感じで1行ごとにASCIIでログが書かれています。

$GPRMC,123456.000,A,3569.8930,N,13981.8829,E,0.00,0.00,240.3,031220,,*1A

データの細かい値に興味がある人は「NMEA0183」で検索してみてください。[35~]や[139~]の部分が緯度経度を示しています。

GPSデータロガーの中には独自フォーマットで書かれているものも存在しています。日本で手に入る有名な機種がそれとの話もありGPSBabelでは読み込むことができないそうです。個人的にはこういう(マニアックな)代物は小さくまとまらずにグローバルに展開してもらいたいものです。

NMEAフォーマットでは少々扱いづらいのでgpx形式やkml形式で出力してGoogle マップやGoogle Earthで読み込ませると良いかもしれません。 ​

> gpsbabel -w -t -i skytraq,baud=38400 -f COM3 -o gpx -F C:/GPSLog/hoge.gpx
> gpsbabel -w -t -i skytraq,baud=38400 -f COM3 -o kml -F C:/GPSLog/hoge.kml

Google マップへの読み込み方はこちらを参照してください。
地図上の対象物をファイルからインポートする

テスト用として吸い出したデータはこちらになります。

目的と手段の変更

・・・その後いろいろと、投げている通信を確認したり、それっぽいコマンドを試したり、ネットで調べたりしたのですが、残念なことにCOM経由でGPSデータロガーのデータを変更することは、この機種では許可されていないことが分かりました。(別機種には書き込みできるのですが・・・)
分解してもいいとか直接メモリ部分に書き込むなら手はあるかもしれませんが、正しい所有者は友人の奥さんですし、分解した形跡やケーブルが伸びてたら元も子もありません。

ただこのままではなんだか悔しいので無理矢理別の方法を。友人の奥さんはこのGPSBabelを使って管理しているとは考えにくく、恐らく付属についてきたおまけの吸い出しツールでデータを管理しているはずです。
ならばGPSデータロガーからデータを取得するのを監視して、そのタイミングでごにょごにょすればどうかと。
おまけツールを確認したところDBに保管されているデータはこんな感じでした。単純にNMEAフォーマットから使いたい部分のみを切り出した形です。

35.698930,139.818829,1606966496.000,1.000000,39.916460,0,,
たまに「データは分からなくして保存しているから大丈夫」などと言う話を聞きますが、どんな対策をとっていてもローカルにデータを保存している時点でセキュリティ的にはアウトだと思います。


独り言ですが全部を対象にすると元も子もないので、ある範囲内のデータの場合にだけちょっとズラすとかなら良さそうです。例えば知られたくないエリアの左上から右下の中にあるログの値を少しばかり足すとか引くとか連続したデータは間引いたりすればそれっぽくなるかなぁと。
ちなみにそのエリアを確認するための緯度経度の情報は国土地理院のページから分かります。便利な世の中になったものです。

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出展: 国土地理院ウェブサイト
https://maps.gsi.go.jp/#17/35.699103/139.816437/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f2 )

で、実際にやってみたのはこんな感じです。なんとなく気分だけでもと。

※ 注意: おまけツールの地図データなのに著作権があるためイメージが貼れません。そのため変換したデータをkmlに出力してGoogleマップにインポートしてます

こんな感じの情報をまとめて友人に伝えました。
本当はドヤ顔でマウントを取りたかったのですが、結果的に正攻法(?)ではこの機種のデータ変更はできなかったこと(「すみません、仕様です」)
そんな難しいことではないので作成したツールは渡さず(「サポートは出来かねます」)
フリーソフトの組み合わせでも実現できるので後はなんとかしなさい(「運用回避でお願いします」)と。
その後、友人が実際に試したのかはミュートにしておきます。ただこの記事を書く許可をもらうために久しぶりに連絡したところ、今日現在まで家庭は壊れていないようなので少し安心しました。

便利な使い方

広く一般的にGPSと言うとドラマとかでリアルタイムに現在位置が分かる発信機みたいなものを想像される方もいるかもしれません。
実際に我が家では使い古しのスマートフォンにデータSIMを挿して子供や離れて暮らしている親に持たせ、それぞれの端末で位置情報をお互いの同意の元で共有しています。これなら今どこにいるのか、何時に帰ってくるのかなどの連絡をしなくても安心ですし、あらぬ疑いの目を向けられる事もなくなる(?)のでおススメです。

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参考: © OpenStreetMap contributors - About

※注意: 本当は手元にある画面ショットを掲載したかったのですが地図の著作権のハードルが厳しく転載が出来ないので、OpenStreetMapというフリーの地図を使ったはめ込みイメージになります
OpenStreetMap(オープンストリートマップ)は自由な地図を目的に世界規模で展開されているプロジェクトです。この取り組みは非常に素晴らしいと思います。もっと広がればいいのに・・・。

こんなご時世になる前に娘が学校の行事で海外旅行へ行きました。その時も位置情報を確認しましたが、自分が行っているわけではないのに何だか楽しくて、ついつい何度も見てしまったのを思い出します。ちなみに我が家からイタリアのフィレンチェまでは 9,785 kmだそうです。

このように便利なものなのに「GPS」と検索すると「浮気調査」や「追跡」と候補が出てきます。便利なものは悪用されたり本来とは全く違った用途で使われる事があります。先程書きましたように予備のスマートフォンを用意して、別途車や身の回りに忍ばせておけば簡単に発信機へと早変わりする時代です。
知らないうちに追跡されることは稀だと思いますが、あやしいと感じたら身の回りや自分のスマートフォンの設定等は一度確認されたほうが良いかもしれません。

こういう不安があるからセキュリティの職業が存在していて、僕たちは美味しいごはんやラーメンが食べられるのですけど、なんだか皮肉なものですね。
では、また。丸々と太った姿でお会いしましょう。

参考先

GPSBabel https://www.gpsbabel.org/
国土地理院 https://maps.gsi.go.jp/help/termsofuse.html
Googleマップ https://www.google.com/help/terms_maps/
OpenStreetMap https://www.openstreetmap.org/copyright
bubobuboさんの記事
友人(と、奥さん)

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