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ジェレミー・ファラーのメールと著書からSARS-CoV-2の起源について分かること(1)

前回の投稿で解説したファウチ氏のメールに幾度となく登場した、イギリス側のパンデミック対策の中心人物ジェレミー・ファラーのメール記録が、同国の2000年情報自由法に基づいて7月5日に公開されました。

ファラー氏についてもう一度おさらいすると、2019年時点で327億ドルもの巨額資金を管理する世界第4位の慈善事業財団ウェルカム・トラストの代表であり、非政府組織として世界最大の科学研究への資金提供者でもあります。

ファラー氏は自身もオクスフォード大学で免疫学のPh.Dを取得し、イギリスのパンデミック対策を主導する非常時科学諮問委員会(SAGE)へのアドバイザーとして、政策に影響力を及ぼす立ち位置にいました。

この記事では、公開されたファラー氏のメール記録および、7月22日に発売された彼の著作である"Spike: The Virus vs. The People - the Inside Story"から、SARS-CoV-2の起源について新たに明らかになった事実を解説します。またこれらの資料から、ファウチ氏のメールよりも遥かに多くの事実が明らかになります。

なおメール記録は以下のリンクから誰でもアクセスすることが可能です。

では順を追って見ていきましょう。


2月1日、電話会議の調整メール

アイテム番号30番:ファウチ氏側のメール記録にも全く同じものが残っている、2020年2月1日に開催された欧米のトップのウイルス学者および公衆衛生政策責任者が参加した電話会議の調整メールがあります。

ファウチ氏の記録の解説記事で紹介したものと全く同じですが、黒塗りが入っている箇所が異なります。ファラー氏側の記録では参加者名も全て黒塗りされています。なおここではまだ新しい情報はないので、ファウチ氏側の記録の解説記事をご覧になった方は読み飛ばして構いません。

日付:2020年2月1日 15:43
差出人:ジェレミー・ファラー
宛先:||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||パトリック・ヴァランス(GO-Science)、|||||||||||||||||||||||
cc:|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||電話会議について
---以下本文---
開催日は2月1日((訳註:オーストラリアにいる)||||||||には2月2日)
情報と議題は完全に機密情報として共有され、次のステップに関して合意が得られるまで(訳註:外部と)共有してはならない。

電話番号は添付を参照。
入ったら自分の音声はミュートすること。
私は会議中もメールを常に見ているので、何か(訳註:接続などに)問題があれば||||||||か||||||||にメールすること。
もし参加できない場合は、私から別途協議の内容をアップデートする。

所要時間:1時間
開始時刻
シドニー:午前6時
中央ヨーロッパ時間:午後8時
イギリス時間:午後7時
アメリカ東部時間:午後2時
アメリカ西部時間:午前11時
(時間が間違っていないといいが!)

これまで電話協議に時間を割いてくれて、また今回の電話会議に参加してくれてありがとう。

アジェンダ
・概要、注力する内容と望ましい帰結 - ジェレミー・ファラー
・状況のまとめ - ||||||||||||||||||||||||||||||||
・意見のコメント - ||||||||||||||||||||||||||||||||
・質疑応答 - 全員
・まとめと次のステップ - ||||||||||||||||||||||||||||||||

||||||||||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||(まだ||||||||には連絡ができていない。誰かこれを転送してほしい)
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||||||||
パトリック・ヴァランス

このメールの後、会議の技術的なやりとり(「添付ファイルが見れない」など)が何通か続きます。


アイテム番号23番:電話会議開始の直前、48分前にファラー氏が参加者全員に送ったメールです。

差出人:ジェレミー・ファラー
日付:2020年2月1日 18:12(イギリス時間)
受取人:||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||、パトリック・ヴァランス
cc:||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
件名:電話会議について
---以下本文---
||||||||||||||||||||||||||||||||たちがこれ(訳註:添付ファイル)を共有してくれていて、会議で説明してくれる。ありがとう。
これが議論の枠組みを定めてくれると良いが。

なおこのメールもファウチ氏側の記録に残っており、黒塗りされた「||||||||||||||||||||||||||||||||たち」とは、クリスチャン(アンダーセン)とエディ(ホームズ)であることが、ファウチ氏側の記録から分かります。

後で解説しますが、ファラー氏の著作から、この会議に先立ってこの2名のウイルス学者がSARS-CoV-2の塩基配列の検証を行なっており、そこから分かったことをこの会議で話したことが判明しています。


2月1日、「バックボーンと挿入」

アイテム番号21番:電話会議が始まって37分後、会議中にファラー氏が受け取ったメールに衝撃的な一文が登場します。

差出人:|||||||||||||||||||||||||||||||||
日付:2020年2月1日 19:37(イギリス時間)
受取人:ジェレミー・ファラー、||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||、パトリック・ヴァランス (GO-Science) 、 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
件名:電話会議について
---以下本文---
そのバックボーンについても話すんだよね?挿入だけでなく。

「そのバックボーンについても話すんだよね?挿入だけでなく?」の原文は"We need to talk about the backbone too, not just the insert?"です。

「バックボーンと挿入」は当然ながら人為的なヌクレオチドの挿入と、その挿入先のバックボーンとなるウイルスのことを指していると考えられます。また後で解説しますが、ファラー氏の著作より、ほぼその解釈で間違いないことも分かります。

このメール記録には、黒塗りされた送信者がその直前にみずから受信したメールの本文がくっついており、その直前のメールのヘッダー情報がオランダ語であることから、オランダ人参加者のロン・フーシェかマリオン・クープマンズのいずれかであることが分かります。この2人のどちらかが、「バックボーンと挿入」についてファラー氏にメールしたと考えられます。

以下が該当部分のスクリーンショットです。バックボーンと挿入についての一文はちょうど真ん中にあります。

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おさらいになりますが、ロン・フーシェ、マリオン・クープマンズはともに世界トップクラスの実績を誇るウイルス学者です。

クープマンズは2021年3月にWHOチームの一員として武漢の起源調査視察に同行しています。またフーシェは、H5N1に哺乳類への空気感染能力を持たせる危険な機能獲得実験を行い世界で物議を醸した、機能獲得実験の最先端を行く学者です。

このメールから改めて、土曜日のディナータイムに世界中のトップウイルス学者が急遽参加して行われた電話会議の場において、SARS-CoV-2が武漢ウイルス研究所から人工的な改変を経て流出した可能性について、真剣に議論していたことが見て取れます。

2月7日、「自然進化のミッシングリンク」

アイテム番号11番:少し日をおいて、2月7日にイギリスの関係者だけでのやりとりのメールが公開されています。

差出人:ジェレミー・ファラー
日付:2020年2月7日 06:17(イギリス時間)
受取人:パトリック・ヴァランス (GO-Science) 、クリス・ウィティ 
件名:転送:電話会議について
---以下本文---
アップデートが2つある。
・夜の間に報告が来ていたが、中国のグループが99%類似のセンザンコウのウイルスを保有しているそうだ。これは恐らく非常に重要な発見で、もし本当であれば、これがミッシングリンクであり、自然進化における繋がりを説明してくれるはずだ。
・ヒューマンセルアトラスの連中に、n-CoVの鼻・喉・呼吸器・肺組織(注:原文はlunch tissueと書かれていますが、恐らくlung tissueの誤りと思われます)における発現と、それらが年齢、喫煙歴、汚染、性別などに影響されるかを調べてもらう

これまでのメールやりとり、および後から解説するファラーの著作を念頭におくと、「ウイルスが武漢研究所から漏れたのではないか」との疑念に囚われている中で、相反する自然発生説を説明してくれそうな物証が出てきたという伝聞を耳にし、少し喜んでいる様子が見て取れます。

いずれにしてもSARS2が研究所起源か自然発生かについて、ファラーの中心的な関心毎であったことが分かります。

ファラーの著書より - 人工ウイルスの可能性を疑う専門家たち

ここからは、今年7月22日に発売されたばかりのファラーの著書から、この電話会議の背景などに詳しく触れている箇所を和訳して紹介していきます。拍子抜けするほどあっさりと、ファラーは多くの専門家が人工改変説を信じていたことを明らかにします


原著51ページ

その頃には、新しく、より根深い危機が身をもたげていた。ウイルスの塩基配列が公開されると、人々はその分子構造についておかしな点に気づき始めたのだ。2020年1月の終わりには、アメリカの科学者たちがウイルスはまるで人間の細胞に感染するように人工的に改変されたように見える、と口にするようになった。信頼のおける科学者たちが、ウイルスが研究所から事故で漏れたか、意図的に流出させられたという恐ろしい考えを真剣に検討していたのだ。
スーパーウイルス研究所のある武漢で新しいコロナウイルスが発生したのは、あまりに大きな偶然だった。新しいコロナウイルスは、機能獲得研究と何か関係あるのだろうか?機能獲得研究とは、人為的にウイルスの遺伝子を改変することで病原性を高め、またフェレットのような哺乳類へ感染させることで、どのようにそれらのウイルスが伝播するかを追跡するものだ。そのような研究は、武漢の研究所のようなトップレベルの隔離施設で行われる。


原著52ページ

このウイルスにおいて特に目立った分子的な特性は、フリン切断部位と呼ばれており、ウイルスの感染力を高める働きをする。まるで山火事のように広がるこの新しいウイルスは、まるで人間の細胞に感染するためにデザインされたかのように見えた


原著53ページ

私は妻のクリスティーンとキッチンに腰掛けてこう話したのを覚えている。「これは人為的に改変されたウイルスかも知れない。研究所から誤って流出したか、あるいはもっと悪いことが起きたか。」まるで爆弾発言をしているかのように声を荒げた。

自身もエボラウイルスの封じ込め対策などに従事した経験からウイルスに詳しいファラーは、自らSARS-CoV-2が人為的に作られたのではないかという疑念を抱くようになったことを吐露しています。さらに、その疑念を抱いたのは彼だけではありませんでした。

今度はファウチ氏のメールにも登場した、h-indexで世界トップを走るウイルス学者のイギリス人エディ・ホームズと、アメリカ人のクリスチャン・アンダーセンが登場します。

この2人は、後にSARS-CoV-2の研究所流出説を陰謀論として棄却し、自然発生説だけが唯一の仮説であるかのような世論を形成した論文、"The proximal origin of SARS-CoV-2"を共著することになります。しかしその論文を出すわずか1ヶ月前に、2人ともSARS-CoV-2の起源について180°正反対の考えを持っていたことが明らかになります

エディ・ホームズ

クリスチャン・アンダーセン


原著60ページ

シドニーに帰るやいなや、エディ(・ホームズ)はクリスチャン・アンダーセンからZoom会議を求めるメールを受け取った。(中略)会議中クリスチャンはエディに対し、このウイルスについて3つ引っかかる点を感じていることを告白した

1つ目はウイルスをホストの細胞へ結合させる働きをするスパイクタンパク質の一部である受容体結合ドメインで、まるで人間の細胞に入り込むための「鍵」として完璧な働きをしており、(自然にしては)あまりにも出来すぎているように見えた。

2つ目は、この鍵が、感染力の強いインフルエンザなどに見られるフリン切断部位として知られる短い塩基配列を伴っている点だった。「これがあると、インフルエンザはスーパーパワーを発揮する。遥かに伝染性が強まり、病原性も高くなる」とクリスチャンは説明した。そして、その部位は近縁のコロナウイルスにはこれまで見られなかった

もし人間が動物のコロナウイルスを人間に感染させるために、何か一つ遺伝物質を挿入するするとすれば、これがまさに利用すべきものだった。

そして最後にクリスチャンは決定打を下した。彼は2002年にアウトブレイクを起こした最初のSARS-CoV-1のスパイクタンパク質を、まったく同じ方法を利用して改変する方法が述べられた論文を発見したのだ。(中略)2人はこの方法を使ってコロナウイルスを研究する研究所を1つ知っていた。武漢ウイルス研究所である。

なんと、その後D.R.A.S.T.I.Cリサーチのメンバーなどが信憑性の高い研究所流出説を再構築する仮定で行き当たったさまざまな疑念を、研究所流出説を封じ込めた張本人であるアンダーセン自身が誰よりも強く抱いていたのです。

このビデオ会議を終えたファラーは、SARS-CoV-2の起源を突き止めるため、次の行動に出ます。

ファラーの著書より - 転機となった電話会議の真相

原著63ページ

私の最初の仕事は、トップクラスの科学者のパネルを水面化で募り、私たちは何と対峙しているのかを熟考することだった。私は電話会議を招集した。既にいるエディとクリスチャンは、アンドリュー・ランバートボブ・ゲリーとも会話を重ねていた。(中略)ボブは、独自にこのウイルスのおかしな箇所を見つけ出していた。

(中略)私の妻は、オランダにあるエラスムス大学のマリオン・クープマンズロン・フーシェア、そしてベルリンのクリスチャン・ドロステンにも声をかけるべきだと私に勧めた。

(中略)このパネルはドリームチームだった。全員が世界中で尊敬を集め、確固とした自説を持ち、臆することなく互いに切磋琢磨する科学者たちだ。

そう、この科学者たちにアメリカのアンソニー・ファウチとフランシス・コリンズを加えたメンバーこそが、ファウチ氏のメールに幾度となく出てきた電話会議の参加者たちです。

つまり、あの電話会議は最初からSARS-CoV-2の起源と研究所流出説について話し合うための会議だったことを、ファラー氏自らが著書で明らかにしたのでした。

ファラーの著書でこの後の箇所では、電話会議に際して、それぞれの科学者たちが自説を展開する様子を詳しく述べています。

クープマンズ、フーシェ、ドロステンといったゲルマン系の学者たちは研究所流出説に否定的な一方、ホームズ、アンダーセンは研究所流出説を唱えます。

原著65ページ

「このようなウイルスにおける(塩基配列の)挿入は、自然界ではいつも起こっている」とマリオンは言った。「だから自然発生よ」

一方でクリスチャンは警鐘を鳴らすように「自然で起き得ることだからといって、研究所の起源が否定されるわけじゃない。特に最近縁のコロナウイルスには同じ特徴がないんだ。」と返した。

原著66ページ

あの会議の前の時点で、私は8割型は研究所由来のウイルスだと確信していた。」とエディは言ったクリスチャンは60-70%研究所起源だと信じており、アンドリューとボブもそう遠くなかった。私自身も、事態がそこまで不吉でないと信じることはできなかった。

次回の記事では、電話会議で彼らは何を話し合ったのか、そして研究所流出説を信じていたアンダーセンらが、まったく同時期にTwitter上では同仮説を陰謀論扱いしていた背景や、その後研究所流出説など最初から存在しなかったかのように考えを変えた理由に迫ります。

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