お父さんは強い

まだゲームセンターが強かった頃、
大きなショッピングセンターのゲームコーナーに立ち寄って見たときのお話。
ストリートファイターに代表される格闘ゲームが売れに売れた時代、そのゲームコーナーも格闘ゲーム一色だった。
大体は対面式に筐体が設置してたあって、一応対戦相手の顔が見えない配慮がしてあった。
そこに小学生低学年だろうか?父親を引っ張るようにゲームコーナーに親子がやってきた。
低学年の男の子は父親を隣に座らせたまま、格闘ゲームを始めた。
まぁ低学年だから、そんなにうまく操作できてるようには見えなかったが、それでもコンピューター相手に数人をクリアしていった。
男の子は父親に「こいつな、すぐジャンプしてくるねん」「こればっかやってたら勝てんねん」とか説明をしている。父親は真剣に聞いている(のを装っている)感じだった。
なかなか微笑ましい。
しかし、血の通わないコンピュータ戦に飽きたのだろう、男の子は隣の父親に反対側に座り相手をしてほしいと頼んだ。
対戦台は見知らぬ人と対戦しやすいということで、相手が見えないようになっている。
父親は仕方ない…というような仕草で、裏側の対戦席へ行く。
しかし、父親は対戦ゲームなんて、ゲームセンターなんて来たこともないのだろう、どこにコインを入れるのか分かってない、ごそごそ周りを見渡して、そこで思考停止した「なんかわからん」と。
父親ピンチである。
反対側の男の子は、そんな事は知らない。父親を待っている間に、コンピュータ相手に勝負をしている。
ここで少しゲーム神の悪戯が発生する。男の子がその時のコンピュータを倒したタイミングで、画面が切り替わって父親が乱入したように見えたのだ。
男の子は父親の実力を過小評価しているのはさきほどの雰囲気からも明らかだ。
「父ちゃん、思いっきり来てよー」と叫んだ。父親は思考停止して、相手側に座ったままだ。男の子の叫んだ言葉の意味もわかってないのだろう。
男の子は6人ほどコンピュータを抜いていた。7人目ともなるとコンピュータも相当な強さだろう。
キレッキレの戦い方を男の子相手にやっている。
男の子の繰り出す単調な技に、コンピュータは父親は人間業ではない反応で対処してくる。コンピュータだもん。
男の子は思わぬ強敵に歓喜した「父ちゃんつえーー!!」と。
そして男の子の頑張りも報われず、男の子は敗けた。画面が終わりを告げる。良くわかってる人ならば、二人で対戦してるならば出ない画面になってるが、男の子はそんなことは知らない。ただ父親の思わぬ強さにすごく喜んでいた。
「さぁ、そろそろ行くで」と父親は男の子の称賛の声の中、手を引いてゲームコーナーを出ていった。
大人はずるいかもしれない。
でも父親の威厳が守られたならそれでいい、と思った。


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