隔離の公衆衛生的コストパフォーマンス


新型コロナウイルス感染症COVID-19についての情報をお求めの方は、厚生労働省の情報ページか専門家の情報をフォローしてください。私は専門家を紹介する立場にはありませんが、例えば以下の方などが穏当かと思います。
・押谷 仁(東北大学
・高山義浩(huffpost記事一覧
・岸田直樹(@kiccy7777
筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。本文でも伝聞調で「ようだ」が多用されていますが、それだけ信頼性がないということです。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

さて、前回までの2回では、隔離の法的根拠と実施能力について論じてきた。最後の今回は「実施の利益」についての問題を考える。

隔離や外出禁止命令は確かに感染が広がるのを抑止する効果があるだろう。しかし、それらには公衆衛生面だけ見てもデメリットがある。例えば外出自粛要請だけでも、ソフトなところでは高齢者の見回り訪問、もうすこしハードにすると訪問介護などが制約を受けるだろう。

また、普段の私たちの消費行動も、なにがしか「健康を買う」ことに繋がっていることが多い。今現在中国では厳しい外出規制で工場が操業中止に追い込まれているが、この結果としてサプライチェーンが一部停止し、マスクなど衛生用品の輸入も滞りがちとなっている。感染症の抑止は栄養状態を良好に保つことが必要と考えられているが、流通などが滞るまで外出禁止令を出し栄養状態が低下すれば、むしろ感染症へのリスクを高めるだろう。

外出禁止命令を出しすぎても、私たちの身体的・社会的な感染症への抵抗力を確実に奪っていくということは認識すべきである。

諸外国の外出禁止はどこまで持つか

私は上記のような基礎認識を持っていたが、これを文面にすることはためらっていた。なぜなら定量的根拠がないからである。とはいえ、中国をはじめとして、外出禁止を徹底することが厳しくなっているというニュースがいくらかはいるようになってきているので、それらを紹介する。

中国政府、工場の操業再開を推し進める-ウイルスの死者数は増加も」というニュースである。中国は発生地でありウイルスの特性が分かっていなかったことと、春節休みの最中だったためこれを延長する形で実質的な外出禁止を行っていたが、ウイルスの拡散覚悟での工場再開を試み始めている。記事中で写真が紹介されている医療用防護服の製造作業が紹介されているが、この原料となる繊維材料、輸送など、再開させるものは再開させないと感染症封じ込めもできないだろう。

また、シンガポールは監視カメラなども使った(日本の人権法制では無理であろう)徹底した隔離策を取っているが、記事中の専門家も

「今やっていることをいつまでも続けることはできない。緊急でない手術だからといってすべてを中止にし続けることはできないし、休日に出掛けるのを一切合切禁止することもできない」「最終的には少し緩めざるを得ないだろう」

という見解を示している。新型肺炎を治療した医師、あるいはその病院を「濃厚接触者」と見なして隔離するのも、やりすぎれば新型肺炎以外の病気やケガに対する治療を放棄することになるわけで、公衆衛生は悪化するだろう。

定量的な評価

外出禁止命令も隔離も、定性的には確実に公衆衛生を悪化させる。外出禁止命令は感染の拡大を確実に抑え込む「銀の弾丸」だが、中国が工場再開を模索しているように、また専門家がシンガポールの厳格な隔離も緩めざるを得ない時が来るだろうと指摘するように、可能な期間が限られた、「弾数の限られた銀の弾丸」でもある。これは個人的な霊感だが、中国のような強権政府でも2週間×2が1~2年の間に撃てる限度だろう(中国でも同じ論調のようだ)。日本では元々強制力のある外出禁止令は法令がほとんどないためさらに限られる。

このため、人権を無視して強権的政府だと仮定したとしても、外出禁止令や隔離はその「コストパフォーマンス」を考えなければならない。例えば感染者が0の時に予防的に外出禁止令を出す意味は全くないし、数える程度の状況で外出禁止命令を出してもやはりコストパフォーマンスは悪いだろう。一方で人口の10%が感染しているような状況で外出禁止令を出しても時すでに遅しである。どこかにベストなタイミングがあるだろう。

いつ外出禁止令を出すのがもっともコストパフォーマンスが高いか、実証的データはないだろうが、ある程度はモデル化も可能だろう。そんなことを書いているうちに今回のケースを題材にした論文も何本か出ているようである()。日本が強力な交通規制を発動するとして、いつにすべきかは検討できるものであると考える。

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