今回の新型ウイルス対策として根絶に賭けるのは危険

新型コロナウイルス感染症COVID-19についての情報をお求めの方は、厚生労働省の情報ページか専門家の情報をフォローしてください。私は専門家を紹介する立場にはありませんが、例えば以下の方などが穏当かと思います。
・押谷 仁(東北大学
・高山義浩(huffpost記事一覧
・岸田直樹(@kiccy7777
筆者は医療や行政法の専門家ではありません。単なる素人の感想なので医療情報としての信頼は置かないでください。基本的に自分が納得するためだけに書いたものであり、他者を納得させるために書いたものではありません。

最近、筆者のTLで下記のブログが話題になっていた。

要約すれば「ピークカットは長期間かかるので、短期間で一気に封じ込めたほうがコストが小さい」という主張である。

私はこの意見に反対する。理由は、(ワクチンが開発されるまで)このウイルスの根絶は極めて難しいと考えられるからである。より具体的には、
1. 無症候・軽症が多く、検査にかからない例が潜在的に多数あると考えられている
2. このウイルスはすでに世界に広まってしまっている
という2点が問題になる。1の理由から、見えないところから侵入・復活してくるので対策が打ちにくい。2の理由から、仮に一国で根絶に近い対策をとっても常に再侵入のリスクがあるのである。

実例として、(経済活動をいったんほぼ停止した)中国以外で最も厳格な処置を行っている国の一つであるシンガポールの感染者数推移を見てみよう。3月頭で一度制圧したと考えられていたが、2月中旬に春節明けの宴会から広がっていたことが3/5以降確認され、累積感染確認者数は倍増した(ただしシンガポールは軽症者まで把握しており退院も早く現患者数は少ない)。

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シンガポールの厳格さから考えればこの流行も抑えることは可能であろうが、今後も様々な国からの再侵入リスクにさらされることだろう。特に検査体制ができていない可能性のある途上国では感染実態がつかめていない可能性も高い。最近の例では、2/20-28にフィリピンに滞在していた日本人が3/2に発症、3/5に感染確認となった事例があったが、フィリピンではその後感染確認が相次いでいる。これは日本人が持ち込んだという解釈も可能だが、発症タイミングからするとフィリピンで潜在的に流行していたものに感染したと考えるほうが蓋然性が高く、日本での検査を起点にフィリピンでの水面下の流行実態がつかめ始めているというところであろう。

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また、このウイルスは若年層では無症候・軽症になる傾向が強く、元々の公衆衛生の悪さから平均年齢が低い途上国(特にHIVの影響のあるアフリカなど)では、ただの風邪として社会問題にもならず維持される可能性がある。

このような理由から、私は「短期間の努力によって根絶を図る」という計画そのものが成立しにくいだろうと考えている。中国では成功しているではないか――という反論はあるだろうが、中国でも武漢はいまだ封鎖が解かれていないし、武漢以外の中国全土でソーシャル・ディスタンシング、プライバシーを犠牲にしての発熱監視、流行国からの入国の2週間隔離は続行中である(実際に再侵入も多い)。おそらく、これはワクチンが開発されるまでの年単位で続行しないと根絶は困難だろう。


私個人はクラスタ対策班の考えを支持しており、このウイルスの感染特性を踏まえたうえで日常生活を維持しつつ爆発的な感染をする経路を重点的に潰し、ワクチンが開発されるまで(1~3年の中長期見込み)常に流行を遮断するよう社会性質の在り方を少し変え、そこで構造的に犠牲になる業種に援助を、という方策がベストであろうと考えている。

また、日常生活を変えることで感染の広がる速度(実効再生産数)を下げる状態を維持すれば、流行終息までの総感染者も減少する。この点については、元のエントリがSIRモデルを不適切に使っている側面がある。

続き


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