ウイルスについて「変異=ヤバくなる」と決めつけるのはやめましょう

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ちょっと「うーん」となる記事を見てしまった。

一点目、「バカンスで拡大」については、多くの国で6月末~7月初めに新規患者の極小を記録しており、夏休みにより感染の拡大が始まったらしい、ということは私もチェックしており、異論はない(念のため、記事化できるほど調べてはいないので、まともな研究にそれを覆されても不思議ではない)。

問題はもう一点のほう、「スペインで変異し」の取り扱い方である。記事を読むと、「変異のせいで猛威を振るうようになった」と読める、控えめに言ってもそういう勘違いを引き起こしやすい文章になっている。

スイスなどの研究チームがヨーロッパでの新型コロナウイルスの感染第2波について、突然、変異した型が原因の可能性があるとする論文を発表しました。

イギリスの新規感染者の約8割がこの型で、ヨーロッパで猛威を振るう第2波の要因となった可能性もあります。


これに関しては、著者はそれを否定している。英語記事の一部では、著者本人の言として「変異が感染力や病毒性を強めているという証拠はない」と強調している、と書かれている。

Dr Hodcroft stressed that there was “no evidence that the variant’s [rapid] spread is due to a mutation that increases transmission or impacts clinical outcome”. ——[元記事]

ツイッターで本人のコメントも確認したところ、むしろ「直近のSARS-CoV-2の増加の主たる原因ではなさそうである」と書いていた。


新型コロナの流行が始まって以降、「変異=ヤバい」と叫ぶ人が多い。4月頃は欧州とアジアの流行状況の違いを「ヤバいものに変異したから」と説明する人が後を絶たなかった。

しかしながら、変異したら必ずヤバくなる、というわけではない。4月には逆パターンで「アジアでは弱毒化変異が起きたから」という人もしばしばいたし、そもそも変異したら必ず形質の変化が起きるというわけでもないし、たいていの変異は変異したところで中立的だ、というのが今の分子時計的な考え方であろう。

もちろん、感染力が強くなったらその株は広がりやすくなるわけで、その意味で「広がったものに変異があれば感染力が強くなった可能性がある」と考えるのは無根拠ではないし、インフルエンザのように変異によって獲得済みの免疫をすり抜ける例もある。しかし、今回のウイルスでそれが発生するには、それが必然的に発生するほどの時間がたっていない。今回のウイルスは特段変異速度が速いわけではない、ということは確認済みである。

今回特定の株が大きく広がったことは、むしろボトルネック効果として知られる現象と考えるほうが良いだろう。何らかの理由で同種が減少した後に再び増加に転じた時、偶然増加しやすい環境にいたものが形質上の増殖力と無関係に広まる、という現象である。欧州では7月頃までにかなり新型コロナウイルスの感染抑止に成功しており、その後バカンスで気が緩んで広まったことから、ボトルネック効果が生じる条件は満たしている。今回広まった株は、バカンスシーズンの南欧のビーチの近くに偶然存在していただけで広まった、という説明が一番ありえそうだ、ということである。

今回研究者が事細かにシーケンスを解析しているのは感染状況の追跡のための「指紋」としての役割に期待するところが大きい、というのは論文著者が上記ツイートのスレッドでも言っておられることである。


この程度のことはある程度ウイルスについてアンテナを伸ばしていればわかることであって、報道が「変異=ヤバい」という偏見を煽るのが悪いといっていい。もっとも、その手の煽りは日本に限ったことではない。下記の記事の題名は「Mutant COVID-19 strain in Spanish farm workers sparked Europe's second wave: scientists」というものだが、「変異=ヤバい」という印象に訴えているのは明らかである。

それに対する読者の反応も「釣りタイトルには呆れた」という感じである。このあたりも世界中同じであり、マスコミももう少し節度を持ってほしいものである。



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