検査ストラテジーへの質問の回答

新型コロナウイルス感染症COVID-19についての情報をお求めの方は、厚生労働省の情報ページか専門家の情報をフォローしてください。私は専門家を紹介する立場にはありませんが、例えば以下の方などが穏当かと思います。
・新型コロナクラスター対策専門家(@ClusterJapan
・押谷 仁(東北大学
・高山義浩(huffpost記事一覧
・今村顕史(@imamura_kansen
・岸田直樹(@kiccy7777
・坂本史衣(@SakamotoFumie
筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。


noteおよびツイッターで繰り返し書いている通り、PCR検査の意義について

1) 特異的治療法がないので早期発見が早期治療に繋がらない
→アビガンなど早期投与で意味のある治療法が認可されれば変わるだろうと予測している
2) 無症候者の多さや潜伏期間の長さ、検査の感度の低さから、検査規模を大幅に拡大しても半分程度は取り逃すと考えられ、【検査+隔離】メソッドの効果は限定的で、濃厚接触者の追跡技術や予防策がより重要になる
→濃厚接触者の濃厚接触者を含む感染者の100倍の人数を隔離するシンガポール、教団クラスタに対し検査前から教団全体を隔離した韓国、早々に鎖国に舵を切ったベトナムや台湾、夜の街を重点的に封鎖して新規感染を減らしたタイや香港など、追跡・検査前隔離・予防が感染拡大防止の鍵になっている

と私は(ダイヤモンド・プリンセス号の全数調査を見ていたころから)主張している。


この主張に対して、特に「検査感度の低さ」についてだけクローズアップしてつついてくる人がおり、「本当に感度が低いのか?」「複数回検査すれば実質の精度は上げられる」というような疑問・主張を投げかけてることがままある。

これに対する答えは、「患者や濃厚接触者への複数回の検査はすでに実施されているし、その結果として検査を依頼した医師が感度の低さを指摘している」となる。以下、それについて簡単にまとめる。


まず、2月上旬の中国で、臨床所見が明らかに新型コロナであるため複数回検査されるが陽性にならず、7回、9回と繰り返し検査してやっと陽性になるケースが報告されていた。

数カ国の報道によると、最終的に感染していると診断されるまでに、最も多くて6回、陰性と判定されていた人がいたとされる。
――新型ウイルス検査には欠陥があるのか? 7回目で初めて陽性の例も BBC 2020年02月17日
8回続けて新型コロナウイルスの検査を受けたが陰性で、9回目に陽性となった症例があると明らかにした。……血液検査で新型コロナウイルスへの抗体が検出されたが、その後も[補注:PCR]ウイルス検査では陰性が続き、24日に陽性となった
――ウイルス検査9回目で陽性 中国・四川省の女性 共同通信 2020/2/28

同様のケースは日本でも見られ、例えば神戸市の152例目では3回目で陽性、155例目は5回目で陽性となっている。


中国での研究によれば、多くの研究ではPCR検査の感度は4~7割程度と報告している。Wang et al.は痰(72/104; 72%), 鼻 (5/8; 63%)、工夫すれば感度を上げられると主張している論文の紹介している先行研究では、Ai et al.​: 601/1014 (59%), Xie et al.: 162/167 (97%), Fang et al.​: 36/51 (71%), Luo et al.​: 1回目(71%)2回目(92%), Yang et al.​: 痰 (82.2%) 鼻(72.1%) 喉(61.3%).といった感度を報告している。


日本の場合、従前から解説している通り、公衆衛生のためと言えど市民の拘束は最低限にしなければならないという憲法上の要請から、入院患者は48時間に1度検査し、陰性だった場合にもう一度検査して二度連続陰性を確認して退院させると政令で決まっている。この陰性後の二度目の検査により、感度はある程度システマティックに計られており、「PCR検査は感度が30~70%」という値はここから来ているものである。

退院確認時の2回連続のPCR検査も、1度目は陰性であるにもかかわらず、2回目が陽性となる症例を数多く経験した。これらの経験から、PCR検査の感度はさほど高くないのではないかと考えられた。明確な検討はできていないまでも、感覚的には70%程度の感度ではないかと思われた。
田村格 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について 自衛隊中央病院

これは患者の退院検査に限った話ではなく、濃厚接触者であれば普通に2回目の検査は行われている。感度が低いとわかっているのだから当たり前である。

看護師は、クラスターが発生した「札幌呼吸器科病院」から転院してきた男性らのケアにあたっていました。11日に発熱や倦怠感などを訴え、自宅待機したものの2回目のPCR検査で陽性反応がでたということです。
――STVストレイトニュース 4/15
4月4日にPCR検査を受け、8日に陰性と診断された。が、その後も体調不良が続き、肺のX線検査を経て、9日に2回目のPCR検査を受けた。14日時点では結果を待っている段階
――「OKAMOTO’S」ハマ・オカモト コロナ陽性疑い 検査結果待ち 4/15

この検査感度の低さについては
1) 検体採取時の手技のブレ
2) 検体を喉より上でしかとらないので、肺にウイルスがいると採取しにくい
3) 潜伏→発症→治癒→再燃によるウイルス量の変化
などが原因と言われている。


無症候患者、潜伏期間、早期の自然治癒や再燃によってPCR検査対象になりにくい、あるいは陰性になる感染者が多数いることは、ダイヤモンド・プリンセス号の全数検査の結果により2月中旬には分かっていたことであり、国内外の多くの専門家はその時点で検査だけで封じ込めを狙うことの困難さを認識していた。

県担当者は「同僚は感染していたが、自らの免疫力で完治後に検査を受けたのでは」。一方、感染していても検査で陰性と判定される「偽陰性」の可能性について、県担当者は「否定はできない」と話した。
――「陰性」の人から感染か  大分県「ウイルス消滅後に検査か」西日本新聞 2020/4/4
中国での退院または検疫中止の基準(臨床症状と放射線学的異常がなく,2回連続PCR陰性を確認)を満たした医療従事者4人の全例が,その後5~13日後にPCRが陽転化していると報告している4)。またZouらは症状消失後もウイルス量はPCRの検出限界前後まで減少しながらも,比較的長期にウイルスが保持され,遺伝子が検出され続けることを示した
2回連続PCR検査陰性を確認後に再度PCR検査陽性を確認したCOVID-19の1例


ダイヤモンド・プリンセス号の知見は、後のイタリアの小村やアイスランドでの全数に近い検査でも裏付けられている。また、最近ドイツで行われた抗体検査の速報では、PCR検査陽性は全住民の2%であったのに対し、抗体検査陽性者は人口の15%であったという報告が出されている。これ自体は速報であり抗体検査自体の精度も問題になるところだが、ひとまず速報としてはPCR検査からの隔離というストラテジーで感染拡大を防げるという考えは甘すぎるということが示唆されるものである。



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