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生き延びた

2020年を振り返って、まとめる言葉が見つからない。
12月になってから街や撮影現場で強く思ったのは、
「あ、僕は生き延びたんだ。」
ということだった。

この文章を書けている僕も読めているあなたも、
2020年、
あんなにも、こんなにも、ひどいことが重なったのに、
でも、生きてる。

ただそれだけ。
それだけでしかない。
でも、それだけで良いと思う。

本当に、誰にとっても大変な一年だった。
苦しみ疲れた一年だった。

同時に暗いことな辛いことや直視出来ない事を、考えないようにしようよ、という思考の危険さにも思い至った。
快活な、健康的な、健全な、明るく、ハッピーなことだけに目を向けて生きることなんて、きっと出来ない。
そんなことを続けていたら、現実を直視できていないのと同じだ。
たいして悲しまないから、世界は良くならない。

暗いね、と言われることがある。
多分、僕は暗い。
明るい性格ではない。
でも僕は、僕の存在を通して、そんな人でも、生きていていいよね、と言いたい。
何処かの似た人たちのためにも、自分のためにも。

勝つことよりも負けないことが重要な1年だった。
幾つかの作品は僕の身体を通過していった。

1月に岡本玲さんと打った『ダニーと紺碧の海』という二人芝居は、自分にとってもとても大きな作品になって、広がり、という意味ではそこまでの訴求力は無かったかもしれないけど、人生のターニングポイントになった演劇だった。
生き方も、きっと、変化した。

今年は自分にとって大切な舞台も中止になり、多くの著名な俳優女優の自殺があり、僕も身近な人を亡くしたし、周りの役者たちが本当に本当に苦しそうだったし、同じように、それ以上に苦しんだ人達だらけだと思うし、事実、僕も苦しかった。
何人も周りの役者が役者を辞めた。

クリスマスや年末のムードに押し流れそうになったけど、大晦日、ふうっと僕は深呼吸をした。
ぐっと、堪えて、その、起きたことや、たしかに、いた人たちのことを、想う時間にしたかった。
なかったことにしたくない。なにもかも。

成河さんのブログから引用する。

1日で手に入れたものは、1日で離れる。10年かけて手に入れたものは、10年は無くならない。一生かけて大切になるものには、そうなるに足る苦みや悔しさの蓄積がある。

で、どれだけ生きてきたか、どのように生きようとしているかは、そのまま芝居に出るんだよ。面白いし、怖いね。
だから僕は、成果や効率を煽る全てのものを笑う。数字の大きさを誇示するあらゆるものを笑う。人間の弱さにつけこむそうしたシステムの一切を笑ってやる。

どこにいるか、じゃなくて、誰といるかだから。どこでやるか、じゃなくて、何をするかだから。

思考が近い俳優さんを発見出来て、嬉しい。

成果や効率。人気。そういうものを手放すこと。
くだらないゲームからは降りること。
ちがう価値基準を提出すること。

演劇と映画を通して、自己顕示ではなくお互いの傷口を見つめて、孤独を分け合って、"希望のようなもの"を発見していくこと。
自らの頭で、ものを考えること。
その自由と責任を追うこと。

2021年からは、そのことをもっと引き受けたい。
引き受けた作品をやりたい。

また準備の年になります。

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