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2020アンダルシアGPまとめ:風聞〜イタたわGP Vol. 282

コンテンツ目次

【イタたわGPまくら話】
●2020アンダルシアGPこぼれ話(全文無料)

【2020アンダルシアGPまとめ】
●アンダルシアGP決勝戦を左右した5つの鍵

●ヤマハ
・クアルタラロー「マルケスに何も証明する必要はない!」
・がっかり、ヴィニャーレス&モルビデッリ
・ヤマハ&ドゥカティのエンジンは大丈夫なのか?
・ロッシ「ヤマハ内で僕の要望が通らない」
・ロッシ「ヤマハからクアルタラローらの操縦を学べと言われた」
・ロッシは本当にヤマハで権力を失ってしまったのか?
・ヤマハ「エンジニアは大量のデータから判断する…」
・なぜヤマハ勢は3周走行済みのタイヤを使ったのか?

●ホンダ
・なぜ中上貴晶は急に速くなったのか?
・アレックス・マルケス「ナカガミのことを研究した」

●ドゥカティ
・ドヴィツィオーゾ「テスト作業に時間を取られ…」
・バニャイア「ロッシやヴィニャーレスより力はあった」
・ミラー、ドゥカティ勢トップの座を狙うものの…

イタたわGPまくら話

皆さん、こんにちは。
イタリアから管理人のラ・キリコです。

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既に管理人の方より解約手続きを行ってますので、購読者様の方では特に何もなさらなくて大丈夫です。

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本当に申し訳ありません。


では、モトGPこぼれ話を始めますね。
今回は、2020アンダルシアGPこぼれ話です。

どうぞ、お楽しみ下さい。

2020アンダルシアGPこぼれ話

・予選2タイム拮抗
同じトラックで2週連続レースと言うことで、2週目には各マシンのセッティングも整っていき、1周タイムに関してはどんどん拮抗していった。
例えば、予選2の首位から8位までのタイム差がスペインGP(1戦目)では0.830秒だったのに対し、アンダルシアGP(2戦目)では0.457秒だったのだ。

・マルケス出走にシッチ父が感涙
マルク・マルケスが手術後4日目で出走することを決めた時、パオロ・シモンチェッリ氏(故マルコ父、SIC58チームマネージャー)が次のようにコメントした。
「マルケスが走ってる姿を見た時は感動しましたよ。うちの息子も、あんな感じだったからね。生きてたら、マルケスと良い対決をしてただろうね…。」

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・予選後のカル・クラッチロー
負傷者3名(マルケス、リンス、クラッチロー)の中では軽度の方とは言え、クラッチロー選手もレースでは苦戦するだろう(結局、13位、最下位)。

・予選後のアレックス・リンス
予選1で10位だったアレックス・リンスのコメント。
「残念ながら、1周走るごとに痛みが酷くなり…まぁまぁ痛いと言う時もあれば、もの凄く痛い時もあったんです。
本当に大変で…目標はレース完走なんですが、この暑さからするとそれも厳しそうで…(結局、10位ゴール)。
今のところ、手術の予定はないです。するとしたら、シーズンが終わってからですね。」

・ポル・エスパルガロ、レース7位
レース後の本人コメント。
「僕の人生で一番厳しいレースでした。暑さのせいで、両手が火照って、火照って。
あいにく、昨日の予選でミスって、グリッド後方スタートになってしまったものだから、フロントタイヤのオーバーヒートに大苦戦してしまったんです。
期待以下のリザルトでしたが、責任は僕にあります。」

・モト2表彰台
イタリア人ライダー3名が、モト2表彰台を独占するのは史上初のことである。
(バスティアニーニ、マリーニ、ベッツェッキ)

・ヴィエッティ、表彰台で負傷
モト3決勝戦で3位を獲得したチェレスティーノ・ヴィエッティ(VR46チーム)が、シャンパンのボトルを割って左手を6針縫った。
ヴィエッティ選手のコメント。
「自分のことながら、いつもびっくりするんですよねぇ。表彰台さえ、まともに楽しめないんだから…。
3位になった後でメディカルセンターのお世話になるなんて、思ってもいませんでした。」

ヴィエッティ選手はモト2表彰台のルーカ・マリーニを真似しようとし、誤ってボトルを割ってしまった模様。

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では、本編に行きますね!

今回は、アンダルシアGPまとめと言うことで…
ヤマハ/ホンダ/ドゥカティまとめなんですが…
表彰台独占と言うこともあり、半分以上がヤマハの内容になっております。
どうぞ、お楽しみください。

【2020アンダルシアGPまとめ】

●アンダルシアGP決勝戦を左右した5つの鍵

はい、では今回も、レースの行方を左右した鍵から初めます!

ジョヴァンニ・ザマーニ記者(イタリア衛星放送『SKY』レポーター)がほぼ毎回書いているものでして…

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アンダルシアGPは、こちらの5つになりました!

1)クアルタラローの確実性
もはやファビオ・クアルタラローは己の強さを自覚し、誰のことも恐れていないのだ。
第1ラップから、いきなり制覇していた。

2)ヴィニャーレスの不確実性
クアルタラローとは対照的に、ヴィニャーレスは得意の戦法『速攻首位独走』が可能な時しか己の強さを自覚できない。
本人のコメント通り、何かが上手くいかない時は己の速さをレースに落とし込むことができないのだ。

3)技術トラブル
まずモルビデッリが…そして、次はバニャイアが技術トラブルに泣いた。
両選手のトラブルが、今回のレース結果を大きく左右したのだ。

4)ロッシのセッティング
先週は頼りない走りだったが、今週は実に切れのある動きを見せていた。
まったく別人と言った様相で、特にブレーキングは素晴らしかった。

5)ドヴィツィオーゾ苦戦
グリッド14位スタートだったとは言え、良いレースができそうな可能性はあったのだ。
ところが、フロントタイヤと格闘しなければならなくなってしまった。


ヤマハ

・クアルタラロー「マルケスに何も証明する必要はない!」

ファビオ・クアルタラロー選手と言えば、これまでその才能が高く評価されるたびに、常に誰かが「まずはレース優勝しなければ…」と言い…

ヘレス第1戦でそれを果たしたかと思えば、今度は「1回優勝するのも難しいが、それを繰り返すのはもっと難しいから…」とか、「表彰台に上がるだけじゃ駄目…とにかく優勝しなくては…」なんて声が出ていたんですが…
1週間後のヘレス第2戦で、そんな声さえ見事に封じてしまったわけです!

とにかく、いまや『速くてミスのない最強ライダー、常に的確な動きで予選でもレースでも上手く采配している』と大評判ですよ。

まぁ、おそらく今度は、「マルク・マルケスが復帰したら、こうはいかない」なんて言われちゃうと思うんですが…
クアルタラローご本人は、こう断言してました。
「2回優勝したわけだから、(マルケスが)戻って来ても同じようにやるつもりです。
僕はマルクに(自分の実力を)なにも証明する必要なんてないし、マルクだって僕に対してそうですよね。
世界タイトル8回獲得のチャンピオンライダーなんですから、それで十分でしょ。」

おぉぉ~なんか、自信が出てきましたね!

でもね、今回のスタート直前はけっこうドキドキしてたんですよ。
こう言ってましたから。
「スタートのことが心配で緊張してました。金曜日はホールショット・デバイスが上手く作動してくれなくって…今週末、スタート練習の度に悲惨な状態だったんです。まるでモト3機に乗ってるみたいな感じで。
チームから『落ち着きなさい』って言われて…『先週末、練習でいつも上手く行ってたけど本番は悪かったから、今週は反対になるかもしれない』って。
結局、上手くいったんで大満足です。レースを仕切ることができましたからね。」

で、優勝してパルクフェルメに入って、一番にしたことと言えば…
(お祝いに)まず、ヴァレンティーノ(ロッシ)と一緒に写真を取っておきました。
僕が初めて観たモトGPレースって、まさにヘレス戦だったんですよ。最終コーナーでヴァレンティーノがジベルナウに接触し、優勝してたレースです。
なんとかモトGPクラスに辿り着こうって言う、モチベーションを与えてもらいました。ヴァレと一緒の表彰台は嬉しいですね。」

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・がっかり、ヴィニャーレス&モルビデッリ

さて、大喜びのクアルタラロー選手に対し…
マーヴェリック・ヴィニャーレス選手は、ヘレス第1戦に引き続き、またまた2位で、またまた大いにがっかり…と言う評価なんですよねぇ(涙)

とにかく、予選でもレースでも、ここ一番って時は必ずクアルタラロー選手に負けてしまってるわけですから。

今回のレースでは第1ラップ第13コーナーのハードブレーキングでクアルタラロー選手を抜こうとし…
とにかく、早々に首位に立って勝ちを取りに行こうと言う作戦に出たものの…

結局、オーバーテイクに失敗したうえ、後続していたロッシ選手に抜かれてしまったわけです。
しかも、ヴィニャーレス選手には「失敗した時のためのB案と言うものを常に用意していない」とまで言われてしまって…

とにかく、2戦連続2位を取ったものの、誰も納得してないと言われております。

あと、がっかりと言えば、もう1人…
エンジントラブルで、4位走行中にリタイヤしたフランコ・モルビデッリ選手なんですが…

ただ、こちらはかなりの高評価なんですよ。
リタイヤ自体、本人の責任ではないうえ、かなりの確率でロッシ師匠を抜いて表彰台に上がるんだろう~と思わせていたし…
去年よりも速くなって動きも良いし、どんどんトップ陣に迫って行ってるって。

モルビデッリ本人も、こう振り返ってましたから。
「良いレースでした…マシンとの息もぴったりで、序盤は厄介な状態だったけど、その後は上位陣に追いついて行けましたしね。
ヴァレンティーノの後ろに付いた時は2回ミスって、タイムロスしてしまったんですが。
とにかく、(エンジンが停止するまでは)自分のペースを維持しつつ追い上げることができて、終盤に向けて準備万端って感じだったんですよ。」


・ヤマハ&ドゥカティのエンジンは大丈夫なのか?

さて、このヤマハのエンジントラブルなんですが…
いまや、けっこう心配されております。

実は、ヴィニャーレス選手にもフリープラクティスの時にあったそうで…
こう言ってました。
「僕もFP3で問題が出てたんですよ。エンジンから変な音がしたんで、すぐにピットボックスへ戻ったんです。それ以降はなんの問題もなかったんですけどね。
ただ、フランコとヴァレはレースで出てしまって…問題は解決しなければなりませんよね。
次の2戦は…ブルノとオーストリアはエンジンの負担が大きいのだから。」

はい、つまり、ヤマハはヘレスの2戦でエンジン3基が壊れているってことなんです。
で、ロッシ&モルビデッリ選手のエンジンは、原因解明のため日本に送られたそうです。

ただ、他のメーカーの選手がまだエンジン2基目なのに対し…
ヤマハはヴィニャーレス選手がすでに5基目、他の3選手が4基目に手を付けてまして…
もちろん、1基目とか2基目とかだってまだ使えるんですが…
でも、今シーズン、使用できるエンジンは1選手につき5基までなわけだから、やっぱ心配ですよね。

実際、ヤマハの方でもけっこう心配してまして…
レース後、リン・ジャーヴィス氏(マネージング・ディレクター)がこう話してました。
「フランコの件は残念に思ってます。あの技術トラブルが起きるまでは、実に良いレースをしてたんですから。
2週間で3基のエンジンが駄目になってしまったんですからね、心配ですよ。
ただ、その一方、この2週間で表彰台をいくつも獲得しましたから。
とにかく、すべてのエンジントラブルが同じ原因に依るものなのかを解明し、解決策を講じなければね。」

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ちなみに今回はドゥカティのフランチェスコ・バニャイア選手も、レース中にエンジンが壊れてましたが…
ザマーニ記者によれば、
「とりあえず、今のところは深刻な問題ではないようだ」ってことです。


・ロッシ「ヤマハ内で僕の要望が通らない」

昨年4月のオースティン戦以来、久しぶりに表彰台に上がったヴァレンティーノ・ロッシ選手!
レースでも、久しぶりに切れのあるハードブレーキングを見せてくれていました。

後続していたライダーがロッシ選手より速くても、そう簡単には抜かせなかったですもんねぇ。

あと、表彰台を独占したヤマハ勢の中では最下位だった点がネガティブだろうなんて声も出てるんですが…
とにかく、また上位を争うロッシ選手を見るのは良いもんだって話に落ち着いております。

で、実は今回のレース後、ロッシ選手がなかなかの爆弾発言をしましてね…
イタリア識者の間では、けっこうな話題になってたんです。
なんたって、あのロッシ選手が「ヤマハ内で僕の要望が通らなくなってる」って公言したんですから。

こんな感じ。
「先週はストレスの多い週末で…しかも、1戦酷かったって話じゃなく、ほとんど1年酷かったわけですからねぇ。
この数ヶ月、なんとか流れを変えようと格闘してきたんですよ。時には想定外のトラブルに…政治的な問題なんかに遭遇したりして。
単に、自分用ではないマシンに乗ってたってことなんですけどね。走り心地は良くなかったわけですよ。
現在のマシンは、理屈ではリアタイヤを保たせるために作られたはずなんだけど、実際は僕にとっては問題は解決されていなかったうえ、以前より遅くなってしまってたんです。」

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んで、ロッシ選手は金曜FPの際、それを変えることが出来て、また速くなってきたと言うわけなんです。
そして、ヤマハに対し、こう言うコメントをしたんですね。
「(ヤマハは)僕に手を貸してくれないと…まだ、こうして走っているんだし、来年だって続けるんですからね。僕のことを信じてくれないと。
僕はマシンから降りては正確な指示を出しているライダーなのに、今回、僕やチームがマシンに望んでいることを実現するのに4日も格闘しなければならなかったんですから。
もし諦めていたら、今日もまた散々なレースになってしまっていたでしょう。」

で、具体的にマシンの何を変えたかと言うと…
以前使っていたセッティングに戻したんだそうです。

金曜FPセッションの後、マイオ・メレガッリ氏(チームマネージャー)もこう答えてました。
「今日はロッシにとっても良い1日でしたね。マシンの荷重配分を大きく変えてたんですよ。
この暑さでも好ペースを刻めてましたね。」

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・ロッシ「ヤマハからクアルタラローらの操縦を学べと言われた」

ちなみに、なんでヤマハがロッシ選手の要望を聞いてくれないのかと言えば…
ちょっと、この辺、質疑応答形式で見てみますか。
ほい、どうぞ。

【なぜヤマハは要望を聞き入れてくれなかったの?】
「本当のことを知りたいんですか?それは、ヴィニャーレスやクアルタラローがこのマシンでもって最強の走りをしてるからですよ。
そして僕は41才だし、あの2人のようなライディングを僕が学ぶべきなんだと言ってるわけです。
とにかく、戦いでしたね。僕が希望するような改良をしてもらったら、走り心地が良くなって、僕のライディングスタイルに合ったマシンになったと言うことなんだから。」

【ドゥカティ時代を思い出した?】
「あの時も厳しかったですよねぇ。続けていけるのかどうか確信が持てなくって。でも、その後、ヤマハに戻れて、そこから10年近くやってますからね。
好リザルトが出せない時は、簡単に『もう終わりだ…』って考えてしまうものでしょ。誰だって、そう言うものだから。」

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【しかし、ヤマハとは長い付き合いなのに…】
「ある意味、僕がファビオやマーヴェリックのような操縦をすべきだろうと考えるのは当然のことでしょう。あの2人は強い走りができてるんだから。
まぁ、今、僕は参戦してる中で最速ライダーではないのかもしれないけど、でも、良いレースはできるんですよ。
時々、なぜあの2人はああ言う順位が取れるんだろうって思ったりもして…2人とも、それほどあざとい走りをしている風はないのに。
まぁ、自分が速くない時はモチベーションも上げづらいものだしね。」

【マシンをどんな風に変えたの?】
「色々と…別のスタイルにしてみたんですよ。2018~2019年、エンジニア陣が別のバランスについて研究し、リアタイヤ消耗の問題を解決しようとしたんですよ。
当初は上手く行って、僕も2回表彰台に上がれたんだけど、その後、コーナー進入で好みの操縦ができなくなってしまって。
ただ、僕のリザルトに関し、そのことは言い訳にはならないんですけどね。」

【ヤマハに対しての批判?】
「いや、それも違います。僕は心の底からヤマハライダーだと思っているし、これまで共に大きな歴史を築いてきてますからね。
ただ、好リザルトが取れたから、ちょっとプレッシャーをかけておきたいなぁ~って思ってるだけです(笑)。

ちなみに、ロッシ選手、モルビデッリ&バニャイア選手はエンジントラブルが起きなければ表彰台に上がれただろうと言うことを認めてまして…
なおかつ、ヴィニャーレス選手に抜かれてしまったのは自分のミスだから、
「ヴィニャーレスが2位で然るべきでしょうね」って言ってました。


・ロッシは本当にヤマハで権力を失ってしまったのか?

で、このロッシ選手の発言が、なんでイタリア識者の間で話題になってたのかと言うと…
「あのロッシがヤマハ内で政治的な権力を失ってしまったなんてことが、本当にあり得るのだろうか?」ってことなんですよ。

んで、ザマーニ記者も半信半疑ながら…
24日(金)にファウスト・グレジーニ氏(グレジーニチーム・マネージャー)にインタビューした際、偶然、そう言うようなことを言っていて…
グレジーニマネージャーと言うのは決してロッシ派の人間ではないから、やはり事実なのだろう…と。

そして、エンジニアのジュリオ・ベルナルデッレ氏(モトGP業界では、長らく、ホンダ&アプリリアで働いていた)も、やはり、事実だろうと主張してました。
ちょっと長いんですが、こんな感じ。
「(ロッシがヤマハに要望を)聞き入れてもらえなかったことは確実でしょうね。
良くある話だし、おそらく、ドヴィツィオーゾドゥカティで、現在、そう言う状態だと思いますよ。
ロッシは、身体的な面からも特殊なライディングをしているでしょ。
ここ最近、ヤマハ機で好リザルトを出しているライダーは、皆、小柄なのに対し、ロッシは上背がありますからね。つまり、ロッシはマシンの荷重配分がことなるわけです。
しかも、ここ数年のロッシは安定した速さは見せていなかったわけでね。
2輪レースと言うのは個人競技ではあるが、モトGPクラスを高い戦闘力でもって戦うには、チーム作業がかなりデリケートなものになってくるわけです。
特に、モトGPではかなりデリケートなタイヤを使っっていて、とにかく天候やアスファルトに大きく左右されるものだから。
それで、各メーカーの開発部門では特定のパーツが作られていくようになり…
また、タイヤメーカーの方でもコンパウンドやカーカスの制作にあたり、ある特定の開発になっていくわけですよ。
そうなると、ライダーとしては、自分の要望を聞いてもらえるかどうかと言う点が大きく響くわけです。
メーカーの方でも、どのライダーの要望を聞くかを選ばなければなりませんしね。
それで、強い走りをしているライダーか、もしくは政治的に強い権力を持っているライダーの要望が通るようになり…

だからこそ、ロッシがコメントで『政治的な選択』と言う言葉を出してきていたんですよ。メーカー側が、特定のライダーの要望を聞き入れるようになるのは当然ですからね。
要望が通らないとなると、レースウィークエンド中に簡単にできるはずの調整が、できなくなってしまったりもするんです。
ロッシはそう言う状況になってるんですね。
ただ、ロッシともあろう者が、そう言う政治的な問題に翻弄されているのは奇妙な感じがするのですが、ただ、ロッシが(ペトロナスとの)契約締結を渋っているのは、その辺が理由なんじゃないんでしょうかね。
技術的な面において自分のサポートになるような…政治的な力を持てるような状況を作ろうとしているんじゃないんですか。」

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・ヤマハ「エンジニアは大量のデータから判断する…」

ただ、ベルナルデッレエンジニア、ここまで言いながらも、やはり不思議がってましてね。
「いくらパフォーマンスが高いからと言って、あれだけマシンの戦闘力の高めてきたロッシよりも経験の浅い若いライダーらの方を信用していると言うのが、政治的に奇妙なんですよね」って。

で、ヤマハ側は、このロッシ選手のコメントに対してなんと言ってるのかと言えば…
リン・ジャーヴィス氏(マネジングディレクター)が、一応、こう言い訳しておりました。
「この状況を取り仕切るのは容易ではないんですよ。
日本のエンジニア陣は大量のデータを見て、判断しているわけで…その結果、ヴァレの要望は犠牲になったと言うことでね。
一般的にエンジニア陣は大量のデータを抱え、同時にライダーらの意見も聞かなければならないのです。
つまり、速いライダーがいて、その内の1人が何か変えたいと言ってきたなら、状況はさらに複雑になっていくんですよ…
厄介な追加作業が発生してしまい、それを上手く仕切っていかなければならないのですから。」


・なぜヤマハ勢は3周走行済みのタイヤを使ったのか?

最後に余談ですが…
ヤマハの選手って、皆、今回のレースで、3周走ったユーズドタイヤを選んでるんですよね。
なんでも、ヤマハ&スズキがミシュランからそうするよう勧められたんだそうで…
ちょっとだけ走らせて、ならしておいたタイヤだと温度が10度ほど下がるからってことなんだそうです。

で、レース後、ベルナルデッレエンジニアがもう少し詳しく説明してました。
こちら。
「(酷暑の際、ならしたタイヤを履くのは)別に珍しいことではないんですよ。
これまでもタイヤがオーバーヒートしかねないような状況では、そう言った選択がされてましたから。
タイヤと言うのは使用することにより化学的に構造を変えていく物ですからね。特に摩耗と、加熱および冷却により変わるんです。そう言う特定の状況下で、常にそうなってしまうんですね。
しかし、一度使用されたタイヤは、その後、熱を帯びにくいと言う傾向になり…低い温度を保つことができるんです。
まぁ、タイヤの最大パフォーマンスを引き出したい時は、欠点となってしまいますけどね…
例えば、タイムアタック用のタイヤの場合は、最大パフォーマンスが落ちてしまうわけだから。
しかし、レース距離で完走するまで保たせたいのなら、序盤のパフォーマンスは多少犠牲になってしまうがタイヤのオーバーヒートは防げるわけで…
つまり、レース中のタイヤ損耗を少なく出来るわけですよ。

ちなみに、スズキ選手らがこの勧めに従ったのどうかは、特に情報が入ってきておりません。


ホンダ

・なぜ中上貴晶は急に速くなったのか?

金曜午前のFPセッションから日曜のレース本番まで、コンスタントに伸び続け…
チーフメカニックのフランチェスコ・グイドッティ氏が常に言ってる「実に優秀なライダーですよ」ってとこを、今回のレースで証明したと言われております。

あと、「接近戦の際、ちょっと迫力不足なんじゃないか」なんて声はあがってたんですが、とにかく素養の高さは証明しただろうって。

ちなみに、今回の中上選手がどれだけ好調だったかと言えば…
土曜FP4セッションでのレースペースが、こんな感じだったんですよね。

FP4での自己ベスト7周における平均タイム

首位クアルタラロー:1’37”980
2位ナカガミ:1’38”092
3位ヴィニャーレス:1’38”334
4位バニャイア:1’38”373
5位モルビデッリ:1’38”426
6位ロッシ:1’38”514
14位ドヴィツィオーゾ:1’38”934

FP4での自己ベスト5周における平均タイム

首位クアルタラロー:1’37”910
2位ナカガミ:1’38”000
3位ヴィニャーレス:1’38”166
4位バニャイア:1’38”271
5位モルビデッリ:1’38”308
7位ロッシ:1’38”447
13位ドヴィツィオーゾ1’38”642

で、なんでこんなに急に速くなったんだろう?…って、ちょっと不思議がられてましてね。
まぁ、マルケス選手が棄権となったため、横山健男氏(ホンダHRCテクニカルディレクター)のサポートがいつもよりあったって話は中上選手がしてたんですが…

かつて、ホンダで働いていたベルナルデッレエンジニアは、こんな推測をしておりました。
「ベースとなるセッティングにホンダが手を入れてやり、それが本人に合っていたと言う可能性はあるでしょう。それ以上のサポートを受けたとは思えませんね。
だから、マルケスが使っている物を、なにか回してもらったと言うようなことはないと思いますよ。
単純に、的確なセッティングが見つかったと言うだけでしょうね。


・アレックス・マルケス「ナカガミのことを研究した」

ちなみに、今回はアレックス・マルケス選手が中上選手をお手本にして研究してたそうですよ!
レース後、こう言ってましたから。
「今週末、ずっとナカガミのことを研究してました。
ホンダ機について僕よりも経験豊富だから、おかげでよく分かってきたし、改善させることもできました。
高速コーナーや旋回などが特に上手く行くようになったんですが、その辺でナカガミが特に良い動きをしてるんですよね。
セッティングが僕のとは違うように思うけど…とにかく、良いヒントになりました。」​

で、ヘレス第1戦目の時は、兄マルク選手のことをお手本にしてたわけですが…
では、中上選手と兄マルク選手なら、どちらが学習しやすいか?と訊かれると…
「ナカガミはコーナー旋回や高速コーナーがもの凄く速いライダーだけど、でも、ハードブレーキングはそれほどでもないんですよ。
僕は兄のデータも見れたんですが、とにかく、兄は指標となるライダーだし、ホンダ機でどこのトラックでも高い戦闘力を見せてますからね。
今週末は兄がいなかったうえに、トラックコンディションが先週とは変わってしまってたんで、(マルケスのデータは)それほど役に立ちませんでした。」

んで、今回のアレックス選手は、首位と19.357差の8位を獲得し…
先週のヘレス第1戦では27.350秒差の12位だったから、ちょっと進歩してるんで…
「それほど悪くはない」なんて評価が出ているんですよね。


ドゥカティ

・ドヴィツィオーゾ「テスト作業に時間を取られ…」

金曜日にアンドレア・ドヴィツィオーゾ本人が、
「先週よりもセッティングが良くなって、手応えは良い」とは言ってたんですが…
結局、今週末は3日間とも、とにかく苦戦しまくってしまいました(涙)

で、レース本番ではフロントタイヤに想定外の問題が起きてしまったってことだったんですが…
他の選手の皆さんが前後輪の温度上昇を愚痴っていたんですが、ドヴィ選手の場合はそれではないようで…
こう言ってました。
「ミシュランタイヤの場合、別のライダーのスリップストリームに入ってしまうと良くそうなるんですが、僕の場合、ペトルッチを抜いてからは1人で走ってたんですよ。すぐ近くに誰もいなかったんです。
前にロッシはいたけど、それなりの距離を保つようにして走っていたし。」

んで、ドヴィ選手の場合、まだドゥカティとの契約更改が済んでないんで…
レース結果がそっちに影響しそうなんですが…
やっぱ、そうみたいです。
「なんでも影響してきますよ。ただ、そこが論点ではないんですけどね。
今回の2戦での作業の進め方には賛同できないと言うか…僕のやり方ではなかったんですよ。通常ならばテストでするような作業をやってたもんだから。
まぁ、(苦手な)ヘレスにしては貴重なポイントは稼げたんで…そこが一番重要ですけどね。」

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あぁぁ…この、『通常ならばテストでするような作業をやってた』って言うのが大きかったようで…
プライベートチームのバニャイア&ミラー選手の方が常にドヴィ選手より速かったのは、開発作業をしなくて良い分、セッティング作業に時間をかけられてたからだろう…なんて意見も出ていて…

ベルナルデッレエンジニアも、こう憂いております。
「ドヴィのコメントからすると、レースウィークエンドのFP中に新マテリアルのテストをしなければならず、それによってセッティング作業の時間を奪われていると考えられるわけですよ。
そうなると、ドヴィは数年前と同じような状況に置かれているように思えるんです。まだ良いセッティングが見つかっておらず、カウルやら何やら役に立たない物のテストで時間を奪われていた時の状況ですよ。
そうだとしたら、今シーズン、この先、ちょっと危ういことになるかもしれませんね。」


・バニャイア「ロッシやヴィニャーレスより力はあった」

と言うわけで…
テスト作業をせずにセッティング作業に集中できるから、好調なんじゃないかと言われているプラマック組なんですが…

それでも、眼を見張るほどに絶好調だったフランチェスコ・バニャイア選手!
モトGPクラスに昇格して以来、初めてファーストローを獲得し、レース本番ではなかなかの追い上げっぷりで2位独走状態となり、もう表彰台に上がったも同然と思われていたんですが…

結局、技術トラブルにより第20ラップでリタイヤとなってしまいましたね(涙)

まぁ、ご本人のせいではないんで、最終的に今回の評価はもの凄く高いんですけどね。
バニャイア自身もレースではかなり手応えが良かったようで、「もしスタートが良かったら、クアルタラロー選手と競り合えていたと思う?」と訊かれ、こう答えておりました。
「彼と僕のペースはかなり拮抗してたんで、あとはどのぐらいプッシュするかにかかってました。
でも、ヤマハのもう2人よりは…ヴィニャーレスとロッシよりは、プラスアルファの力があることは確かでしたけどね。
今も言ったように、レース距離に合わせて適切なリズムが出せるよう、ペース作業にかなり力を入れてたんです。
特に、ブレーキングが良くなってたんで、諸々からして自信は出てきてました。」

ドヴィ選手も、今回のバニャイア選手の走りっぷりは高く評価していて…
こう言ってます。
「実に上手く走ってましたね。リアブレーキの使い方が僕とは違っていて、リアタイヤのスリップを上手い具合にコントロールできてるんですよ。
バニャイアのデータを研究してみないと。同じマシンに乗ってるライダーに対して皆がやってることだから。
とにかく、このタイヤを上手く活用できるよう突き止めていかないとね。」

イタリアきっての理論派ライダーこと、ドヴィ選手がここまで言うぐらいですからねぇ…
どうも、ヘレストラックの場合、バニャイア選手のライディングスタイルが、ミシュランの新タイヤを有効活用することができるんじゃないかと言う説に信憑性が高まってきてるんですが…

ザマーニ記者も、こう分析しておりました。
「ヘレスのトラックではペッコのバンクの凄さが実に目立っていましたね。
ドゥカティ選手のなかでは、コーナーでカクカクと角をつけて曲がっていくタイプのドヴィは苦戦していたが、スムーズに丸く回っていくバニャイアの場合、コーナー中盤でのバンクの深さが目立っていました。それで優位になってましたね。
全体的に(各選手のパフォーマンスを)評価するには、この新タイヤのことを考慮にいれなければならないと思ってます。
全選手がこのタイヤを上手く使いこなせているわけではないですから。」

まぁ、バニャイア選手は初めて乗ったモトGP機がドゥカティなわけで…
なんとか自分をそれに合わせようと努力した結果、なかなか上手くいくようになってきたんじゃないかとも言われております。


・ミラー、ドゥカティ勢トップの座を狙うものの…

一方、チームメイトでパイセンのジャック・ミラー選手は…
おそらくドゥカティ勢トップの座を狙っているのに、常にチームメイトの後塵を拝し、けっこう焦っているのではないかと言われてまして…

レースでは転倒リタイヤとなってしまい、ライダーとしての伸び具合にちょっと限界点を見せてしまっているのでは…とか…
今回のミスは、後々、大きく響いてくるかも…なんてことも言われてました。

でもね、ベルナルデッレエンジニアはミラー選手のライディングを高評価してるんですよ。
こんな感じ。
「ジャック・ミラーと言うのは、モトGPにおいてかなり特殊なライディングスタイルなんですよね。
ここ数年、アルゼンチンのようなトラックではドゥカティ機の作りを活かしきって、強い走りをしてますね。
ドゥカティ機で強い走りをしようと思ったら、ややアンダーステアリング気味のマシンが得意でなければならないんですよ。
それが得意なライダーもいれば、駄目なライダーもいるわけでね。
ミラーはそう言うことができるうえに、加速ではスライディングを上手く使いこなして、なかなか見ごたえのある操縦をするんです。
大曲のコーナーなんて特にそんな感じですね。

がんばれ、パイセン!


はい、今回はこれでお終いです!
次回はブルノGPなんですが…
ベルナルデッレエンジニアによれば、
並列4気筒もV4エンジンも、特にどちらかに有利ってことはないトラックなんだそうで…
誰が優勝しても不思議はないんだとか。
う~ん…またまた楽しみですね!!

おっと、そして…
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『Moto.it』 https://bit.ly/39nSZSM, https://bit.ly/3juCpW9, https://bit.ly/2CvvSKn, https://bit.ly/2OPnYOg, https://bit.ly/2E5r3HS,
『Corse di moto』 https://bit.ly/2BnY6WN,
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