コロナ禍で明らかになる日本のデジタル化の遅れとかなんとか

感染症対策でのデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)の遅れを指摘する、ある意味で月並みな記事が出ていた。

コロナ禍で日本のデジタル化を語る記事だが……

これを読んだ時に最初に引っかかったのは、インサイトの欠如である。延々と「日本のITは遅れている」と文句を付けているが、そんなことは別にこの人が書かなくても分かっているわけで、肝心の「なぜ日本ではデジタル化が遅れているのか?」という点に切り込めていない(この点は後で扱う)。

加えて、技術への理解も足りない。氏はデジタル化の遅れの事例を列挙する中でCOCOAアプリをそれに混ぜている。

・政府が提供した「接触確認アプリ」も、6月19日の運用直後から不具合を起こした。

しかし、列挙された他の事例と異なり、bluetoothベースの接触確認アプリは今まで世界に存在しなかったもので、日本の対応は比較的早い部類に入る。理解していれば違う種類のもので混ぜてはいけないと認識するだろう。

またgoogle mobility reportの数字(の孫引き)から、日本の交通量削減率が欧米のそれより少ないのはIT化の遅れでリモート勤務ができないからだとしているが、欧米はそもそも出勤が法的に規制されているところが多いのはオックスフォード大学のデータから分かるところであり、有能なIT大臣がいる台湾は緩い規制で済んでおり交通量削減率は日本より低い。この数字をIT化云々の主張の根拠にするのは不適切だろう。

正直、ITもコロナ行政もよくわかっていないのに居酒屋で管巻いて「日本はITが遅れてるな!」と言っているのと同レベルで、特別なインサイトはないと感じた。(加えて言えば自分は「長期停滞の元凶」もEggertssonモデルを支持していてIT投資の少なさはその結果と見ている)。

なぜ日本ではデジタル化が遅れているのか?

日本でデジタル化が進まない理由は、定量的に調べたものは現在のところないとは思うが、その中の一つとして

■ 日本では業務フローに合わせたカスタマイズしたシステムを外注してしまう
■ アメリカではコア・コンピタンスに繋がらなければ業務フローをパッケージに合わせてしまう(繋がるなら内製する)

という意見はよく聞くし、自分もそう思うところがある。ソフトウェアはコピーが容易なだけに、一つのものを多くの人で共有するほど開発効率が上がる。逆に言えば「自社専用カスタマイズ」などを加えてしまうとその分だけ自社専用メンテナンスをして自社専用テストを走らせなければならず、効率が悪化する。

この点で、デジタル化を進めていくカギは、開発者の技術力より、業務フローを整理していく管理能力のほうにある、という側面があることは指摘しておいて損はないように思う。

特に、当該記事が指摘している厚生労働省・保健所周りのデジタル化の遅れは、感染症対策が各都道府県の裁量権が大きかったゆえの業務フローのバリエーションの多さでファックス水準の疎結合を選ばざるを得ないという点が大きく影響しており、解決には各都道府県の業務フローから共通部分と非共通部分を抜き出すなどの、非デジタルな部分での洗い出しが必要な状況である。

デジタル化して意味があるかどうかは、まず要件定義に至る道程、コード以前、デジタルがなくてもできるところの良し悪しで決まってくるというところであり、そこを何とかするのがまず一歩目である。

なぜ日本ではデジタルトランス化が遅れているのか?(本気で)

上記のようなはなしは日本でデジタル化がうまくいっていない理由の一つに過ぎないだろうし、そもそもそれが重要で決定的かどうかもわからない。この点について、深堀りもせず「日本は遅れてる!」とだけ叫んでいれば原稿料が入ってくる人たちばかりが増えてもしょうがないので、様々な知見を合わせたものが出てきてほしいと願う次第である。

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