事実は小説よりも奇なり

neverland

学生の頃初めて耳にして、その歌詞の意味を理解しようとしても、到底想像できるものではなく、軽い頭痛すらしたような記憶がある。
人の感情の複雑さをこんなにも美しい言葉で表現することができるTAKUROは、この楽曲を作った頃、まだ30歳に足をつっこむかどうかくらいの年齢だったことを考えると、なかなかその才能が末恐ろしい。

決して暗い歌でないし、メジャー調だし、メロディーラインも比較てシンプルで、そこまで重苦しさはないけれど、歌詞が乗ると、急にその世界観が一変する。

この楽曲はJIROが作曲し、その旋律にTAKUROが詞を乗せている。
【TAKURO詞、JIRO曲】の楽曲の組み合わせは、詞曲を別メンバーが担当する組み合わせとしては最も多いのだが、いつも思いがけない化学反応を起こす。この楽曲において、その詞を持ってくるか〜という意外性と、でも何度も聴くうちに、このメロディーにこの歌詞以外はハマらないだろうなという確信を得ていく工程が心地よかったことを思い出す。
TAKUROは、自身の曲に詞を書くよりも、他メンバーの楽曲に詞を乗せる方が、よほど緊張するというようなことを言っているが、まさにこの楽曲については、ペンを執る手が少し重かったのではないか。
彼の実体験に基づく歌詞で、そのエピソードの詳細は、彼が綴った『胸懐』という自伝の中で、一つのテーマとして詳細に語られている。

TAKUROの詞とJIRO楽曲は非常に相性が良いと思う。このneverlandもそうだ。JIRO楽曲は、非常にポップで難しいことにあえてこだわらない、耳あたりの良い楽曲が多いのだが、この楽曲のように、メジャー調でありながらも、マイナー調に感じる楽曲も少なくない。アンニュイな感じというか、多少の気だるさのようなものが残る楽曲たちは、ある意味で中毒性があり、ついついリピートしてしまう。

この楽曲はわずか3分半ほどで、GLAYの中では、当時、結構短めに分類されるものだったが、聴き終わると映画を観たような気持ちにさえなるほど、ぎっしりと1曲に詰まっている感覚にとらわれる。
イントロのリズム隊の軽快そうなのに、重ために聴こえる不思議なリズムが、短編小説の中に誘(いざな)ってくれるようにも思えたり、タンバリンのような楽器のシャカシャカとした規則的そうで不規則な音が、逆に静けさの象徴のように感じられたり、1曲の中から感じ取れる情報量のなんと多いことか。

そしてきわめつけは、『UNITY ROOTS & FAMILY, AWAY』のリリースから20年後のツアーの時の「neverland」。圧巻だった。
今のTERUの声を想像しながら作ったのではないかと思うくらい、現在の声がこの楽曲の世界観をそのまま表していて、鳥肌ものだった。
20年後にこういう形でまとめてくれるのかと心震えた。

まだ秋は少し先だが、秋の夜長にホットワインでも呑みながら、ゆっくりと味わいたい。


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