検査論争で考えるべきこと(その2)

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筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

従前から検査を増やすべきだという議論は多いが、その中で「増やせ」側の議論で「大量検査できるXXという製品を使え」という意見や、「増やせないという側の議論で「検査用の試薬が足りない」という議論を見ることがある。

試薬は器具ごとにバラバラに出回っている

一口に検査といっても、器具も、器具に対応した試薬も、各種様々なものが出回っており、試薬調整の終了と認可のタイミングもばらばらである。今回の日本国内の様子では、多くの製品で4月ごろに認可が通っている。

例えば、ロシュの製品はLightMaxが3月7日に、大量検査に対応したコバスシステムが3/25日申請、4/7に許可されている(日経の報道によるとアメリカでの緊急使用許可は4月12日)。SARSの時には栄研化学のLAMP法がよく話題になったが、今回栄研化学が新型コロナウイルス用の試薬を発売したのが4月9日である。島津の時間短縮試薬の発売は4/10杏林製薬のGeneSoC向け試薬は4/24日発売であった。

手間を省いても安定した検出ができるようにするには気を付けねば使えない不安定な試薬は使えないわけで、そのためにも調整に時間がかかるのは致し方ないところである。

また、調整が不十分な状態で拙速に検査法を立ち上げてもうまく行かず、今回はそれによる感染拡大が疑われるケースがある。例えば今回感染者数1位のアメリカでは、CDCが試薬の調整に失敗し、検査体制の立ち上げが遅れるという事件があった。感染者数2位のロシアでは検査キットの精度の不足が指摘されており、警戒態勢をとっているにもかかわらず政治首脳を含めて感染が広がっているのはこの影響がうかがわれる。

他国では大量に検査が行われているところもあるが、果たして十分に検証を経た機器・試薬なのか、それとも標準化された機器があってスケーリングが容易なのか、このあたりは気になるところである。

検査のボトルネックは様々なところにある

また、検査のボトルネックは必ずしも器具などにあるわけではなく、様々なところで起こりえる。例えば、以下のようなものが考えうる。

・医師による検体採取の労力的負担がある
・検査機器が不足している
・(臨床対応まで訓練された)検査技師が不足している
・消耗品の試薬が不足している
・検査機器や潜在的な技師の供給はあるが、標準化されていない
・検査機器や潜在的な技師の供給はあるが、予算が不足している
・隔離までの法的対応を行うための行政的な部分で渋滞している

等々、軽く考えるだけでも様々なところに問題が生じうる。これらのどこに問題があるかは、専門の行政官が立ち入って総合的にコーディネートしないと解決は難しいだろう。今のところ我々が「こうすればうまく行くはずだ」と言ったところで、おそらく野球の観客席で選手に対して指示を飛ばすようなヤジよりは精度が低いと考えておくべきである(もちろん的確な指摘もまれにはあるのだろうが、そうでないものがほとんどであろう)。

そもそも検査の目的は何か

また、検査の目的によって最適な検査というものも変わりうる。例えば「陽性率を下げろ」といった意見はよく聞かれるが、疫学的に、無症状が多いであろう集団への監視的検査を行うならば、現在血液製剤原料の検査に持ちているように何人もの検体を混ぜて計測するほうが良いかもしれない(実際韓国ではある程度行われ、ドイツでも検討されたようだ)。

今の検査は医師が要求した特定の患者の確定診断や要隔離者の特定に使うといった目的があり、ある個人のある時点での感染の有無を調べる目的であるため、検体を混ぜるという行為は原則として考えられていない(それをしたら個人が特定できなくなる)。検査の目的によって最適な手段というのはまた異なってくるものであり、一口に「検査を増やせ」と言っているのが「治療のための検査を優先しろ」なのか「隔離のための検査を優先しろ」なのかは気を付ける必要がある。

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