サル痘の報道がもたらす"男性と性交渉する男性差別"とXジェンダーへの影響

2022年5月以降、これまで主にアフリカ大陸で発生が報告されていた「サル痘」の患者について、欧米を中心に感染事例が報告されており、国内でも感染者が確認されました。

「サル痘とは」国立感染症研究所HP

この状況について問題なことに、以下のように報道されているケースがあります。

(サル痘の)今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことから、性交渉の際の接触が感染の原因になっているのではないかと疑われています。

欧米で拡大 サル痘のアウトブレイクについて現時点で分かっていること
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220522-00297189

この報道の何がいったい問題なのか

上記の報道では「男性間の性交渉」の際の感染がほとんどであるかのような誤解を与える恐れがあります。

新型コロナウイルスなどと比べるとかなり感染力は弱いようですが、
サル痘は誰でもかかる可能性のある病気です。

感染原因は、感染した人や動物の皮ふの病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)が中心です(患者と長時間、近距離で対面することでの飛まつ感染もあります)。
新型コロナウイルス感染症と異なり、人から人への感染は容易には起こりませんが、MSM(Men who have Sex with Men)だけでなく誰もが感染対策をとる必要があります。

HIVがゲイ特有の病気である誤解による感染対策意識の低下とゲイ差別

この報道の仕方は、HIV/AIDS(エイズ)の流行時の「男性同性愛者に多くみられる病気」という誤解によるゲイ差別と、それによる感染対策意識の低下と同様の道を辿っていると言えます。

サル痘と同様にHIVは、1985年にアメリカで「男性同性愛者に多くみられる病気」として発表され、それにより「HIVは男性同性愛者に特有の病気」という誤解を招きました。
そのため多くの人の間で、

「男性同性愛者ではない自分はHIVにかかる心配はない」

という誤解が広まり、感染予防が疎かになる要因となってしまいました。
また当時、民間のボランティア団体がHIV対策の啓発活動のために、自治体に対して協力を求めていました。
しかし自治体は、

「地域に在住するMSM人口がわからないので予算化は難しい」

「税金を特別な集団に使うことは難しい」

といった理由により、ボランティア団体に非協力的な姿勢を示しました。
これは明らかに行政による差別にあたります。

サル痘の今回の報道の仕方にも、HIVと同様に、

「多くの人の感染予防が疎かになる」

「特定の集団が差別的な扱いを受ける」

といった危険性を孕んでいます。
出典:名古屋市立大学看護学部最終講義「 HIV/エイズと感染症対策における人権」)

サル痘の不適切報道によりXジェンダーが差別を受ける可能性

MSM差別はXジェンダーにも波及する可能性があります。
MSM差別のXジェンダーへの影響を考えるためには、MSMという言葉の意味についてもう少し知る必要があります。

MSMの意味は、上記では「ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性」とだけ説明されていました。
しかし広義には、

MSMとは男性との性交渉がある全ての男性を包含した公衆衛生用語でありその中には、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどさまざまなセクシャリティの人が含まれています。

特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 HP
https://share.or.jp/opinion_advocacy/insistence/007.html

と説明されるように、広い意味を持つことがあります。
さまざまなセクシュアリティとは、性的指向が男性で、他者から男性に見えるトランスジェンダー、例えばFtMゲイが含まれます。
FtMゲイなどを含んだこれらの人々は、ハッテン場や、ゲイ向け出会い系アプリを利用することがあり、ゲイの方々と性交渉をすることがあります。

こういった背景から、性的指向が男性で、他者から男性に見えるXジェンダーもMSMに含まれることになります。
これにはMtXはもちろんFtXも該当します。

つまり今回のサル痘の不適切な報道によって、Xジェンダーも差別や偏見に見舞われる可能性があるということになります。

既に始まっているゲイへの差別的発言

残念ながら既に、サル痘の不適切な報道によるゲイへの差別的な発言が行われています。
例えばSNSではこの様な事例があります。

(閲覧注意)ゲイへの差別発言


たくさんの注意喚起もなされていますが、予断を許さない状況です。
SNSだけでなく、label Xの中でも、身近な人が「サル痘はゲイの病気だと勘違いしている」事例が複数見られています。
この差別の矛先がいつXジェンダー・ノンバイナリーに向くかも分かりません。
ゲイコミュニティに連帯してこの差別に歯止めをかけることについて考える必要があります。

文責:Kazuki Fujiwara



参考記事・サイト
欧米で拡大 サル痘のアウトブレイクについて現時点で分かっていること(yahoo!ニュース個人)(画像

HIV/エイズと感染症対策における人権(名古屋市立大学看護学部最終講義)

MSMとLGBTをめぐって(特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 HP)(画像

日本でも感染確認の「サル痘」、男性同性愛者への差別や偏見を生じさせない注意喚起を(yahoo!ニュース)(画像


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