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アートはみんなのためにある?!

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創作活動、ライティング業のための研究ログ
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#創作大賞2022

「旅の鳥・*・第四部」

第5章 「迷い鳥」楽園の丘を離れ、数キロほど北へ飛んだところに、豊かに葉を茂らせたカシワの群生林が広がっていた。 ポーは沈んだ気持ちのままそこに辿り着くと、あちらの木、こちらの木と飛び移り、落ち着けそうな枝を探した。 そして気に入った枝が見つかると、しばらくの間じっと佇み、物思いにふけっていた。 そうしている内に、数日が過ぎて行った。 ある朝のこと、灰色の雲が空に垂れこめて薄暗く冷たい朝だった。 ポーが羽を休める枝近くに、一羽のモズがやって来た。 モズは、「キー、

「旅の鳥・*・第三部」

第4章 「楽園の丘で」海辺から北西へ飛び、「楽園」と呼ばれる小高い丘に辿り着くまで、半日もかからなかった。 初夏の天候に恵まれ、穏やかな風の日が続いていたし、ポーにとっては、翼に一番力が入る頃だったこともある。 緑豊かに生い茂るその丘が見えて来ると、たくさんの鳥の声も近くなり、そこが「楽園」と呼ばれる地だということが、すぐにわかった。 丘の斜面は、厚手の葉を四方へと伸ばすシダ植物で覆われていて、木々はひしめき合うようにぎっしりと、空に向かって様々な緑色の葉をひらめかせて

「旅の鳥・*・第二部」

第3章 「海辺の祝砲」その後、ポーは街を飛び回り、木が教えてくれたあの歌を忘れてしまわないように、繰り返し頭の中で歌い続けた。 歌いながら、街中にいろいろな色を発見して、「美しい光」や大切なものの意味について考えてみたが、考えれば考えるほど謎めいて、魔法の歌に思えて来た。 そして、街の木が言っていた「聞いてくれるものがいなくなったから」、「歌いたいという心を失ったから」という言葉を思い出すと、ポーは胸が苦しくなるような悲しい気持ちにもなった。 「この歌を最後まで聞くこと

「旅の鳥・*・第一部」

はじまり/命には、それぞれに生まれ持った固有の能力が備わっている。 例えば、息を吹けば飛んでしまうような米粒ほどの像を彫り上げる人がいたり、あるいは、たった一人きりで立派な聖堂を建ててしまう人がいたり、中には、流れる雲を見、空気のニオイを感じて先の天気が読める人もいれば、植物の声が聞こえる人、動物と話しが通じるような人もいる。 いかなる能力者も、当人たちにとっては、他の人にはない能力を自分なりに磨き上げている内に、それが大したことではなく、出来るようになってしまうものだ。