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第94回アカデミー賞全部門ノミネート予想(1/10付)

今年も賞レースの季節がやってきました。ゴールデングローブ賞の発表も目前ということで、現時点での全部門ノミネート予想を発表します。

用語集
・ゴールデングローブ賞 - GG
・英国アカデミー賞 - BAFTA
・クリティックス・チョイス・アワード - CC
・全米製作者組合賞 - PGA
・全米映画俳優組合賞 - SAG
・オーストラリア国際アカデミー賞 - AACTA
・インディペンデント・スピリット賞 - IS

作品賞

まず、前哨戦では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が圧倒的な力を見せている。既にシカゴやフロリダなど、大きな批評家協会賞の作品賞を制しており、CCやGGなどの重要賞でも軒並み主要部門での候補を勝ち取っているため、分かりやすい娯楽作品ではないものの、ノミネートは確定と言っていいだろう。

PTA新作『リコリス・ピザ』も強い。批評家・観客双方から絶賛を浴びており、ノミネートはほぼ当確なのだが、劇中で日本人の英語発音を茶化す場面が登場し、それが結果的に観客の笑いを誘う場面になっていることに対して強く批判がなされており、大きなバックラッシュを起こることは間違いない。トロントの観客賞を獲った『ベルファスト』『ドリームプラン』も確定枠と言っていいのだが、両作とも、批評家協会賞での受賞・ノミネートが若干伸び悩んでいるため、賞レース序盤特有のバズの弱まりが不安要素か。重要賞でどれだけ受賞を伸ばせるかがカギになる。

大作からは『DUNE/デューン 砂の惑星』『ウエスト・サイド・ストーリー』が当確とされている。前者は、SF映画かつ2部作の前編というハンデがありながら、作品賞枠が狭いGGの作品賞にノミネートされており、相当愛されていることが伺える。技術賞との大量ノミネートが期待できる。後者は、第34回の作品賞を受賞したオリジナルに匹敵する賞賛を得ており、アンセル・エルゴートの性的暴行告発を製作・宣伝側が無きものとして扱っているのは心底軽蔑するが、ノミネートへの障害物は(残念ながら)ほぼほぼ無いと言っていい。前者と共に、技術部門の席巻に期待がかかる。

インディ映画枠からは『コーダ あいのうた』が入るだろう。昨年、初旬のサンダンス映画祭で最高賞にあたる観客賞・審査員大賞をダブル受賞した作品で、通常、初旬に話題になった作品は不利になりがちな上、作品の配信時期もオスカーシーズン前の8月だったため、厳しくなるはずだが、見事GG・CCで作品賞ノミネート。第93回の『ミナリ』も同じパターンで作品賞候補を勝ち取っているため、本作も本戦ノミネートは堅いだろう。

今年は事前の予想で有力とされていながら、批評家評価が伸び悩んだ作品がかなり多かった。アダム・マッケイの『ドント・ルック・アップ』、デル・トロの『ナイトメア・アリー』、アーロン・ソーキンの『愛すべき夫婦の秘密』、リドリー・スコットの『ハウス・オブ・グッチ』が代表的な所と言える。後半の2作は、題材からスタッフまでがっちり賞狙いの作品だけに、賛否両論の評価は致命的に思う。『ナイトメア~』はこの4作の中では比較的高評価を受けており、CCの作品賞・監督賞候補にもなっているのだが、CCの作品賞候補作は枠数が多いため、毎年1作は本戦の主要部門に関わらない作品が出ている。そして、今年のその枠が『ナイトメア~』である可能性が高い。そんな中、『ドント・ルック・アップ』は候補入りする可能性がかなり高いと考える。というのも、マッケイの前作『バイス』は、Metacritic、Rotten Tomatoes双方で60点台という低めの評価で作品賞候補入りしており、マッケイの攻撃的な作品スタイルへの慣例的な否定評価と考えれば、あまり賛否は関係ないと言えるし、実際にGG・CCの作品賞候補を始め、AFIやナショナル・ボード・オブ・レビューのトップ10にも入っている。

今回から、作品賞の候補作が10作品固定になったため、個人的に非英語作品の作品賞候補入りに期待している。一番近いのは『ドライブ・マイ・カー』だろう。既に批評家協会賞で最も大規模な全米、ニューヨーク、ロサンゼルスの作品賞を受賞しており、この3賞の作品賞を受賞して、本戦候補入りを逃した作品は過去に無いため、かなり可能性は高いと言っていい。国際長編映画賞のショートリスト選出作だと、アスガー・ファルハーディーの『A Hero』とパオロ・ソレンティーノの『The Hand of God』も両者とも過去に外国語映画賞の受賞経験があることや、知名度を考えると有力ではあるが、両作ともキャリア最高の評価を得ているとは言い難いため厳しいか。ショートリスト外だと、アルモドヴァルの『Parallel Mothers』とパルム・ドールを獲得した『Titane』に可能性があるが、両作とも国際長編映画賞のノミネート無しに候補入りできるほどの力があるとも思えない。

ラスト1枠、『tick, tick… BOOM!: チック、チック…ブーン!』や『シラノ』は重要賞での作品賞ノミネートを獲得しているが、『ウエスト・サイド・ストーリー』とミュージカル映画枠の票を分け合う可能性が高い。インディ映画だと『スペンサー』や『C'mon C'mon』、『Mass』や『PASSING -白い黒人-』などの良作があったが、どれも前哨戦で思うように主要部門に入り込めなかったのが厳しい。ディズニーが大規模なキャンペーンを展開し始めた『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はじわじわとバズを伸ばしているが、マーベル映画特有の1作品として評価できるのかという問題点があり、『マクベス』もシェイクスピア作品とアカデミー賞の食い合わせの悪さが作用するのではないだろうか。となると、最後の1枠には『ロスト・ドーター』が滑り込むのではないかと予想する。GGの監督賞など、しっかりと重要賞でも存在感を発揮できているのが強みな上、現在、8年連続でゴッサム賞の作品賞候補作から1作は本戦作品賞候補作が出てきているので、今年のゴッサム賞を制した本作はノミネートの可能性が高いと考える。大きな不安要素は、批評家からは賞賛を受けているが、一般観客からは賛否両論の評価を受けている所だろうか。


監督賞

作品賞と同じ形になるが、前哨戦は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンが独走態勢に入っている。既に、ニューヨークとロサンゼルスの監督賞を制しており、この2賞を受賞して本戦のノミネートを逃した例は過去に1例も無いため、候補入りは確定と断言しても良い。

『DUNE/デューン 砂の惑星』のドゥニ・ヴィルヌーヴも確実だろう。前哨戦のノミネート歴も万全だが、何より、古典原作の映像化に臆せず取り組み、しっかり成功させた手腕への評価は絶大だろう。不安要素としては、2部作の1作目のため、2作目で評価をしたいという会員の存在が予測できる点だろう。ただ、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンは3部作の1作目で候補になっているため、そこは無問題だと考える。

『リコリス・ピザ』のポール・トーマス・アンダーソンも有力。GGでのノミネートを逃しているのが気掛かりだが、第90回で、重要賞での主要賞候補歴がほとんど無かった『ファントム・スレッド』で、作品賞・監督賞の候補を勝ち取ったサプライズを考えると、アカデミー会員のPTA人気が今回も発揮されるのではないだろうか。

『ベルファスト』のケネス・ブラナーは、前哨戦のノミネート歴だけ見ると当確に思えるが、厳しい予感がしている。まず、作品のバズが少し弱まり始めてる点だろう。作風的に批評家協会賞であまり受賞を重ねられていないため、他の監督に注目を取られている上、本来、作品のホームであるはずの英国インディペンデント映画賞で作品賞・監督賞のノミネートを逃すなど、案外致命的な候補漏れを喫している気がする。そして、3年連続でトロント国際映画祭の観客賞を受賞した監督は、監督賞を逃す(『ノマドランド』のクロエ・ジャオは金獅子賞も受賞しているため例外)という悪いジンクスが作られ始めている点も不安に感じる。現時点でノミネートされるには、GGやCCでの「受賞」が必要に感じる。

第91回以降、非英語圏監督の枠が1枠はあるが、今年も存在する前提で予想すると、最有力は『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介であろう。ここの予想に関しては、国際長編映画賞の受賞予想の監督をそのまま持ってくることになるため、予想理由は国際長編映画賞の予想で後述する。不安要素はこれまでこの枠に入った監督は、アルフォンソ・キュアロン、パヴェウ・パヴリコフスキ、ポン・ジュノ、トマス・ヴィンターベアと、自身の出身国以外の国での監督経験があるベテランなため、濱口監督がそのランクまで至っているかというと疑問が残る。となると、自国以外での監督経験のある『A Hero』のアスガー・ファルハーディー、『The Hand of God』のパオロ・ソレンティーノ、『The Worst Person in the World』のヨアキム・トリアーなどが有利になる可能性がある。

最後の1枠は、『ロスト・ドーター』のマギー・ジレンホールと予想したい。映画としては脚本先行型の作風ではあるが、派手な見せ場が無い作品ながら緊迫感を持続できている演出力は監督賞に値すると個人的には思う。GGでも監督賞にノミネートされている上、昨年に引き続き冷遇されてきた女性監督を評価する流れも受けて、投票する会員も多いだろう。

既に名作とされている映画化作品がある古典ミュージカルの再映画化というリスキーなプロジェクトを成功させたという点で『ウエスト・サイド・ストーリー』のスティーヴン・スピルバーグも強いだろう。ただ、『シンドラーのリスト』と『プライベート・ライアン』で既に完璧な受賞経験を残しているため、新鋭に譲ってくれまいかという気持ちを持ってしまう…

主演女優賞

前哨戦は、『スペンサー』のクリステン・スチュワートが独走状態。イギリス英語を習得し、スチュワートであることを忘れる程のなりきりぶりながら、決して物まねに留まらない繊細な演技を見せており、『ザ・クラウン』のエマ・コリンが記憶に新しい中、新たなダイアナ像を演じ切ったという点で考えても、ノミネートは確実だろう。『タミー・フェイの瞳』のジェシカ・チャステインも候補入りはかなり堅い。顔の骨格から変化させるメイクアップを施して、タミー・フェイの若年期から中年期にかけての約30年を演じ切っている。作品評価は伸び悩んでいるものの、役者の演技主体のシンプルな伝記映画のため、そこはあまり問題ではないかと思う。一部のオスカー予想家の中では、スチュワートよりも最有力候補に推す声もある。いずれにせよ、この2人が今年のフロントランナーだろう。

残り3枠。『ロスト・ドーター』のオリヴィア・コールマンも強い。前哨戦での強さはもちろん、『女王陛下のお気に入り』『ファーザー』でも発揮されていた微細に変化する表情演技が職人のレベルに達しており、人柄から来る本人自体の好感度の高さを鑑みても、ノミネートするんじゃないかと踏んでいる。『ハウス・オブ・グッチ』のレディー・ガガも、前哨戦で存在感を見せている。極端なイタリア訛りで捲し立てる演技は、如何にも重要賞好みという感じがするが、ニューヨークの主演女優賞を制すなど、批評家協会からの票もしっかり集めており、評論の面でも、作品としては賛否両論の状況を呈しているが、ガガの演技に関しては概ね好意的な批評が多いので、ガガ本人のスターパワーを加味してノミネートはしそう。

前哨戦のノミネートから見ると、『愛すべき夫婦の秘密』のニコール・キッドマンも有力なのだが、ルシル・ボールを演じるにあたって、「似ていない」という趣旨の批判を受けている。当然、この批判がバックラッシュになることは無いと思うが、よく考えると、伝記映画の演技としてのインパクトは、スチュワートやチャステインに比べると弱く見えてしまうのも事実だし、作品自体もパワー不足が否めない。候補入りするには、最後の一押しが足りないか。

最後の1人は『リコリス・ピザ』のアラナ・ハイムと予想する。昨年のグラミー賞にもノミネートされたHAIMのメンバーだが、映画初出演にして、その演技が激賞されている。既にGGやCCの主演女優賞にもノミネートされており、特にGGは競合が少ないミュージカル・コメディ部門でのノミネートなので、受賞が確実視されている。となると、この部門で受賞してオスカー候補にならなかった例は、2000年代に入ってからの21回中5回のみなので、作品自体のパワーも相まって、かなりの確率で候補になる可能性がある。

GGのミュージカル・コメディ部門で言うと、『ウエスト・サイド・ストーリー』で抜擢された新人のレイチェル・ゼグラーも有力なのだが、ハイムやその他の有力候補に比べると、キャリア的に地位が確立され切ってない分、GGでも本戦でも票は集めにくいか。『リスペクト』のジェニファー・ハドソンは、アリーサ・フランクリンを演じているだけあって、同じくアフリカ系アメリカ人女性の偉人を演じた昨年のアンドラ・デイや、一昨年のシンシア・エリヴォのノミネートを彷彿とさせるのだが、ただ、デイやエリヴォと違って、ハドソンはGGやCCを落としているのが痛いところか。非英語作品からは、『Parallel Mothers』のペネロペ・クルスが有力だろう。アルモドヴァルとの名タッグの最新作で、全米・ロサンゼルスの主演女優賞を制しているのは大きいが、GGやCCなど、点々で重要な賞を落としているため、候補入りするためには、SAGでのノミネートを受けるのが最低条件かも知れない。『The Worst Person in the World』のレナーテ・レインスヴェ、『Titane』のアガーテ・ルーゼルも、批評家協会賞での善戦を考えると是非候補入りして欲しいのだが、厳しいか。

主演男優賞

前哨戦では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のベネディクト・カンバーバッチが頭一つ抜けた成績を残している。ニューヨークで受賞し、全米とロサンゼルスでは次点に着けている。有害な男性性と相反するアイデンティティを持つ複雑な役回りを演じ切っており、ノミネートは確定と言っていい。『ドリームプラン』のウィル・スミスも確定と言えるだろう。テニスのウィリアムズ姉妹の父親リチャードを演じており、批評家協会賞でも一定の評価を残している。スミスの演技が評価される作品は、彼自身の存在が先走り過ぎて作品の評価が追い付いてないものが多かったように思うが、今回は作品自体後高評価を受けており、実在の人物を演じている点も考えると、重要賞で好かれるのはスミスの方かもなのかも知れない。

『tick, tick… BOOM!: チック、チック…ブーン』のアンドリュー・ガーフィールドも有力。重要前哨戦では軒並みノミネートを勝ち取っている上、GGのミュージカル・コメディ部門では受賞最有力候補とされている。演技の面でも、ジョナサン・ラーソンの焦燥する生活を捉えたドラマパート、ミュージカルシーン双方で見事なパフォーマンスを見せているため、候補入り確定とは言い切れないが、かなり堅いように思う。『マクベス』のデンゼル・ワシントンも、映画のルックが如何にもA24的な低予算アート作品の雰囲気のため、演技も批評家協会賞で愛されるタイプかと思ったが、しっかりとGG・CCでのノミネートを受けており、ワシントンのアメリカ映画界における位置付けの重要さを考えても、ノミネートの可能性は高い。

最後の1枠には『ドント・ルック・アップ』のレオナルド・ディカプリオを推したい。前哨戦で考えるとGGぐらいしか目立った戦績が無いのが不安だが、実生活でも、環境問題を訴えて続けてきたディカプリオの不安と矜持が混じったような中盤の演説シーンだけでもノミネートに値すると思う。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でノミネートしたなら、本作でもノミネートされないと整合性が取れないと思う。

前哨戦の結果だけ見ると、『シラノ』のピーター・ディンクレイジも有力ではあるのだが、ガーフィールドの候補入りが多くの媒体で確実視されている中、ミュージカル映画から2人選ばれるのが想像しづらいのと、他の有力候補に比べて作品力が少し弱いのがネックになると思う。『スワン・ソング』のマハーシャラ・アリは、それまでの前哨戦では息を潜めていたものの、いきなりGGの主演男優賞候補を勝ち取った点で、不気味な勢いを感じる。短期間で2度の助演男優賞を受賞した名優だけあって、SAGにしれっと候補入りして、本戦にもしれっとノミネートされている未来が見えなくもない。批評家協会賞でカンバーバッチ、スミス、ガーフィールドに勝るとも劣らないノミネート数を受けていた『Pig』のニコラス・ケイジについても気を張っておかなければならないが、作品が夏に公開されたインディ映画である上、イーサン・ホーク(『魂のゆくえ』2018年)/アダム・サンドラー(『アンカット・ダイヤモンド』2019年)/デルロイ・リンドー(『ザ・ファイブ・ブラッズ』2020年)などが代表的な、なぜか毎年登場する批評家協会賞を席巻するものの、重要賞からはガン無視される主演男優枠になってしまってる気がする。個人的には、『カポーティ』『パシフィック・リム』の名優クリフトン・コリンズ・Jr(『Jockey』)に頑張ってもらいたいのだが、意外と批評家協会賞で善戦しなかったのがキツい。流石にISとサテライトの2枚看板では並みいる人気俳優の中に切り込めないか。非英語作品からは、『ドライブ・マイ・カー』の西島秀俊、『A Hero』のアミル・ジャディディあたりが有力だと思う。特に前者は全米の主演男優賞を受賞しているため、基準が改定されて尖った候補作になりやすくなったBAFTA辺りでノミネートを受ければ、本戦候補入りも夢ではないのだが、元から英語圏で有名な俳優だったとは言い難く、相当な旋風を巻き起こさない限り厳しいか。

助演女優賞

恐らく今年最も激戦の部門と言っていいだろう。フロントランナーは、僅差で『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズだろう。オリジナルでリタ・モレノが演じ、助演女優賞を受賞した強い役柄な上、ブロードウェイ出身ならではの表現力が絶賛されており、『ウエスト・サイド・ストーリー』という作品の評価軸の中心にいると言っても過言では無い。

『ドリームプラン』のアーンジャニュー・エリスと、『ベルファスト』のカトリーナ・バルフもノミネートは当確だろう。前者は近年『ボクらを見る目』や『ラブクラフト・カントリー』の演技でエミー賞にノミネートされるなど、テレビ界で地位を確固たるものにしていたが、映画界でもその実力を再証明することになりそうだ。ウィリアムズ姉妹の母親オーラセン・プライスを演じており、父親役のウィル・スミスとのアンサンブルは強固そうで、受賞も狙えるラインだと思う。後者はテレビシリーズ『アウトランダー』で4年連続GG主演女優賞にノミネートされていたが、今作の演技で満を持してオスカー候補になるだろう。作品自体はバズの低下があるが、バルフは批評家協会賞・重要賞で幅広くノミネートされており、『ベルファスト』の中では最も候補入りが安泰な部門の1つと言っていいのではないだろうか。

『PASSING -白い黒人-』のルース・ネッガもノミネートして欲しい。白人社会で白人として生きる黒人女性を演じており、白人社会・黒人社会の双方で奔放に振舞う優雅さと、黒人としてのアイデンティティを偽ることの苦悩を一身に体現している。ある種、作品のテーマを一気に背負う様な役柄であり、実際に主演のテッサ・トンプソンを食う様なインパクトを残している。前哨戦の結果から見ても、候補入りの可能性はかなり高いと思う。

最後の1枠は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のキルスティン・ダンストと予想。もちろん作品パワーが最も強いうえ、前哨戦でも善戦しているため、ノミネートは当確と言いたいところだが、作品の俳優の表彰はカンバーバッチとスミット=マクフィーに集中している流れがあり、映画でも徐々に登場が少なくなってくる役回りではあるため、今年の混戦の中だと、思わぬ候補漏れをする可能性がある。

今、静かに勢いを増しているのが、『ロスト・ドーター』のジェシー・バックリーだ。オリヴィア・コールマン演じるラダの回想に登場する若き日のラダを演じており、現在のラダに強い傷を残す苛烈な育児の場面や、そこから解放されていく場面、全てを生々しく演じており、作品の複雑なメッセージ性を具現化する回想でもあるため、賞レースでの作品パワーが高まれば、候補に滑り込む可能性もあるだろう。

賞レース開幕前は最有力とされていた『Mass』のアン・ダウドは、批評家協会賞で意外と伸び悩み、重要賞でもCCのみのノミネートに落ち着いてしまったため、候補入りはかなり厳しくなってしまった。さらに、『Mass』からマーサ・プリンプトンもこの部門でエントリーされているため、同一作品で票を奪い合う可能性もある(実際、僕はプリンプトンの演技の方が心に残っている)。個人的には、喜怒哀楽複雑な感情を会話で表し切るこの2人の演技を無視するのはあり得ないと思うのだが、これが賞レースの厳しさなのだろう… 同じインディ映画からは『コーダ あいのうた』のマーリー・マトリンが有力か。コーダである主人公のろう者の母親を演じており、さすが主演女優賞受賞経験があるだけあって、深みのある演技を見せているのだが、作品の見せ場はトロイ・コッツァー演じる父親の場面に持って行かれてしまっている感じが否めない。個人的なダークホースを挙げると、『スペンサー』のサリー・ホーキンスが匂う。2度のオスカーノミネート経験のある名優であり、登場時間はかなり少ないものの、作品の持つシスターフッドの側面を体現する役柄であり、この映画に胸打たれた人なら賞に推したくなる好演を見せている。

助演男優賞

この部門も、助演女優賞と同じく混戦状態なのだが、あちらがレベルが高すぎるが故の混戦だとすると、こちらは突出した演技が無いが故の混戦に見えてしまう。まず、前哨戦は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のコディ・スミット=マクフィーが他を寄せ付けない受賞数を手にしている。既にニューヨークとロサンゼルスを制しており、作品パワーも相まって、ノミネートは確定だろう。『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァーも確定と言っていい。コーダである主人公のろう者の父親を演じており、作品の白眉の場面が、ちょうどコッツァーの見せ場の場面になっていることを考えると、インパクトはかなり大きいだろう。無名のベテラン俳優の躍進という点で、昨年のポール・レイシーを彷彿とさせるし、その上、コッツァーはGGの様な主要賞でもノミネートされているため、相当強いだろう。『ベルファスト』のキアラン・ハインズも確実視されている。重要賞で軒並みノミネートされており、現在68歳のハインズだが、映画では80歳近いお爺さんに見える点が評価されそうだ。

今年は、Wノミネートを狙える作品が2作ある。1作は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でのスミット=マクフィーとジェシー・プレモンス、もう一作は『ベルファスト』でのハインズとジェイミー・ドーナン。作品パワーで考えると、プレモンスが勝っているが、前哨戦での戦歴に関してはドーナンが勝っている。ただ、ドーナンはホームの賞である英国インディペンデント映画賞で候補を逃してしまっている。他のメインキャストが全員ノミネートされていることを考えると、不安になる候補漏れだ。プレモンスは前哨戦だけで考えると、批評家協会賞で数個ノミネートされただけで、本戦候補入りするには弱いだろう。しかし、昨年『ユダ&ブラック・メシア』のラキース・スタンフィールドが重要賞でのノミネート無しで候補入りしたことを考えると、プレモンスの候補入りも非現実的な話では無いのではないだろうか。

最後の1枠は、『リコリス・ピザ』のブラッドリー・クーパーと予想したい。賞レース開始前は、リークされた撮影現場での姿があまりにも強烈だったために、最有力候補とされていたが、徐々に他の有力候補に押され始め、今また密かにバズを取り戻している状況になっている。クーパー最大の不安要素は、出演時間の短さだろう。試写で鑑賞した予想家の中では、ノミネートされるにはもっと長い出演時間が必要だろうと指摘する意見もあった。ただ、演じている役が、バーブラ・ストライサンドの元交際相手として知られ、近年、セクシャルハラスメントの告発を受けるなど、悪名高い映画プロデューサーのジョン・ピーターズであることを考えると、インパクトは特大だろう(ちなみに、クーパーの監督作『アリー/スター誕生』のプロデューサーはピーターズで、クレジット表記やセクハラ問題を巡って議論があった)。

ちなみに、GGにノミネートされた『テンダー・バー』のベン・アフレックの候補入りを推す声もあるが、いかんせん作品のパワーが弱すぎるため、昨年の『モーリタニアン』のジョディ・フォスターや、『リトル・シングス』のジャレッド・レトのような形になると踏んでいる。

脚本賞

前哨戦では、『リコリス・ピザ』が大きくリード。数々の名作を作り出しながら、自身は一度も受賞経験の無いポール・トーマス・アンダーソンが、遂にオスカー像を手に出来るかも知れないと考えると、今からでもワクワクする。批評家協会賞・重要賞双方で戦績を残しているため、ノミネートは確定、受賞の可能性もかなり高いだろう。『ベルファスト』も作品賞有力作だけあって、重要賞では候補がマストになってきている。ここも確定か。

『ドント・ルック・アップ』『愛すべき夫婦の秘密』は、評価自体は伸び悩んでいるものの、ノミネートするのではないかと予想。前者に関しては、『マネー・ショート』『バイス』と2作連続でノミネートされたアダム・マッケイの新作であり、前2作の様に会話劇と情報量の詰め込みが評価されるだろうし、実話ベースの前2作と違いフィクション作品なので、ユニークな展開への評価が出てくるうえ、キャストが増えたことでの群像劇的な評価の軸も増えたため、ノミネートの可能性はかなり高いのではないだろうか。後者は、前者の様な、賛否分かれて当然の作品スタイルをしているという訳ではなさそうなので、状況的には厳しめであるが、やはりアーロン・ソーキンブランドの力は大きいのではないだろうか。

最後の1枠。前哨戦の結果や、作品賞での有力具合を見て『ドリームプラン』でも良いのだが、脚本の賞とスポーツ映画の食い合わせの悪さはあるだろうし、個人的には、この5作になるとあまりにも保守的でつまらないラインナップになってしまうので、そこは避けたい。となると、アスガー・ファルハーディーの『A Hero』が最後の枠を奪うのではないか。ファルハーディーは、外国語映画賞を受賞した『別離』でも実は脚本賞にノミネートされており、彼特有の胃が痛むような展開が続くシナリオは、既にアカデミー賞の会員には受け入れられており、今回2度目の脚本賞候補入りを果たせるのではないだろうか。非英語作品枠だと、他にはアルモドヴァルの『Parallel Mothers』も強いだろう。本作は国際長編映画賞のエントリーからは漏れてしまったのだが、第75回で『トーク・トゥ・ハー』が外国語映画賞にノミネートされていない状態で脚本賞を受賞したことを考えると、そこは無問題か。あとは、インディ映画から『Mass』『C'mon C'mon』のノミネートに期待していたのだが、どちらも前哨戦で力を発揮できずじまいなので(特に後者)、厳しいと言わざるを得ないか。

脚色賞

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が強すぎる。前哨戦では、ほとんどの批評家協会賞で、受賞か次点かノミネートを勝ち取っていて、ここだけは、ノミネートだけに留まらず、受賞も確実と言っていいのではないだろうか。

『パワー~』が強すぎるせいで、他の有力作が横一線になってしまっている気がするが、特筆するなら『ロスト・ドーター』だろう。作品としては、一般観客の評価が伸び悩んでいるものの、作品テーマのヘビーさを増幅させるような回想の使い方や、派手な展開が無いのに常にスリリングな緊張感が走っている脚本の妙は、映画を気に入らなかった人でも凄いと感じれる部分ではあるだろう。前哨戦を見るに、脚色賞ノミネートだけは確実視しても良いと思う。

そしてやっぱり『ドライブ・マイ・カー』は外せない。前哨戦では『パワー~』の次に受賞を多く重ねていたと言っていいだろうし、村上春樹の短編に、チェーホフの『ワーニャ叔父さん』を混ぜ込み、そこに濱口監督自身の演出論も入れ込む離れ業は、言語の違いを超えて会員の投票を集めるだろう。正直脚色のクオリティは、今年有力作として挙げられている作品の中でもずば抜けていると思う。作品賞・監督賞候補に向けて余裕を作るためにも、ここは絶対にノミネートしてもらいたい。

残り2枠は、かなり流動的かも知れない。個人的には作品賞候補作から『コーダ あいのうた』『ウエスト・サイド・ストーリー』という作品パワーが比較的強い2作を選ぶのがベターな選択になるのかなと思う。作品パワーで言うと、『DUNE/デューン 砂の惑星』も強くはあるのだが、2部作の前編で、原作の半分までしか脚色していないと考えると、票は伸びにくいのかなと思う。

他には、『PASSING -白い黒人-』も有力視されているが、そもそもの脚本自体がかなりこじんまりしているために、脚色の前に、"脚本の賞"としての選択肢から除外されてしまうタイプの作品かも知れない。『マクベス』もシェイクスピアというあまりにも古典すぎる原作が故、大量にある先行作品からの比較が免れられないだろうし、予告編を見る限りだと、映像先行型の作品にも見えるので、あまり票は集めなさそう。


国際長編映画賞

まずは、日本代表『ドライブ・マイ・カー』は候補落ちすることは無いだろう。個人的には「村上春樹の短編原作」「長尺」「配給があまり有名ではない」という様な点で、第91回で惜しくもノミネートを逃したイ・チャンドンの『バーニング』と照らし合わせて、勝手に落ちそうだなぁと思っていたのだが、全米・ニューヨーク・ロサンゼルスを始めとして、ここまで席巻されると、さっき言ったマイナス要素なんて吹き飛んで候補入りは安泰と言わざるを得ないだろう。

イラン代表『A Hero』も落ちることは無さそう。2010年代以降『別離』『セールスマン』で2度この部門を受賞したアスガー・ファルハーディーの新作だ。「10年以内に3度目なんてやりすぎ」という意見も絶対に出てくるが、それは受賞の時に出てくる意見であって、ノミネートの段階ならあまり関係は無いだろう。デンマーク代表『Flee』もかなり堅い。アニメーション・ドキュメンタリーの作品で、一昨年のカンヌ国際映画祭中止の為に立ち上がったカンヌレーベルの選出作品で、最初に話題になったのが2020年の5月にも拘らず、2021年1月のサンダンス、6月のアヌシー映画祭、9月のトロント映画祭と、定期的に権威のある映画祭に出品され、重要な賞を受賞し続けることで、今の今まで2年弱バズを持続させ続けている驚異的な一作だ。作品評価も『ドライブ・マイ・カー』と並ぶレベルの絶賛を得ており、史上初の国際長編映画賞・長編ドキュメンタリー映画賞・長編アニメーション映画賞の3部門同時ノミネートを実現させたい会員の存在を考えると、ノミネートはほぼ確実の匂いがする。

イタリア代表『The Hand of God』も確実と言っていい。というのも、今年はカンヌが1年越しの開催になったからか、カンヌで上映された作品がショートリストの15分の9を占めるという事態になっている。しかし、これまでのアカデミー賞の歴史を遡ってみても、国際長編映画賞の5枠がカンヌの作品で埋まったのは1度も無いのだ。だからこそ、カンヌ以外の枠が1つ出来ると考えると、ヴェネツィアで上映された本作は自動的に敵の少ない状態で候補入りをかけれる。さらに、今年のショートリストに入っているカンヌ以外の作品は、正直あまり強くないのだが、本作のみが、ヴェネツィアの審査員大賞を獲っている上、『グレート・ビューティー』で受賞経験のあるパオロ・ソレンティーノの新作であるという強みを持っている。ソレンティーノ自身の青年期から着想を得ているという題材の敷居の低さも含めて、確実だろう。

最後の1枠。前哨戦から考えると、ノルウェー代表の『The Worst Person in the World』が有力になるのだが、アカデミー賞で評価されにくいロマコメのジャンルであったり、既に発表されているヨーロッパ映画賞で作品賞のノミネートを逃したりしているのが引っ掛かる。メキシコ代表の『Prayers for the Stolen』やオーストリア代表の『Great Freedom』もカンヌのある視点部門で絶賛された作品だけあって有力だろうし、パナマ代表の『Plaza Catedral』も、メインキャストの1人の少年が公開前に射殺されるという事件があり、注目を集めてしまうだろう。ただ、個人的にはフィンランド代表の『Compartment No.6』が匂う。前述した『A Hero』と共に、カンヌのグランプリを同時受賞した作品で、こちらはヨーロッパ映画賞の作品賞にノミネートされている。長距離列車の同じ号室に乗り合わせたフィンランド人学生とロシア人鉱夫の交流というとっつきやすい題材もアカデミー賞好みのものを感じる。

長編ドキュメンタリー映画賞

まず、国際長編映画賞でも挙げた『Flee』は確定。『ザ・レスキュー』は、『フリーソロ』の製作チームが2018年に起きたタイの少年洞窟遭難事件を追ったドキュメンタリーで、撮影技術の絶賛と共に、トロントのドキュメンタリー観客賞を獲得するなどしているため、候補入りは確実だろう。

前哨戦だと、『Ascension』『プロセッション ー救済への行進-』が存在感を残していた。特に後者は、全米・ロサンゼルスの時点を獲得するなど、批評家協会賞で名前が上がる回数が多かったため有力だろう。最後の1枠は、『燃え上がる記者たち』と予想したい。昨年のサンダンス映画祭で、ワールドドキュメンタリー部門の観客賞を受賞しており、過去に『父から息子へ 〜戦火の国より〜』や『ハニーランド』などがこの部門を受賞しており、意外と隠れたオスカー候補への登竜門になっていると思う。何故か予想家からは割と無視されているのだが、PGAにもノミネートされている訳だし、可能性はかなり高いと思うのだが。

前哨戦を席巻している『サマー・オブ・ソウル (あるいは、革命がテレビ放映されなかった時…)』は、賞歴だけで見たら確定なのだが、『ジェーン・グドールの軌跡』/『ミスター・ロジャースのご近所さんになろう』/『アポロ11』/『ディック・ジョンソンの死』と、4年連続で前哨戦フロントランナーとクリティックス・チョイス・ドキュメンタリー・アワードの作品賞受賞作が候補漏れするという、悪いジンクスが生まれ出してしまっており、本作はそれに見事に嵌ってしまっている。クエストラブが監督だったり、サーチライト配給だったりと、通常のドキュメンタリー映画の規模感とはちょっと異なるため、このジンクスを跳ね返す可能性もあるにはあるが。コロナウイルスを題材とした『COVID-19 2つの大国の過ち / IN THE SAME BREATH』と『The First Wave』も、HBOとNEONという強豪配給の上、PGAにノミネートされているため、有力ではあるのだが、コロナ作品枠として票を分け合ってしまう可能性が高いか。

長編アニメーション映画賞

上記2賞で挙げた『Flee』はここでも有力候補。『ミラベルと魔法だらけの家』、『ミッチェル家とマシンの反乱』、『あの夏のルカ』の3作に関しても、前哨戦では軒並み候補入り、特に『ミラベル~』に関しては、『Flee』と受賞争いになるだろう。『ミッチェル家と~』と『あの夏のルカ』は、強いて言うなら、公開・配信時期が上半期でオスカーシーズンよりかなり早めだったため、不利になる可能性はあるのだが、そもそもアニメ映画の数が少ないため、そこは無問題になるだろう。

残り1枠は、『竜とそばかすの姫』と『ラーヤと龍の王国』のドラゴン対決になる。後者は、GGのノミネートを勝ち取っており、有力ではあるのだが、さすがに突出して絶賛されている訳では無いディズニー系列の3作品ノミネートは避けてくるのではないだろうか。前者は、日本アニメがノミネートされるための通過点と言っても良い、アニー賞の長編インディペンデント作品賞にノミネートされているため、候補入りの準備は万端と言える。

撮影賞

前哨戦は、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『DUNE/デューン 砂の惑星』が2大巨頭として、他を寄せ付けない強さを発揮。特にアリ・ウェグナーが史上2人目となる女性撮影監督として候補入りするのは確定か。

『ウエスト・サイド・ストーリー』は、ニューヨークを制しており、スピルバーグ作品の要である名手ヤヌス・カミンスキーの安定感のある撮影は票を集めそう。『マクベス』も、『ライトハウス』を彷彿とさせる白黒映像とスタンダードサイズ(『ライトハウス』はスタンダードサイズでは無いが)の使い方が光っており、デンゼル・ワシントンが主演男優賞から落ちたとしても、ノミネートされるだろう。

残り1枠、『ベルファスト』が候補入りするという見方が大きいが、僕は何度予告編を見ても劣化版『ROMA/ローマ』にしか見えないので、あまり予想に入れる気にはならない。となると、『ナイトメア・アリー』に候補入りして欲しい。作品評価が伸び悩み、作品賞などの主要部門でのノミネートが厳しくなってきたからこそ、デル・トロ作品特有の映像だけでも評価してほしく思う。

作曲賞

前哨戦は、『DUNE/デューン 砂の惑星』のハンス・ジマーが一歩リードか。重要賞は軒並み候補入り。さらに、映画賞だけでなく、グラミー賞の既にノミネートされている点は相当大きい。候補入りは確実。

ジョニー・グリーンウッドが今年は印象的なスコアを2作放っている。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で見せていた不穏な弦楽器の音使いや、逆に『ファントム・スレッド』の美しい旋律を、場面によって使い分けており、ある種、グリーンウッドの集大成的な劇伴になっていた為、ノミネートは間違いないだろう。『スペンサー』は、映像が完成されている為、あまり主張を激しくし過ぎない劇伴に抑えられているものの、オープニングに流れるシンプルなピアノのメインテーマが素晴らしく、この一曲のみでも候補に値すると思うが、まだ当確とは言い切れない。

『フレンチ・ディスパッチ』は、作品自体はそこまでパワーを持っている訳では無いものの、前哨戦で善戦している上、2010年代で2度の作曲賞受賞経験を持つアレクサンドル・デスプラが担当しているだけあって、ノミネートは堅いだろう。『ドント・ルック・アップ』は、前哨戦でハリウッドメディア音楽賞を受賞した為、候補入りの可能性はかなり高いのだが、全編に渡ってリズミカルな管楽器や、軽めのジャズが使われており、『パワー~』のような、風格ある劇伴を好む会員からの評価は得ずらいかも知れない。

非英語作品から、『Parallel Mothers』のアルベルト・イグレシアスが、GGなどの重要賞と、ロサンゼルスなどの批評家協会賞双方で善戦しており、イグレシアスらしい弦楽器使いが今回もキレキレなのだが、前作の『ペイン・アンド・グローリー』のメインテーマの様な、記憶に残るスコアに欠けているに感じてしまうのがネックかも。

編集賞(ここから説明を中断しています)

衣装デザイン賞

歌曲賞

美術賞

音響賞

メイクアップ&ヘアスタイリング賞

視覚効果賞


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