【往復書簡】6通目(シモダヨウヘイ様)

拝啓 シモダヨウヘイ様

急行です。

だんだん涼しくなってまいりました。かと思えば昼間汗ばむ日があったり、雨が降ったり、なんだかせわしない陽気ですね。
シモダさんのお返事を読み、あらためて「風情」ってなんだろう、と想いながら辞書を引きました。そうしますと、またなんともフワフワした意味が出てきました。これはお返事の内容にあった「エモい」と通じるものがあるのではないでしょうか。確信はありませんが、「おもむき」「情緒」「はかない」のような意味で言いますと、中秋の名月を眺めながら飲むビールも「エモい」気がします。具体的にどういうところがエモいかというと、夏が終わり、これからだんだん寒くなっていく一方だから冬支度を考え始めないとなあ、と考えつつビールの冷たさに身震いするようなあたりがエモい気がします。ビールが飲めない人間の勝手な想像です。お月見シーズン、そろそろですね。

さて、前回のお返事、非常に耳が痛くなりながら目を通しておりました。なんせ日常的に「やばい」「すごい」を多用している身ですので。おっしゃるとおり、詳細を省いても共感し得る、とても便利で使い勝手のよい道具たちです。
「伝わったような気分」「伝えられたような気分」になれてラク、とおっしゃいますのは、人は他人と意思疎通することを目的としているため、なるべく手っ取り早い言葉で済まそうとするからでしょうか。ここでひとつ例を挙げますが、Twitterの140字という制限も「短い文章で共感を得たいから、手軽で便利な言葉を使おうとする」ことに拍車をかけている気がします。とはいえこれはあくまでも個人的な意見ですし、共感を得たいことを前提にしている点は少々強引だとは思いますが。そのどちらが良い・悪いとかいう話ではなくって、手軽な道具とより職人気質な道具、それぞれをうまく使いこなせるようになりたいです。
こちらこそ往復書簡のお相手をしていただき、ありがとうございます。この場ですとフワフワした「野暮ったい」ことについて飽き飽きするくらい話せる気がして、それがたいへん楽しいです。最近は私自身「本来自分の気持ちを伝えるための言葉があること」にすら気づけないことが多いので、よい勉強にもなっております。

質問へのご回答、ありがとうございます。「自分のことを全く知らない人にも正確に伝わるか」、この「正確に」というあたりがじつにシモダさんらしいなと感じました。人によっては、自分のことをまったく知らない人に「とりあえず伝わればいいや」と投げやりな言葉を選ぶ場合もあるように思います。言い換えれば、誤解を生みやすい状態を作ってしまう場合です。自分のことをまったく知らない人に何かを伝えたばかりに誤解を生んでしまうなんて身もフタもない話ですが(お恥ずかしながら私がそちら側の人間です)、仕事柄とおっしゃいますが、シモダさんはいつもそこに気を配ってらっしゃるように見えます。その姿勢、私も見習おうと思います。

もうひとつの質問にもお答えいただきありがとうございます。
ご回答の内容について触れる前に申し上げたいことがあります。いや、内容といえば内容になるのですが、ともかく文末の「言いあぐねる」、これを目にしたとき「オッ」となりました。ここでそういう言い回しを挟んでくるのか、と感激したのです。うーん、いいですね。絶妙に「自分も使ってみたくなる」言葉です。使ってみたさが絶妙です。言いたかったのはそれだけでございます。
そうそう、ご回答についてです。ここからが本題です。道具探し、勉強、楽しめる道具、探す遊び。このなかの勉強について思い出したことがあるのですが、以前ブックバーひつじがさんでシモダさんと私、それから女性のお客さまと三人で談笑したあと、あまりに勉強熱心でいらっしゃったその女性の方が帰られてから「(あの女性は)勉強を勉強だと思っていない方なのでしょうね。すごいですね」というような会話をしたことがありますね。会話をしたことがあるのです。いつとは言いませんが。とにかく、その勉強が勉強ではない感覚はシモダさんにとっての「読書」にも言えるような気がいたしました。楽しみながら勉強をしていると言いますか、勉強が遊びのひとつになっていると言いますか、非常にうらやましいと言いますか。違っていたらすみません。私も勉強そのものを遊び倒してやりたいです。
そして、ここでご回答のなかで気になったことを質問させていただきたく思います。もっと上手く書きたいし話したい、そんなときにもっとも役立った参考書的な本はありますか? または、印象に残っている本など、差し支えなければお教えくださると幸いです。

ここからはご質問いただいたことへの回答です。私が言葉を選ぶときに気をつけていることです。
なるべく「自分自身が理解できない、意味がわからない言葉は選ばない」ようにしております。意味を自分で説明できる言葉を選ばなければなんだか安心できない、自信のなさゆえです。あとは、パッと見のメリハリをつけるため、漢字が密集しすぎないようにしているくらいでしょうか。言葉を選ぶときに気をつけているのはそのふたつです。……絵と結びつかない回答になっている気がしますが、何かの参考になれば嬉しいです。

そうだ。「絵画」でひとつ思ったのですが、絵のアイデアもそうですが、語彙も結局は「組み合わせ」なのではないでしょうか。「エモい」や「マジ卍」のようなトレンドの言葉が出てくることはあっても、それらも何かと何かの組み合わせでしかないことにいま気づきました。洋服のコーディネートを考えるくらい、日ごろから言葉も気軽にコーディネートできたら楽しそうです。言葉のほかに注力したいものがあるのなら、コーディネートの選択肢を減らして定番化させるのもやむを得ない気がしますが(そうした場合、より長持ちする言葉がなんなのかも興味があります。やっぱり「うれしい」「たのしい」「大好き」といった類のものでしょうか)。言葉って、考えれば考えるほどにむずかしくなりますね。おもしろいです。

言葉といえば、ひつじが文学賞、締切は今月ですね。

応募作を読みつつ投票できるのをトマトスープを飲みながら待っております。あ、そうだ。トマトスープで思い出したのですが、今年のトレンド鍋は「発酵鍋」だそうです。鍋にもトレンドがあっておもしろいですね。

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