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第94回アカデミー賞全部門ノミネート予想(2/3付)

前回の予想から20日ほどが経ち、ゴールデングローブ賞の受賞発表や組合賞のノミネート発表があったので、また、noteでノミネート予想をやっていこうと思います。最終予想はBAFTAのノミネートが終わった後に発表します。noteでやるかは分からないですけども。

用語集
・ゴールデングローブ賞 - GG
・英国アカデミー賞 - BAFTA
・クリティックス・チョイス・アワード - CC
・全米製作者組合賞 - PGA
・全米映画俳優組合賞 - SAG
・オーストラリア国際アカデミー賞 - AACTA
・インディペンデント・スピリット賞 - IS

作品賞

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PGAのノミネート発表があったが、この10枠は前回から変えていない。

まず、PGAにノミネートされ、GGの作品賞を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ウエスト・サイド・ストーリー』はノミネート当確だろう。特に前者は監督賞・脚色賞でも最有力を勝ち取っている為、受賞の可能性も高い。ただ後者は、主演のアンセル・エルゴートの性的暴行告発への製作チームの対応が再び問題になっていることや、技術の組合賞で割と大きなスナブがあった点で、GG受賞直後の最有力候補の立ち位置ではもうないのかも知れない。

GGで脚本賞を獲ってバズを復活させつつある『ベルファスト』、DGA(全米監督協会賞)に滑り込んだ『リコリス・ピザ』、SAG以外の組合賞を全制覇した『DUNE/デューン 砂の惑星』を始め、『コーダ あいのうた』『ドント・ルック・アップ』『ドリームプラン』の、他のPGA・GG両方にノミネートされている作品も候補入りまでは堅いだろう。強いて言うのであれば、『ドリームプラン』はバズが若干落ち着いてきてしまった感じがあるので、予想外のスナブを受ける可能性はあるが、SAGのキャスト賞、WGA(全米脚本家組合賞)、Eddie(全米編集者組合賞)など本戦で重要になる部門の組合賞に軒並み入っているので、現時点で予想から外す理由は薄い。

どの予想家・媒体でも基本上記の8作を固定にしており、残り2枠をどの作品にするかで頭を悩ませている。2枠の有力作を挙げると、PGAに入った『愛すべき夫婦の秘密』、『tick, tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!』、CCに入った『ナイトメア・アリー』、SAGのキャスト賞に入った『ハウス・オブ・グッチ』、BAFTAのロングリストで健闘した『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』、一部の予想家に根強い人気を持つ『マクベス』、ゴッサム・ISの2大インディ映画賞の作品賞連覇の可能性が高い『ロスト・ドーター』、そして、全米・ニューヨーク・ロサンゼルスの3大批評家協会賞で作品賞を獲得した『ドライブ・マイ・カー』がある。大体の予想家は、この8作の中から入れ替わり立ち替わりで選んでおり、自分もこの中からの選出が妥当だと考える。

可能性が最も高いのは、PGAに入った『愛すべき夫婦の秘密』、『tick, tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!』なのだが、前者はここ数年何度か発生している「PGAに入ったものの、本戦では脚本賞止まりになる映画」枠(2015年『ストレイト・アウタ・コンプトン』、2017年『ビッグ・シック』、2019年『ナイブズ・アウト』、2020年『続・ボラット』など)に見えるし、そもそもアーロン・ソーキン作品は、2017年に『モリーズ・ゲーム』でPGA候補入りしたものの、本戦では脚色賞に留まったという前科(?)があるため、今回の候補入りもPGAの保守性及びソーキン人気が招いたものに見える。後者は、GG・CCで作品賞候補入りしているため、前哨戦の成績で見るとノミネートは堅そうなのだが、現状、候補入りが確実視されている部門がアンドリュー・ガーフィールドの主演男優賞しかなく、脚色賞・編集賞・音響賞など候補入りできそうな部門でも7、8番手ぐらいの強さなので、ここ10年、作品賞以外の候補数が1部門のみで作品賞候補を果たした作品は3作品のみ(2011年『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、2014年『グローリー/明日への行進』、2017年『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』)とかなり確率が低いことを考えると厳しい空気がある。

『ハウス・オブ・グッチ』、『ナイトメア・アリー』も作品賞入りするには評価が伸び悩み気味なため、監督の知名度と人気や、作品の規模の大きさが関係しやすいPGAでのノミネートを逃したのは致命的だろう。『マクベス』も重要賞の作品賞を逃し続けてる中で、対象外作品が多いため有利だったWGAを逃してしまったのが痛い。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はBAFTAのノミネーションがまだのため今は何とも言えないが、今年の大作枠は既に『DUNE/デューン』に取られてしまっている気がする。

個人的には、前回に引き続き『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』の候補入りを推していきたい。前者は全米・ニューヨーク・ロサンゼルスの作品賞を獲得しており、これまで、この3賞を制覇した上で作品賞候補入りを逃した例が未だ無いこと、後者はゴッサム賞の作品賞を受賞しており、ISの作品賞を受賞する確率も高く、これまでこの2大インディ賞の作品賞を受賞した上で候補入りを逃した例が無いことという明確な理由もあるが、せっかく作品賞の枠数が10枠固定になったのに、従来のアカデミー賞で評価されていたような映画が1、2枠増えただけになるのはどうも寂しい。なので、非英語映画作品と野心的なインディ映画に是非とも枠を勝ち取って欲しい。

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監督賞

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まず、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンの候補入りは確定。批評家協会賞で独走態勢に入り、重要賞のGGまで獲ったとなれば、受賞もほぼほぼ彼女で決定だろう。『DUNE/デューン 砂の惑星』のドゥニ・ヴィルヌーヴも候補入りまでは確実だろう。既にAACTAで受賞しており、この賞の設立以来、ここで監督賞を受賞して本戦にノミネートされなかった例は無いため、盤石と言ったラインだろう。

残り3枠は割と流動的に感じる。ノミネートの可能性が一番高いのは『ウエスト・サイド・ストーリー』のスティーヴン・スピルバーグだろうか。『リンカーン』以来、9年ぶりにDGAの候補になり、作品パワーも考えたらカンピオンに次ぐ有力候補になるはずなのだが、各種技術組合賞でスナブが続いており、作品パワーの高さ自体が疑われ出す状況になっている。アンセル・エルゴートについての回答を拒否したという報道のマイナスイメージや、若い監督や受賞未経験の監督に機会を回したいと、会員が投票を忌避する可能性も否定できない。枠に上がりやすいのも彼だろうし、逆に枠から落ちやすいのも彼なのではないか。ここは注視したい。

『リコリス・ピザ』のポール・トーマス・アンダーソンも入りそうだ。前哨戦では脚本賞中心の受賞だったが、DGAにしっかり候補入りしている。記憶に新しい『ファントム・スレッド』での大逆転候補入りで分かるように、オスカーに愛されている監督だけあってノミネート確率は高いと考える。不安要素は、日本でも話題になっているアジア人差別描写の点だが、組合賞の候補率を見るとそこまで影響を感じない。反動が起こるのであれば、ノミネートではなく受賞の時のように感じる。

DGAの候補や、GGの結果から考えると、『ベルファスト』のケネス・ブラナーが有力なのだが、前回の予想と同じようにノミネートを逃すと予想した。4回連続でトロントの観客賞を受賞した監督が候補漏れを喫していること(『ノマドランド』のクロエ・ジャオは金獅子受賞者の為例外)、そしてその4人の監督はDGAの候補に入ったのにもかかわらず候補漏れしたことを考えると、ブラナーも同じ轍を踏む可能性が高いと感じる。

ラスト1枠は、非英語圏監督枠から『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介が来ると予想。国際長編映画賞レースのフロントランナーにいるため、3年連続で国際長編映画賞の受賞監督が監督賞でも候補になっているジンクスから、今年も選ばれると考える。不安なのは、これまでこのジンクスで候補入りしてきた監督と比べると、世界的なキャリアに欠けるという所だろう。となると、『英雄の証明』のアスガー・ファルハーディーや、『The Hand of God』のパオロ・ソレンティーノの様な受賞経験者が候補入りしてそのまま国際長編映画賞も掻っ攫っていく可能性もなくはない。あるいは、パルム・ドール受賞の強みを生かして、『TITANE/チタン』のジュリア・デュクルノーがサプライズ候補入りしてくる可能性もあるが、作品自体のショートリスト漏れから忌避されてしまうか。

その他のコンテンダーとしては、『ロスト・ドーター』のマギー・ジレンホールが非常に匂う。俳優としてノミネート経験もある言わずと知れた名優の初監督作という強みの上、昨年、監督賞で女性監督がWノミネートされたこともあって、女性監督を正当に評価したいという流れの後押しもあるだろう。ただ、前哨戦は主演女優賞と脚色賞に評価が集まっており、監督賞での目立った前哨戦受賞歴がGG候補ぐらいしか無く、作品自体も好き嫌い分かれる作風なだけあって、BAFTAで監督賞にノミネート出来るか否かが分かれ道になるだろう。『ドント・ルック・アップ』のアダム・マッケイも不気味な勢いを感じる。前哨戦ではDGA以外の主要な組合賞を獲得しており、前監督2作で候補入りしていることを考えると急浮上する可能性は否めない。

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主演女優賞

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批評家協会賞では、『スペンサー』のクリステン・スチュワートが独走態勢だったが、SAGでまさかの候補漏れ。Twitterでは、映画ファンや予想家から大ブーイングを食らい、配給のNEONや、Variety、The Hollywood Reporterなどの大手媒体が話題にし、#JusticeforKristenStewartというタグが出てくる状況に。組合賞のスナブは通常弱点になるはずなのだが、ここまで影響力が形として浮かび上がると、逆にバズが高まって候補入りの可能性が高まったのではないだろうか。批評家協会賞での独走してたのに本戦候補入りを逃した例として、『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレットや、『アス』のルピタ・ニョンゴと比較する投稿もあったが、そもそもホラー映画と伝記映画の演技の性質や評価のされ方は違うし、スチュワートは重要賞開幕してすぐのGGに入っていることを考えると、全く的外れな比較だと個人的には思っている。

スチュワートの思わぬ失脚を尻目に、一気にフロントランナーに登り詰めたのが、『愛すべき夫婦の秘密』のニコール・キッドマンだ。賞レース開幕時はそこまで有力でもなかったのだが、試写会後の賞賛以降、重要賞に連続ノミネートされ、遂にはGGを獲得してしまった。昨年のアンドラ・デイの例を考えると、BAFTAやSAGの結果で戦況が変わる可能性は大きいし、スター役者を好むGGの傾向が出たとも考えられるため、受賞確実とは言えないが、前哨戦受賞歴を考えると、まず候補漏れは無い状態だろう。

個人的にキッドマンに次ぐ2番手だと思っているのが、『ロスト・ドーター』のオリヴィア・コールマンだ。SAG、GG、CCなどの重要賞を余すことなく抑えており、何よりも批評家協会賞での善戦歴もしっかりある。ファンを劇的に増やしたであろう伝説の第91回でのスピーチに代表されるように、コールマン自身の好感度や業界人気もある上、今年の有力候補の傾向的に、ここで彼女が外れると5枠全てが実在の人物の演技になる可能性がある。これまでの主演女優賞の歴史で実在の人物の演技で5枠埋まった例は無かった為、そこから推測するにコールマンの候補入りは安泰だろう。

前哨戦の候補歴だと『タミー・フェイの瞳』のジェシカ・チャステインも可能性は高いか。今回のコンテンダーたちの中では唯一、ぱっと見ではその俳優と判別できないほどの大きな特殊メイクを施して演じている。ただ、他の有力候補は大体作品自体も評価されているが、チャステインに関しては評価軸がほぼほぼ彼女の演技一本なため、作品パワーの面で不安が残るし、バリバリオスカー狙いの外観にしては、意外と重要賞で受賞を積めなかったのが割と痛い気がするので、本戦スナブを受ける可能性も正直うっすら見えてしまっている。

最後の1枠、ここが予想家の頭を悩ませている。前哨戦で考えると、『ハウス・オブ・グッチ』のレディー・ガガが行くと考えるの普通だし、スターパワーは他を寄せ付けないレベルで大きいのだが、如何せん作品はかなり賛否両論だし、過剰なイタリア訛りも他の賞に比べて会員の国籍が多様なアカデミー賞だと不評になるかも知れない。他のコンテンダーのことを考えてみると、GGを受賞した『ウエスト・サイド・ストーリー』のレイチェル・ゼグラーは、初映画出演作ということで、映画業界内部の事情がどうしても関わって来るオスカーだと地位不足感が否めないだろう。SAGの候補入りを果たした『リスペクト』のジェニファー・ハドソンは、アリーサ・フランクリンというアメリカの一大偉人を演じている為、会員の心証は良いだろうが、作品のインパクトが欠けている点でチャステインと似ており、毎年何人かは出てくるSAGのみでの候補者になってしまう空気が漂っている。『リコリス・ピザ』のアラナ・ハイムはGGを獲れなかったのが致命的だし、『The Worst Person in the World』のレナーテ・レインスヴェや『コーダ あいのうた』のエミリア・ジョーンズは、重要賞にほぼほぼノミネート出来なかったのが痛いだろう。その中で、食い込む可能性が高いのは、『Parallel Mothers』のペネロペ・クルスな気がする。アルモドヴァル監督とのタッグ作では、既に『ボルベール〈帰郷〉』でノミネート経験があり、『それでも恋するバルセロナ』での助演女優賞受賞経験もあるため、会員からの支持が厚いことが伺える。BAFTAでもロングリストから漏れてしまったように、重要賞ではあまり善戦しているとは言えないが、全米・ロサンゼルスの大きな批評家協会賞を獲得している為、役者のパワーで5枠に滑る込む可能性は大いにある。

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主演男優賞

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前回の予想に引き続き、『ドリームプラン』のウィル・スミスと『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のベネディクト・カンバーバッチが2トップ。特に前者は、賞レース開幕前や前哨戦でも有力候補に挙がり続けていたが、遂にGGを受賞したことで一気に受賞側に形勢が傾いたように見える。後者も、作品パワーが上昇している為、候補入りは間違いないし、GGに比べると野心的な選択をするBAFTAではスミスより好かれる可能性があり、受賞の可能性もまだまだ残している。

『tick, tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!』のアンドリュー・ガーフィールドも候補入りをほぼ確実なものにし始めているだろう。GGを受賞し、SAGでもしっかり1枠を勝ち取っている。強いて言うなら、上記の2者に比べると、若干作品パワーが弱めなことぐらいだが、それでも作品賞有力候補の範囲内なため、候補入りまでの問題は無いだろう。『マクベス』のデンゼル・ワシントンも前哨戦の重要どころをしっかり抑えている。シェイクスピア作品とアカデミー賞はあまり相性が良くないのだが、逆にワシントンはアフリカ系アメリカ人として史上初の主演男優賞・助演男優賞制覇などアカデミー賞や業界にとって非常に重要な人物であることを考えると、ノミネートされる可能性の方が高いだろう。

残り1枠。予想家の間では、『シラノ』のピーター・ディンクレイジ、『愛すべき夫婦の秘密』のハビエル・バルデム、『ドント・ルック・アップ』のレオナルド・ディカプリオの3人の争いとされている。前哨戦で見るとディンクレイジが1歩リードしているように見えるが、SAGを落としている上、作品パワーがかなり弱い。先日報道された『白雪姫』リメイクでの小人の扱いに苦言を呈したニュースで少しバズを盛り返したようにも見えるが厳しいか。対するバルデムとディカプリオは一定の作品パワーがある。しかし、2人ともあまり前哨戦で頭角を現せていたとは言えず、SAGに入っているバルデムでさえ、賞レースでの注目をキッドマンに取られてしまっているように見える。ここまで来ると、役者個人の人気からレオナルド・ディカプリオに分があるのではないかという気がする。ディカプリオがこれまで主演男優賞にノミネートされた5回の内、4回は作品賞の候補を勝ち取っており、彼と作品賞が組み合わさると強い傾向にある。そして、前回も言ったが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でノミネート出来たなら、本作でもノミネートされないと整合性が取れない。こういう予想の仕方は好きじゃないけど。

『Pig』のニコラス・ケイジは、SAGを逃したことによって、本格的にホーク/サンドラー/リンドーのラインに入ってしまっただろう。『ドライブ・マイ・カー』の西島秀俊の動向も気になるが、BAFTAのロングリストから落ちたことで、重要賞でのノミネートが0に決定。これはかなり痛い。

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助演女優賞

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まず受賞は『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズで確定だろう。賞レース開幕前から一定の予想を集めており、批評家協会賞でもトップを走り、重要賞にも軒並みノミネートされ、GGを受賞。さらに、あの『サタデー・ナイト・ライブ』でのホストを務め話題になり、全ての面で強すぎる。ここまで条件を揃えた状態で、受賞はおろか、ノミネートを逃すことはあり得ないだろう。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のキルスティン・ダンストも候補入りまでは堅いだろう。映画が後半に行くにつれ、若干印象が薄くなっていく登場人物であることが不安要素だと思っていたが、重要賞にしっかりノミネートされており、何より作品パワーが強い。『PASSING -白い黒人-』のルース・ネッガは、作品パワーの弱さを感じるが、重要賞での候補を勝ち取っている。映画のテーマ性を一身に体現する重要な役柄を演じているため、インパクトが大きい上、作品は弱いけれど、ここまで候補入りしているのは、作品パワーに頼らないで良いほど、1つの演技で印象に残しているということになるので、そこは彼女の強みになるのではないだろうか。

『ベルファスト』のカトリーナ・バルフも前述の3人と同じぐらいの重要賞候補率に達している為、候補入りの確率は高い。ただ、AACTAの結果が共演のジュディ・デンチに渡ったのが不穏に感じる。ここまで前哨戦では基本的にデンチがバルフを上回ることは基本的に無かったのだが、ここにきて大きな賞がこの受賞結果を出すのは何か変な感じがする。あとは、後述する助演男優賞のSAG漏れを考えると、『ベルファスト』組の演技部門の強さが微妙なラインになってきている気がする。とはいえ、今の所、候補予想から外すような大きい要因は無いのではないだろうか。

前回まではここに『ドリームプラン』のアーンジャニュー・エリスを加えた5人がトップ5としてほぼロック状態になっていたのだが、エリスがまさかのSAG候補漏れ。作品自体も若干のバズ低下があった時期にこの候補漏れは結構大きいように見える。自分はここに『ロスト・ドーター』のジェシー・バックリーが入ってくると予想したい。主人公の若き日という重要な役柄で、大きいシーンもしっかりある。前哨戦の受賞歴で言うと、エリスには及ばないのだが、受賞したボストン映画批評家協会賞がカギになると見てる。というのも、現在までに、18年連続でボストンの演技4賞から最低2人の本戦ノミネートが出ている。今年は助演男優賞のトロイ・コッツァーが候補確実として、主演男優賞は西島秀俊、主演女優賞はアラナ・ハイムと、バックリーが入らなかった場合、確実にボストンからのノミネートはコッツァーのみになる可能性が高い。このジンクスに当てはめると、バックリーは候補になる確率はあると思うし、何よりBAFTAのノミネートを勝ち取れそうな所が強いだろう。昨年の結果から推測するに、今最もアカデミー賞と合致率が高いのはBAFTAだろうし、バックリーはアイルランド出身であり、主演女優賞でのノミネート経験もある。評価形態が変わり、より面白い候補選びをするようになったBAFTAには愛される気がする。

残りの有力候補としては、『コーダ あいのうた』のマーリー・マトリンも可能性はあるが、前哨戦で思いのほか奮わなかったことと、どうしても同じ助演のトロイ・コッツァーにインパクトを食われてしまっている感じがする。『Mass』のアン・ダウドは、予想家界隈からは絶大な支持を得ており、アカデミー賞のノミネート投票が始まった際は、かなりの映画ファンが投票を呼び掛けていたのだが、配給側のキャンペーンの拙さも相まって、候補入りは厳しそう。エリスを押しのけてSAGに候補入りを果たした『ナイトメア・アリー』のケイト・ブランシェットも、作品パワーの弱さがあるため、結局はSAGお馴染みのスターパワーによる候補入りにしか見えない。リタ・モレノ、ジュディ・デンチ、メリル・ストリープのほぼほぼ功労賞組も、重要賞での戦歴に欠けるため微妙か。

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助演男優賞

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今年は割と混戦気味だった助演男優賞だが、批評家協会賞で独走していた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のコディ・スミット=マクフィーが、GGを獲得し、遂に最有力候補に躍り出た。前述のデボーズほどのガチガチ感ではないが、個人的にはほぼほぼ受賞は彼で決まりと見ている。

『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァーもめちゃくちゃ強い。割とスター揃いの今年の助演男優賞レースの中で、最も無名でのスタートと言っても良いほどなのだが、SAGやGGなど、無名役者に厳しい重要賞を次々抑えている。予想家の中では、スミット=マクフィーを打ち破って受賞するのではないかと予想している者もおり、とにかくこの2人がフロントランナーとして固定されているだろう。

『リコリス・ピザ』のブラッドリー・クーパーもかなり地位を上げてきた。賞レース開幕前は、撮影現場からリークされたクーパーの写真があまりに強烈過ぎて、一気に筆頭候補として名を上げていたのだが、試写後に、本戦に入るにはあまりにも登場時間が短いという意見が頻出し、ランクダウンを余儀なくされてしまった。しかし、前哨戦が進むにつれ、徐々に評価を伸ばし、SAGでのノミネートを果たした。BAFTAでも、去年のノミネートを見る限り評価されそうなので、ノミネートに予想したい。

SAGでのサプライズと言えば、『ベルファスト』のキアラン・ハインズとジェイミー・ドーナンの候補落ちだろう。個人的にはドーナンの候補落ちは予測していたのだが、ハインズまで落ちるとは思っていなかった。とはいえ、『ベルファスト』は未だ作品賞の有力候補の1つではあるため、2人の内、より前哨戦での候補数が多いキアラン・ハインズは候補入り出来そうだと思うが、ノミネートから漏れたとしても驚きはない。

前哨戦で見ると、SAGとCCに入っている『ハウス・オブ・グッチ』のジャレッド・レトは有力なのだが、予想とか関係なしに、こういうメイクアップで俳優の見た目と全く違う人物を演じる流れは好きじゃない。一応、私情主義の予想家を名乗っているのでここは自信をもって外したい。レトと製作陣は、助演男優賞がスナブされたスライドを見ながら、素でこういう役を演じられる初老の役者の出演機会を奪ったことを反省して欲しい。マジで。

残り1枠、個人的には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンスを推す。前回の予想で、作品パワーと、昨年『ユダ&ブラック・メシア』でのラキース・スタンフィールドのサプライズ候補入りがあったことからノミネートを予測したのだが、今回のプレモンスの演技がアカデミー賞に達する演技なのか疑問に思う所はあった。しかし再見してみたら、カンバーバッチ、ダンスト、スミット=マクフィーの割と攻撃的な演技合戦の中で、しっかりと落ち着いた存在感を見せており、かなり良かった。混戦気味のこの部門で、最後の1枠に困った会員が投票する可能性がかなり高いと思う。

残りの有力候補の中では、『ウエスト・サイド・ストーリー』のマイク・ファイストが匂う。作品パワーもさることながら、全米映画批評家協会賞の次点に入るなど、しっかりと大きな受賞・ノミネートも重ねている。ただ、重要賞での戦績に欠けるため、BAFTAでのノミネートを受けることが最低条件か。『愛すべき夫婦の秘密』のJ・K・シモンズもCCに入っている為、有力は有力なのだが、どうしてもアカデミー賞だと2014年に助演男優賞を席巻した『セッション』のインパクトが強すぎるので、可哀想だがあまり入る可能性が高い方とは言えない。『僕を育ててくれたテンダー・バー』のベン・アフレックは、SAG、GGと非常に大きな重要賞を抑えているのだが、如何せん作品パワーが弱すぎるし、昨年の『リトル・シングス』のジャレッド・レトパターンの再来の匂いしかしない。

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脚本賞

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まず、GGを獲得したのは『ベルファスト』。作品賞の有力候補であることや、トロント観客賞を受賞した作品が9年連続で脚本賞にノミネートされていることを考えると、ノミネートは当確なのだが、まさかのWGA(全米脚本家組合賞)で候補漏れ。ただこれはスナブではなく、単に作品がWGAの対象外だったことによるもので、本戦のノミネートにはあまり関係が無い。ただ、WGAとアカデミー賞の受賞の合致率を考えると、受賞は厳しくなったかもしれない。

『リコリス・ピザ』も候補入りは確実だろう。こちらはしっかりWGAにノミネートされており、他の候補作との評価の格の違いを考えると、恐らくWGAはこれが制すと思う。PTAの作品は、近年演出方法が変わったことから、脚本よりも監督の方面で評価されてきたが、今回では脚本賞にノミネートされた『ブギーナイツ』や『マグノリア』を彷彿とさせる90年代の作品の雰囲気を纏った一作になっている為、脚本賞の方面での評価が集まるかもしれない。ただ、映画内でのアジア人差別的ジョークの報道があり、まだ観ていないこちら側からすると、それが映画内の演出の問題なのか、それをジョークとして捉えて笑った観客の問題なのかは見えずらい所はあるのだが、投票を忌避する会員は一定数いるだろう。

『愛すべき夫婦の秘密』も入ってくるだろう。ご存知名手アーロン・ソーキンの作品という時点で、圧倒的なアドバンテージがあるし、WGA、GGなど前哨戦の結果も上々。さらに、作品がPGAに入ったことで、バズの高まりがある。『ドント・ルック・アップ』も可能性は高い。こっちもアダム・マッケイ新作という大きすぎるアドバンテージがあるし、『バイス』を超える展開の早さや、情報量、ギャグ、さらにそこに群像劇的な側面も入ってくるため、会員からの評価は確実に受けやすい。WGAとCCの候補になった『ドリームプラン』も有力ではあるが、あまりスポーツ映画が脚本賞に関わった例が少ないのがネックか。

残り1枠、一つ傾向として、現在までに16回連続で脚本賞1部門のみのノミネートを受ける作品が存在している。今年の脚色賞は作品賞有力作や演技賞有力作でガチガチなので、この枠が今年もあるとしたら脚本賞の方で起こると考えられる。Twitterでアンケートを取った際は、『カモン カモン』が一番得票を伸ばした。確かに『20センチュリー・ウーマン』では、WGAでのノミネートを受けずに本戦候補になったことを考えると、スナブ気味の本作の候補入りは、一番現実的に可能性があるだろう。個人的には『Pig』に不気味な勢いを感じる。主演男優賞ではもう巻き返しは難しくなってしまったが、脚本賞はオンライン映画批評家協会賞をサプライズ受賞するなど、若干可能性が見えてきている。この構図はイーサン・ホークが主演男優賞でスナブを受けたが、脚本賞では最後の1枠に滑り込めた『魂のゆくえ』の例を少し彷彿とさせる。ただ、『魂のゆくえ』の脚本は『Pig』以上に前哨戦で評価されていたので、若干見当外れかもしれないが。『Mass』も可能性が無いことは無いのだが、一室でのド真面目な会話劇という点で、大きな展開や、ユーモアのある会話を評価しがちなアカデミー賞からすると、若干外れてしまっている感じがする。

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脚色賞

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前哨戦では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が快走。ただ、WGAでは対象外により落選。ただ、『ベルファスト』の時と相反するようなことを言うようだが、こっちは作品パワーが強すぎる上、USCにはしっかり入っている上、逆に組合落選ぐらいじゃ動かないほど受賞が確実になって来てる匂いがする。

WGAの対象外作品で言うと、『ロスト・ドーター』もノミネートはされるのではないだろうか。批評家協会賞など前哨戦では、主演女優賞と共に評価が集中した部門であるため、USCの候補だけで入ることは可能なのではないだろうか。『コーダ あいのうた』も確実か。USCは逃したものの、WGAにはしっかり候補入りしており、最有力2作が対象外になったあおりもあって、WGAを受賞する可能性が高いことを考えると、上記2作の対抗策として位置していると思う。

今年、USCとWGAに両方入った唯一の作品である『DUNE/デューン 砂の惑星』も入る可能性が高い。2部作の前編で、原作の半分までしか脚色していない点が不安要素ではあるが、作品パワーのことを考えると、かなり有力だと思う。作品パワーとWGAで言うと、『ウエスト・サイド・ストーリー』は有力なのだが、ミュージカルの脚色という点で、既存の楽曲の力が大きく、脚本の評価がしづらい部分があると思う。

最後の1枠は、『ドライブ・マイ・カー』を推したい。批評家協会賞では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に次いで票を集めていた印象があり、特に全米とロサンゼルスの脚本賞を両方制した作品で本戦ノミネートを逃した作品は22作品中1作品しかないことを考えると可能性は高い。非英語映画としては『別離』がこの2賞を獲得し本戦ノミネートを勝ち取ったため、非英語作品としての不利さはかなり少ないと思う。

『マクベス』や『PASSING -白い黒人-』は今年の有力作が多く対象外になったWGAで候補漏れしたのが痛いし、逆にそのWGAに入った『tick, tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!』と『ナイトメア・アリー』は逆に今年の有力作が対象外だったからこそ候補入り出来た感が満々なので、今年の脚色賞レースは予想5作+『ウエスト・サイド・ストーリー』になる気がしている。

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国際長編映画賞

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ぶっちゃけ、この部門に関しては前回の予想で言いたいことはほぼ言い切っているから、あんまり詳しく掘り下げることもない。

日本代表『ドライブ・マイ・カー』がGGを獲得したことにより、遂に受賞を射程圏内に入れてきた感じがある。作風的に批評家以外に愛されない可能性があるかも知れないと思っていたが、重要賞の中でもとびきり大衆側によったGGを獲れたら不安要素はもうほぼ0と言っても良い。他部門での候補も期待されている部分でバズも申し分ない。

イラン代表『英雄の証明』イタリア代表『The Hand of God』の受賞経験監督の新作2作もかなり足元を固めてきた感じがある。前者はアカデミー賞のファルハーディー人気があるだろうし、後者は評価自体はそこまで高くないのだが、ソレンティーノの知名度と、5枠全てがカンヌの作品になることを防ぐ意味でもノミネートは堅いと踏んでいる。

デンマーク代表『Flee』も堅い。現在、長編アニメーション映画賞と長編ドキュメンタリー映画賞で候補入りがほぼ確実とされている中で、国際長編映画賞にもノミネートさせて、史上初のトリプルノミネートを達成させたいという会員の気持ちは強いと思う。そういう思惑を抜きにしても『ドライブ・マイ・カー』と並ぶほどの高評価を得ている作品を外さないだろうし、配給がNEONということでキャンペーンや訴求力にも長けているだろう。

残り1枠が、乱戦状態。前哨戦の結果だけ取り出すとノルウェー代表『The Worst Person in the World』が有力で、実際、ほとんどの予想家が『ドライブ・マイ・カー』に次ぐ2位か3位ぐらいに位置付けている。だが、前回も書いた通り、不安要素がかなりあると感じる。まず、アカデミー賞があまり評価しないロマコメというジャンルであることが大きいし、ヨーロッパ映画賞やGG、ISなど点々で獲れそうな賞を逃しているところに不安を感じる。フィンランド代表『Compartment No.6』も重要賞を抑えてはいるのだが、やはり決め手に欠ける部分はあるし、メキシコ代表『Prayers for the Stolen』もNetflix配給作品というとっつきやすさ、DGAの第一回監督賞で候補入りしたという実績があるが、これは昨年ノミネートを逃した『そして俺は、ここにいない』と全く同じ構図なのであまり期待できない感じがある。

となると、一昨年の『聖なる犯罪者』や去年の『少年の君』のように、サプライズがあるんじゃないかと思う。そこで推したいのがパナマ代表『Plaza Catedral』だ。人生に疲れた中年女性と彼女の家に転がり込んだ少年の邂逅というシンプルなあらすじもアカデミー賞好みだろうし、何より少年を演じた役者が公開前に射殺されたという事件があり、こういうものを予想の材料にするのは不謹慎だと思いつつも、これが齎す会員への心理的影響は否定できないんじゃないかと思っている。

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長編ドキュメンタリー映画賞

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恐らく、この部門1番の争点は、『サマー・オブ・ソウル』が『ジェーン・グードルの軌跡』/『ミスター・ロジャースのご近所さんになろう』/『アポロ11』/『ディック・ジョンソンの死』のように、近年生まれつつある前哨戦でトップの成績を残した作品はスナブされるジンクスに当てはまるのかどうかだろう。答えとしては、五分五分だが、現状は候補入りの可能性の方が高いと感じている。というのも、『サマー・オブ・ソウル』は監督が名ドラマーであり名プロデューサー"クエストラブ"であり、彼と言えば、昨年のアカデミー賞授賞式で音楽DJを務めたことでも記憶に新しい。まず、作品のガワの段階で上記の4作と比べ物にならない強みがある。そして、上記4作は関心の有無が割と大きく出てくる題材を扱っているが、本作は隠されてきた音楽フェスティバルという万人が興味を持てそうな題材な上、アメリカにおける黒人の歴史の転換点を描いたものでもあるので、かなり観客への射程が広いことが有利だろう。さらに、サーチライト・ピクチャーズ配給作品でもあるため、キャンペーンも上手く展開してくるだろうし、ジンクスを打ち破るまでの有利要素が兼ね備わっていると思う。

まず『Flee』は確定。ここに関しては言うことも無いだろう。『プロセッション ー救済への行進-』も有力。Netflix作品の為、話題に挙がりやすいし、作品賞を獲った『スポットライト』でも描かれていた聖職者の児童への性的虐待を扱っており、アカデミー賞的にも重要な題材とみなされるだろう。さらに、前哨戦でもCCドキュメンタリーアワードの作品賞候補を始め、全米・ロサンゼルスの次点にも着けているため、可能性はかなり高い。『Ascension』はCC、PGA、DGA、『燃え上がる記者たち』はサンダンス、IDS(国際ドキュメンタリー協会賞)、PGAなど大きい重要賞を抑えているため、候補入りすると予想している。

個人的に今年のこの部門のスナブ枠は、『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』だと踏んでいる。この『THE RESCUE』の監督は、2018年に『フリーソロ』で受賞を経験しているジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィなのだが、何故だか分からないが、過去20年のデータだとこの部門を受賞した監督の次回作は評判が良くてもスナブされるジンクスが出来ているのだ。例えば、『ボウリング・フォー・コロンバイン』で受賞したマイケル・ムーアの次作『華氏911』は、パルム・ドールを獲得したのにもかかわらずスナブされた。もしこのジンクスが本物なら、本作もスナブされてしまう可能性がある。あとこれは自分でも最低な予想の仕方だと思うが、監督の『フリーソロ』でのスピーチが酷かったからノミネートを逃す説も考えてる。

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長編アニメーション映画賞

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まず、GGを受賞した『ミラベルと魔法だらけの家』、そして、長編ドキュメンタリー映画賞と国際長編映画賞に続き『Flee』、この2作の候補入りは確定だろう。恐らく、アニー賞もこの2作が大作とインディペンデントの作品賞を獲るだろうから、ここは外れないだろう。

『ミッチェル家とマシンの反乱』もほぼほぼ確定ライン。『スパイダーバース』の製作陣が携わっているため、技術面やストーリーのクオリティは一定の評価を受けるだろうし、この部門はディズニーが一強状態になりがちなため、そこにメスを入れていくためにも、Netflix作品の本作を入れる会員も多いだろう。『竜とそばかすの姫』も細田守新作の為、可能性としては高い。ただ、アニー賞の長編インディペンデント作品賞を『Flee』が獲った場合、印象をそっちに持って行かれて候補漏れする可能性もあるだろうし、実際『未来のミライ』の候補入りには、アニー賞受賞の実績の影響もあっただろうから、不安要素が完全に無いとは言い切れない。

残り1枠は、恐らく『あの夏のルカ』と『ラーヤと龍の王国』のディズニー対決になるだろう。評価的には五分五分だと思うが、前哨戦では批評家協会賞で『ルカ』の名前の方を多く見た記憶がある。『ラーヤ』もアジア人の話という所もあって、アジア系の会員から票を集めそうな所はある。ただ、『ラーヤ』は全世界の公開時期が3月と、まだ昨年の賞レースが続いている時期の公開なのが分が悪いだろう。6月公開の『あの夏のルカ』の方に若干軍配が上がるのではないだろうか。

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撮影賞

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まず、批評家協会賞でトップを走った『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と、その次点に着けていた『DUNE/デューン 砂の惑星』が筆頭候補。重要賞ではより大規模な後者の方が支持されると思うが、いずれにせよ、この2作のノミネートは確実。

『マクベス』も確実とは言えないが、かなりの確率でノミネートは受けるだろう。一昨年の『ライトハウス』を彷彿とさせるような映像を見せており、ほとんど撮影が主役とも呼べるほどの映像の拘りっぷりや世界観の表現への貢献度を考えたら、候補入りは堅いと考えたい。

『ウエスト・サイド・ストーリー』は、名手ヤヌス・カミンスキーなだけあってノミネートは当確と思っていたが、まさかのASC(全米撮影監督組合賞)でスナブ。かなりのサプライズなのだが、カミンスキーは最近ASCを脱会したとの噂があり、それが影響した可能性がある。そうなれば、組合の内側のごたごたが表面化しただけなので、あまりノミネートまでは関係ない気がする(ASCの撮影監督は投票しないかも知れないが)。

残り1枠は、ASC候補の『ベルファスト』と『ナイトメア・アリー』のどちらかだろう。これまでのASCの35回の歴史の中で、ASC候補になった5作品がそのままアカデミー賞の候補になった例は5回しかない(内2回でASCの枠が5枠以上になっている)。となると、今年もどちらかが落ちると見るのが安全。より作品パワーのある『ベルファスト』の方が強いのだろうが、僕はやっぱり『ナイトメア・アリー』の方を推したい。デル・トロの作品で撮影を評価しなくてどうするのかって思いがあるし、やっぱり『ベルファスト』の方は、近年ノミネートされている白黒作品に比べるとキレがあまり良くないように見える。

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作曲賞

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撮影賞と同じく、筆頭候補は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『DUNE/デューン 砂の惑星』だろう。両作ともジャンルの全く違うスコアだが、GGを制し、音楽賞の最高峰であるグラミー賞にノミネートされている『DUNE/デューン』の方が受賞には近いか。

残り3枠に関しては、割と流動的と言える。この中で比較的有利なのは『フレンチ・ディスパッチ』か。既に2度の受賞経験があるアレクサンドル・デスプラが作曲しており、GGでのノミネートを勝ち取っている。ウェス・アンダーソン監督作品との組み合わせでは既に3度ノミネートされており、監督の世界観との調和性はもう折り紙つきだろう。デスプラ自身の人気と合わせてもノミネートされるのではないだろうか。

『ドント・ルック・アップ』も有力。アカデミー賞ではあまり評価されにくいジャズとエレクトロサウンドの組み合わせではあるが、バリー・ジェンキンスの監督作で既に2度の候補経験があり、最近では『サクセッション』の音楽でも人気を博しているニコラス・ブリテルの作曲だけあって、注目度は高いだろう。

残り1枠は何が来てもおかしくない。個人的には『スペンサー』を推したい。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で既に今年のノミネートは確実なジョニー・グリーンウッドの作曲だが、『パワー~』やPTA監督作などで見せた風格漂う格調高い音楽と、リン・ラムジー監督作で見せた攻撃的な音の設計の要素も入っており、彼のみにしか作れないような音楽になっており、今年はこの2作に加え『リコリス・ピザ』の曲も作った功労的な意味でも1つのノミネートに留まらすことは無いんじゃないかと思いたい。『ミラベルと魔法だらけの家』も、GGにノミネートされているため有力なのだが、CGアニメーション映画賞でのノミネートは、最新で第83回の『ヒックとドラゴン』なため、あまり評価されづらい傾向にある。音楽を題材にした作品である『リメンバー・ミー』でさえ候補漏れした中でちょっと分が悪い気がする。『Parallel Mothers』も、GGノミネートを勝ち取っているが、アルモドヴァル監督の前作『ペイン・アンド・グローリー』にあったような印象に残るメインテーマが足りない気がする。イグレシアス感が120%伝わるようなスコアではあったが、本戦候補は厳しいのではないか。

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編集賞

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編集賞にノミネートされる作品は、基本的に3つに分類できる。

①SF映画やスポーツ映画、アクション映画、音楽映画など映像の情報量が多い作品
②会話劇や政治映画など内容の情報量が多いためテンポが必要になる作品
③作品賞有力作

基本的に候補の5枠は、この3つの分類からバランスよく選ばれる。

まず①。この分類で当確なのは『DUNE/デューン 砂の惑星』だろう。Eddieの候補になっており、見せ場が続き、舞台が次々と入れ替わるストーリーを成立させた手腕と、ハンス・ジマーの音楽と映像との調和に関しては評価されるだろう。あとは、テニス映画の『ドリームプラン』も候補入りする確率は高い。編集のパメラ・マーティンはボクシング映画の『ザ・ファイター』で候補経験があり、近年では同じテニス映画の『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』も担当しており、スポーツ映画の名手だけあって有力なのではないだろうか。『ウエスト・サイド・ストーリー』も、名編集技師のマイケル・カーンが担当しているだけあって有力だったのだが、Eddieでまさかのスナブ。Eddieはドラマ部門とミュージカル・コメディ部門で分かれているため、候補の確率は高いはずなので、かなり痛いのではないか。作品パワーで押し切れるか。そのスナブと入れ替わるようにEddieにノミネートされた『tick, tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!』は、ある種②の要素も持っているため有利なのだが、作品パワーが足りないか。

②、今年はこの枠はあまり多くない。『ドント・ルック・アップ』は、アダム・マッケイ監督作だけあって、またもや編集の力が分かりやすく出ている。いつもの情報量の多い会話劇や、あえてぶつ切りにする外しギャグなどが炸裂している上、今回は群像劇の面があったり、視覚効果を使用した場面もあるため、前作『マネー・ショート』『バイス』以上に編集の力が評価されるだろう。Eddieにもしっかり入っている為、ここは堅そう。『愛すべき夫婦の秘密』も情報量の多いアーロン・ソーキン作品のため有力なはずなのだが、去年の『シカゴ7裁判』の編集がEddieを受賞しているが、今回はノミネートすらされていないので厳しい。

③は、現状、Eddieにノミネートされている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、『ベルファスト』、『リコリス・ピザ』の3作が丁度作品賞候補のトップ3と言っていいので、予想はしやすい。現時点では『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ベルファスト』がトップ2の為、ここが候補入りすると考えるのが堅実。

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歌曲賞

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前哨戦では、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」が頭一つ抜けた結果を残している。GGやハリウッドメディア音楽賞を獲得しており、ビリー・アイリッシュの歌唱というスターパワーがあり、2作連続で007シリーズの音楽が受賞を果たしていることを考えると、最有力候補で間違いなく、候補入りは確定だろう。

『ドリームプラン』から「Be Alive」も確定だろう。ビヨンセというスターパワーもあり、前哨戦での候補歴も万全。スポーツ映画という感動しやすいジャンルの曲なため、他の候補者より印象に残りやすいだろう。『ライオン・キング』の「Spirit」で候補漏れを経験した雪辱を果たすか。

『ミラベルと魔法だらけの家』の「Dos Oruguitas」と、『コーダ あいのうた』の「Beyond the Share」も、前者がミュージカル、後者が音楽映画であることを考えたら、ジャンル的に有利なのではないだろうか。「Dos Oruguitas」は既にGG、CCの候補になっており、作品が長編アニメーション映画賞の最有力候補で、「Beyond the Share」はハリウッドメディア音楽賞のインディペンデント部門を獲っている上、作品が作品賞ノミネートの可能性が高いため、どちらとも前哨戦、作品パワーの点で申し分ないだろう。

今年は他にもスターパワーのある主題歌がたくさんあるが、どれも微妙に欠点を持っていて、「Here I Am」はアリーサ・フランクリンの数々の名曲の後に出てくると印象が霞むだろうし、「Down to Joy」は曲が古臭い上、歌っているのが反ワクチン、反マスクの人間の時点で印象が悪すぎるし、「Guns Go Bang」はアカデミー賞向きの音楽ではないし、「Just Look Up」はそもそも映画での使われ方がネタ的な使われ方なので厳しいと思う。となると、結局ダイアン・ウォーレン御大の「Somehow You Do」になるのではないだろうか。2年前にノミネートされた『ブレイクスルー 奇跡の生還』の「I'm Standing with You」に比べると幾分マシな曲なため、ノミネートされる可能性はある。

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衣装デザイン賞

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まずは『DUNE/デューン 砂の惑星』『クルエラ』はノミネート確実だろう。両者ともCDG(衣装デザイナー組合賞)の候補になっており、前者はSF映画なだけあって様々なキャラクターや部隊に合わせた衣装が必要になるためデザイン数が多い上、抽象的なものから、実用性を兼ねたものまで様々な視点でのデザインが必要になる為、評価はされやすいだろう。後者は、まさしくファッションを描いた話の為、評価を受けやすい。

ファッション業界の話で言うと、『ハウス・オブ・グッチ』の候補入りも有力視されている。CDGやCCなどで候補入りしており、前哨戦では申し分ない。ただ、リドリー・スコット作品においてのジャンティ・イェーツは、割と職人に徹した仕事になる為、インパクトに欠ける可能性がある。そこが評価の分けれ目になるのではないだろうか。

個人的には組合賞発表前まで最有力に推していた『スペンサー』がまさかのCDGで候補漏れ。ただ、ジャックリーヌ・デュランは、第92回で受賞した『若草物語』でもCDGにノミネートされていなかったので、これは組合との相性の問題だったと考えると、個人的にはまだ5枠から抜けさせるほどでもないと思う。上記の作品に比べて規模が小さいので、衣装のバリエーションがそこまで無いのが1番の欠点か。規模で言うと、『ウエスト・サイド・ストーリー』は、沢山のキャラクターが登場するミュージカルの為、衣装のバリエーションで評価を受けるだろうし、作品パワーも加わってくる。

他のコンテンダーとしては、『シラノ』も衣装の豊富さで言ったら評価を受けやすい上、『ほんとうのピノッキオ』で昨年ノミネートされたデザイナーなため注目度も高いだろう。しかも、スケジュールの都合で映画の全衣装を1ヶ月以内にデザインしきったという逸話も何らかの評価に関わるかもしれない。『ナイトメア・アリー』は世界観が強いデル・トロの作品だけあって固定票はありそうだし、『星の王子 ニューヨークへ行く2』はメイクアップ&ヘアスタイリング賞と共にペアで候補になる可能性が見える。

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美術賞

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音響賞

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メイクアップ&ヘアスタイリング賞

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視覚効果賞

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