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行ってらっしゃいのキス

「行ってらっしゃいのキスをすると事故率が下がる。」と風の噂で耳にした。結婚10年目の私は「ふーーん」と一旦は流した。が、事故率が下がるとなれば我が家も導入すべきでは?と、考え直す。

今の時代、得た情報が正しいかどうか自分で確かめる必要がある。

検索したところ「気を付けてね」の言葉でも事故率が下がるとの情報があった。ほほーう、これなら新婚でない我等が突然“行ってらっしゃいのキス”をするより、よっぽどハードルが低い。サイトによっては、朝「気を付けて」と伝えると事故率が7%減少する、と具体的な数字まであった。その7%、一体どうやって算出したんだい。

***

2年前、私は突然倒れた。
子供2人とイオンで買い物している時だった。エスカレーターで上の階に到着し、1歩踏み出したところまでは覚えている。目を覚ましたのは救急車の中。

「意識戻りましたか?イオンで倒れたんです。念のため、近くの病院に搬送中です。」救急隊員が、私の手を握りながら話してくれた。足元を見ると、心配そうに見つめる子供達。“あぁ、心配をかけてしまったな。”2人の表情を見て申し訳なく思った。

搬送先の病院には、既に主人の姿があった。救急搬送されたと聞いて、慌てて仕事を切り上げて駆けつけてくれたのだろう。これまた本当に申し訳ない。心臓も脳も一通り検査し、後日てんかんの検査もしたのだが、結局未だに原因は分からない。

あの日、もし意識がもどらなかったら。
その日から何度も考える。朝、主人にかけた言葉が最後になったのだろうか?私はなんと言葉をかけて送り出したのだろうか。

子供が無事学校から帰り、主人が元気に仕事を終え、夕食を家族笑顔で囲むことができるのは当たり前ではないのだ。

***

その日から、朝、主人と子供を送り出す時は、食器洗い中で手が泡まみれでも、ご飯をモグモグ食べていても、トイレで頑張っていようとも、急いで切り上げ、玄関に駆けつけるようにしている。

「気を付けてね」に加えて「元気に帰ってきてね」と最高の笑顔で言っているので、事故率は10%くらい下がっているだろう。みんなには内緒にしているが、心の中でアツーいキスもしているので、もしかしたら合わせて20%減くらいにはなっているかもしれない。

どうか、今日もみんなが元気に帰ってきますように。

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