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カルテック元学長ディビッド・ボルチモアによるSARS-CoV-2起源についての声明文和訳

*この投稿は、2021年6月22日にカリフォルニア工科大学(通称カルテック)のウェブサイトに掲載された、元カルテック学長でノーベル生理学医学賞受賞者のディビッド・ボルチモアによる声明文を和訳したものです。原文は以下のサイトをご覧ください。


新型コロナウイルスによるパンデミックを引き起こしたSARS-CoV-2の生物学的な起源について興味や論争が再び活発になっています。

過去の類似のウイルスは動物から人間へ飛び移ることで感染が始まったと見られていますが、SARS-CoV-2についてはこの人獣の繋がりはまだ見つかっていません。

カルテックの名誉教授および生物学特別栄誉教授のディビッド・ボルチモアは、ウイルス遺伝子の研究によりノーベル賞を受賞したウイルス学者です。ボルチモアは、生物工学における倫理について協議を行う場であるアシロマ会議を1975年に最初に主催しています。

私たちはSARS-CoV-2の起源について、ボルチモア教授と話し合いました。

(インタビュアー)SARS-CoV-2が自然に進化したウイルスであるとの主張する人々の論拠はどういうものでしょうか?また中国の武漢にある研究所にウイルスの起源があり、そこから誤って流出したとする主張にはどのような証拠があるのでしょうか?

(ボルチモア教授)自然に進化したウイルスだとする論拠は、どんなRNAやDNAの配列も時間とともに進化を通じ現れうるとする考えに基づいている。

生物学者たちは進化が何を作り出し得るかを目撃してきた。つまりは私たちを取り巻く自然そのものがすべて進化によって作られたのだ。我々生物学者は、進化はどんなものでも生み出せると考えている。

だが、進化がSARS-CoV-2を生み出し得るという事実は、必ずしも実際に進化によってそれが生まれたことを意味しない。思うに、私たちは武漢ウイルス研究所で何が行われていたかを明るみに出す必要が大いにある。まだ今の段階では、私たちは、SARS-CoV-2が自然に起源があるのか、または何らかの方法で遺伝子が改変されたのかを決めつけることはできない。


(インタビュアー)先日、あなたは以下のように発言したと引用されていますね。

「ウイルスの塩基配列の中にフリン切断部位があるのを見て、これはウイルスの研究所起源についての動かぬ証拠だと妻に言った。この特徴は、SARS2を自然に発生したウイルスだとする考えに、強力なNOを突きつける、と。」

この発言の背景を詳しくお聞かせください。

(ボルチモア教授)まず明らかにしておきたいのは、私は「動かぬ証拠」という言葉を使ったが、ゲノムそれ自体に動かぬ証拠があると考えている訳ではない。

SARS-CoV-2のゲノムには、このウイルスが属するベータコロナウイルスの特定の群ではまったく見られない12個のヌクレオチドの挿入が存在する。この群には塩基配列上SARS-CoV-2の最近縁のウイルスを含め、多くのウイルスが属している。だがそれらのウイルスのどれ1つとして、この配列を持っていない。この配列はフリン切断部位と呼ばれる。

もう少し詳しく話すと、SARS-CoV-2 のようなウイルスが細胞に感染するためには、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質が切断されなければならない。切断は厳密である必要はないが、いずれにせよ切断が必要となる。

言うなれば、ウイルスが違えばこの切断が起きるために好まれる細胞のハサミも違う。フリン切断部位はもっとも効率的に切断を行うフリン(タンパク質)を好む。タンパク質を切断するのにフリン切断部位は必ずしも必要ないが、それがあればウイルスはより効率的に感染することができる。

では、SARS-CoV-2のフリン切断部位はどこから来たのか?フリン切断部位を持つウイルスは他にもあり、コロナウイルスでもフリン切断部位を持っているものがある。だが、ベータコロナウイルスのSARS-CoV-2が属する群にはこの部位は存在しない。

であれば、この配列のヌクレオチドは別のウイルスから飛び移ったのだろう。これと全く同じ配列を持つウイルスが分離されたことはないが、おそらくは近縁のウイルスからやってきて、私たちが今日見る配列へと進化したのかも知れない。

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私は心の底から、この説明が正しいと信じたいと思っている。だが、この配列が生じる原因がそれだけではないことも、私は知っている。もう1つのあり得る原因は、人間がその配列をその場所に入れた、というものだ。配列を見るだけでは2つの要因のどちらかを言い当てることはできない。

だからこそ、武漢のウイルス研究所の人々がウイルスの遺伝的配列を操作していたのかを知りたいと思うのは自然なことだ。だから、これは何が起こったのかという記録の問題だ。

前にも言ったがフリン切断部位のこの配列は、ベータコロナウイルスのSARS-CoV-2が属する系統には他に存在しない。だから私は最初にそれを目にしたとき、人間がそれを挿入したと想定するのは合理的に思えた。今はそれが本当かどうかはまだ分からないが、この仮説を真剣に検討すべきことを私は知っている。

(インタビュアー)ウイルスの起源がどこかを知ることがなぜ重要なのでしょうか?

パンデミックを引き起こす感染力の高いウイルスがどのようにして生まれたのかを知れば、同じことがまた起きるのを防ぐことができる。

もしこれが自然に発生したのであれば、私たちは自然環境の監視を強める必要がある。私たちはウイルスに感染力を高めるような配列の変化を与えるきっかけとなった宿主を見つけ出さなければならない。つまり私たちは生鮮市場や、動物園や、ウイルスがある種から別の種へ飛び移るあらゆる場所を監視するのだ。

だが、もしSARS-CoV-2が人工的に生まれたのであれば、私たちは研究所の防壁を高める必要がある。研究所に起源があるという言うとき、私は意図的に放出されたと言っているのではない。

だが、研究所にあるものはそれが何であれ、研究所を抜け出して社会を大混乱に陥れる可能性があることを、私たちは理解する必要がある。つまり、このような研究は、バイオセーフティレベル4施設とよばれる場所でのみ行われるべきだ。

(後略)




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