『眠れる海の乙女』第5話
『……もう一度、始めないか? 俺達』
小波と風が吹き付ける音が聞こえた後に『好きだった……架純の事。別れてからも、ずっと』と隼人の緊張が孕んだ声が聞こえてくる。その度に胸が締め付けられて、鯱のぬいぐるみを抱きしめた。
これで何度目だろう。
スマートフォンの画面をタップして停止させてから、再び冒頭まで巻き戻す。イヤフォンを通じて、両耳に流れ込んでくる数日前の隼人との思い出に目を瞑り想いを馳せながら私は、日記帳に書き記していった。
脳内に残っている記憶やその時の感情は、時間が経てばいずれ消え去っていく。それはその都度、何か思い出の品や場面に出くわした際に、一時的に思い出すだろう。でも鮮明に思い出す事は不可能に近い。
私にとってそれは、他人が思うより残酷に感じた。隼人と過ごしたあの時間、そしてあの時に湧いてきた自身の感情を風化させない為にも、こうして耳と目の二回に分けて脳内に刻むようにした。
二回と言えば、隼人と付き合う事になったのも二回目になる。一回目は今でも忘れない。あれは高校一年生の春。隼人と一緒に下校している時に、いきなり私の目の前に来て告白をしてきた男子学生がいた。あとで分かった事だが、その男子学生は隼人に私の事を事前に相談していたみたい。私と隼人は小学校から一緒で幼馴染でもあるから。
突然の出来事に私が戸惑っていると隣に立って見ている隼人は、私の手を握ってその男子学生から逃げるように走り出した。訳も分からないままの状態で不安になったから、止まって隼人に問い質すと白状した。さっき告白してきた彼は、私に告白するから隼人に手伝ってくれって頼んだらしい。
それを聞いて私の心中は穏やかではなかった。とても複雑で、悲しい気持ちになった。それは隼人も同じだった。私が彼に告白された時、隼人は無我夢中で私を庇おうとした。
『架純が他の男と付き合うのは、やっぱり嫌だ』
隼人は私の目を見て、はっきりと言った。その言葉がきっかけで私達は付き合うようになった。私も隼人の事が好きだったけれど、互いに幼馴染という関係が邪魔をしていた。告白してくれた彼には申し訳ないけれど、それがきっかけとなった。
書き記していた日記帳を閉じ、スマートフォンの画面に映し出されている録音アプリの再生を止めてイヤフォンを取る。鯱のぬいぐるみを抱えながらベッドに横たわり、そのまま仰向けになると、ゆっくり瞳を閉じた。
数日前に行った鴨川の記憶を回想する。すると断片的な場面が映像として、瞼の裏に映し出されるだけだった。隼人とどのような会話をしたか、記憶として残っていなかった。
これが人間の記憶。だからこうして残しているのに……。
無常な現実と空虚な心に苛立ちを覚えながらも、私は隼人からもらった鯱のぬいぐるみを力強く抱きしめた。抱きしめながら苛立ちを整えようと鼻から息を吸うと、ぬいぐるみから隼人の香りが顔ってきたように思えた。隼人に例え彼女がいたとしても、隼人と一緒に過ごしたかった。それだけの理由が私にはあり、時間が残されていなかった。だから何度でも思い出せばいい。こうして何かのきっかけで思い出す事が出来れば、生きていける。そう改めて思った。
ふと時間を確認すると時間が差し迫っている事に気付き、慌てて身支度を始めた。コンビニパンを食し飲み薬と点眼薬を点けると、ちょうど外出する時間になった。玄関を出ると、日差しが架純を襲い眩しさを覚えた。カーテンを閉め切った暗がりの部屋にいた為、視界が安定しなかった。
駅前までの行き慣れた道のりを歩く。正和ホームがある国道の交差点で信号待ちをしている時、向かいの月極め駐車場に社用車がない事に気付いた。きっと今頃、隼人が利用しているのだろう。正和ホームの前を通り過ぎる際に社内を一瞥したが、やはり隼人の姿を確認出来なかった。
商店街通りに入り、道なりに進むと目的地に辿り着いた。二十坪程度の決して広くはない店内を進んでいくと、レジには貴子が立っていた。貴子が先に私に気付き「あっ、架純ちゃん」と声を掛けてきた。
「お疲れ様です」貴子に会釈をすると「今日は大丈夫? 無理しないでね」と私に気遣いの言葉を送ってくれた。
「はい……今日は調子が良さそうです」
「じゃあ、少し任していいかな? お腹空いちゃって」
「いいですよ」バッグを店内奥のスペースに置きながら返事をした。
「雅美ちゃんもさっき食事に行ったから、もうすぐ戻ってくるかも」そう言い残して、貴子は商店街通りに消えて行った。
雑貨店で働き始めたが、これほど居心地が良いとは思わなかった。引っ越しを済ませ、正和ホームに菓子折りを買いに向かう最中に見つけた店頭の張り紙。
『女性スタッフ限定募集。詳細はお気軽にスタッフまで』
時給はそれほど魅力的ではなかったが、取り扱っているネックレスやピアスなど女性向けの商品が、どれも魅力的だった。その中でもアクアマリンのネックレスが私の心を虜にした。ショーケースにあるネックレスに見とれていると、貴子に声をかけられた。当然、最初は客として接してきた貴子だったが、私が表の張り紙の事を尋ねると、快く話してくれた。
翌日に改めて店に伺い貴子と面接をした。アルバイトは初めてだった。自分勝手のように思えたが、期間はそれほど長くは働けない事を正直に伝えた。事情を伝えた私に貴子は頷きながらも途中、涙を浮かべながら聞いてくれた。そんな一面に私は貴子の人柄に好感を覚えた。
その場で採用を決めてくれた貴子は、常勤スタッフの雅美を呼んだ。雅美は私の三つ年上で私の指導係。貴子の口から雅美に私の事情と経緯を伝えると雅美も貴子同様、真摯に耳を傾けてくれた。
面接を終えると雅美が「店内少し見ていかない?」と誘ってくれた。取り扱っている商品の説明や注意事項を雅美から受ける。雅美の説明は、とても解りやすく私を気遣っての事だと思うが、時には冗談を言って場を和ませた。
そして私が好きな店頭のショーケースに展示されている、アクアマリンのネックレスに移動して、雅美から商品説明を受けている時だった。背後に暖かい気配を感じた。雅美から説明を受けている状況にも関わらず、気になって雅美の説明が頭に入って来なかった。
「……雅美さん。ちょっと良いですか?」
「うん? どうしたの?」雅美の返事を待たずに、振り返った。すると目の前に隼人が驚いた表情で立っていた。
「……びっくりした」心の底から驚いた。
「こっちこそ……いきなり振り返るなよ」いきなり現れないでよと、言いたくなる気持ちを抑えた。
「どうしたの? こんな所に?」
「そこのタピオカ買いに来たら、お前を見かけてさ」隼人が数軒先の店を指差しながら答えた。それを聞いて意外に感じた。
「隼人君、タピオカとか飲むの?」隼人のイメージとあまりにもかけ離れていたが「結衣さんに頼まれただけだから」との答えを聞いてなんだか安心した。
「……友達?」隼人と私の会話を聞いていた雅美に、視線を移して会釈する隼人。いきなり話を振られた雅美は何かを察したようで「あっ、大学の」その瞬間私が間を取り繕った。
「どうも、雅美です」雅美が隼人に挨拶をした。
話を逸らそうと私が「ねぇ……来週、大丈夫なの? 仕事だって言ってたけど」と隼人に尋ねると隣の雅美が「あっ」と口許を押さえながら声を発した。一瞬隼人が雅美を見たが、気にも留めずに日程調整した旨の回答が返ってきた。どうしよう……これ以上この状況を打破するには……考えあぐねていると「……あの、お取り込み中失礼」と雅美が割って入ってきた。
「タピオカ……大丈夫何ですか?」隼人に尋ねる雅美。その一言で隼人は、本来の目的を思い出した様子。別れの挨拶を済ませ、踵を返した隼人の背中を見つめた時。私の胸は締め付けられる程苦しくなった。
「隼人君?」無意識に名前を呼んでいた。声量はさほど大きくなかった。それでもこの商店街通りの喧騒の中、隼人には届いたようだった。歩いていた足を止めて隼人が振り返る。自然と足は隼人の元へ歩き出した。そして夕飯の約束を漕ぎ着けると隼人と別れた。
「……ごめんなさい」雅美の元に戻ると私は雅美に詫びた。
「もう、突然過ぎてびっくりした」笑みを浮かべながら額を拭う仕草をした後「もしかして、さっきの彼が……」私の顔を覗き込むように雅美が聞いて来た。
「……はい。私も突然来たから、焦っちゃって……でも、雅美さんのおかげで助かりました」
「でしょ? なんとなく話している感じで、察したわよ? ちょっと挙動不審だったけどね。でもどうして大学の友達なんて嘘ついたの? 架純ちゃん、通っていないでしょ?」
「彼に会った時に言っちゃったんです。そこの女子大に通っているって」
「どうして?」
私が貴子と雅美に話した内容に補足するような形で説明をすると「……そっか、まぁ……私は架純ちゃんと同じ年に見られて嬉しかったけど」と再び笑顔を見せる雅美だった。
その出来事をきっかけに、雅美との距離は大分縮まったような気がする。雅美はどうやら、世話好きな性格の様で私の事情を考慮して当面はレジ打ちに専念するように指示を出した。再び何かのきっかけで隼人がこの店で働いている所を目撃しない為にも、奥まった場所にあるカウンターで働くように。申し訳ない気持ちで一杯になり、雅美に礼を述べると「いいの、いいの」と格好良く気前を見せた。その姿に結衣と似た所があるなと感じた。
客足はお世辞にも芳しくない。閑散とした店内で、レジに立っているだけではあまりにも暇を持て余した。商品整理をしていると「架純ちゃん、お疲れ」と雅美が昼食を終えて戻ってきた。
「お疲れ様です」無地の白シャツにジーンズのラフな格好が顔立ちに合っていて、着飾っていない印象だった。
「あれ……オーナーは?」店内を見渡す雅美に「私が出勤したと同時に、お昼に行きました」貴子の事を伝えた。すると雅美が私の隣に近づいてきた。
「……それで、どうなの? 隼人君と上手くいっている?」
「はい……なんとか」
鴨川に行った後から雅美は私に気にかけてくれていた。隼人と面識もある為、相談も兼ねて話すとガールズトークに華を咲かせた。
「架純ちゃん……隼人君と鴨川行った後から、明るくなったよね?」私の顔をまじまじと見ながら雅美が言った。言われてみればあれから過ごす毎日が充実している気かする。一日一日の時間の流れが早く感じていた。
「やっぱり、女子の力の源は恋愛だよね」
「雅美さんだって、恋しているじゃないですか?」年上の会社員の彼氏がいる事は雅美から聞いていた。付き合って二年になる彼氏がいる。
「……そうなんだけどね」雅美の顔が暗くなった。聞いていいものなのかどうか逡巡していると自ら雅美が話出した。
「なんだか、最近刺激がなくてね。マンネリってやつ?」商品棚に飾られている、貝のネックレスを手に取ったり、戻したりと繰り返しながら心ここにあらずの様子。
「……そうなんですか……私にはとても」二年も一人の男性と付き合った事のない私には解らなかった。
「サプライズでも何でも良いんだけど……こう、なんて言うかな……女子の心をもてなすというか……」固有名詞がなかなか出ず、身振り手振りで私に伝えようとしている。
「……乙女心ってやつですか?」恐る恐る雅美に言うと「それ!」と雅美が私に向かい合い同調した。
「……例えばよ?」
雅美が店頭のショーケースまで歩いて行く。ショーケースの鍵を取出し、アクアマリンのネックレスを手に取って私の元まで近づいて来た。
「架純……もう一度俺と付き合ってくれないか?」跪いて野太く低い声を出しながらネックレスを私に差し出す。まるで男性が女性にプロポーズをする場面でよく見る光景だ。
「えっと……」
答えに戸惑っていると雅美は立ち上がり「……こんな感じにね」と話を続けた。
「例えば鴨川に行った時に、隼人君がサプライズでこの架純ちゃんが欲しがっている、ネックレスをプレゼントして来たら……どう?」
「……やばいです」想像したら堪らなかった。
「でしょ? やっぱりね……女子は基本乙女だから、こういうのに弱いのよ」しみじみと雅美は語る。満足気な表情を浮かべながらネックレスをショーケースに戻した。
「毎回は嫌だけど、たまにはこういう刺激が欲しいよね?」
「でも、隼人君は……どうだろう?」隼人の性格上、サプライズをするタイプには見えなかった。
「そういえば……」雅美が思い出したように「来月の花火大会……隼人君と行くんでしょ?」と話し出した。
「……花火大会?」
「えっ? 知らないの?」驚きを見せる雅美。「近くの河川敷で、毎年やってるんだよ? 結構この辺りじゃ、有名な花火だよ? 隼人君から話ないの?」
「……はい」初耳だった。隼人からそんな話題は今の所挙がっていない。雅美は何か考え込む振りを見せると「……そうだ」と閃いた様子を見せた。
「架純ちゃん……浴衣だよ」
「……浴衣ですか?」
「そう……浴衣。架純ちゃんの浴衣姿を見せて、グッと距離を縮めるの。ほら? 男って普段見せる姿と……ほら、あれ? えっと、また出てこない……」
「……ギャップですか?」
「そう、ギャップ。逆サプライズをこっちからかけて、隼人君を刺激させるの……うん、絶対いいよ」雅美に段々言われる度に、気持ちが高揚してくる自分がいた。浴衣は確か実家にあったはず。
「……私も行こうかな」呟くように雅美が言った。
「彼氏さんとですか?」
「うん……自分で話していたら、私がしたくなっちゃった。彼に浴衣姿見せて、刺激させてやろうかなって」自嘲気味に話す雅美が可愛く見えた。
「良いじゃないですか。そうしましょうよ? 雅美さんの浴衣姿見たら、彼氏さんだって絶対喜びますって」お団子ヘアにした雅美が似合いそうだ。
「去年はね……その花火大会は彼と行ったんだけど、その時は浴衣着ていかなかったんだ……だから、どうかなって」
「行きましょうよ? 二人で浴衣着て行って、ガツンと見返してやりましょ?」
「……見返すって、架純ちゃん達はラブラブなんだから。まぁ、良いか……よし、じゃあ、気合い入れて痩せなくちゃね」自身の腹を擦りながら、不安気な様子を見せる。それを見て、私も擦ると不安になってきた。
「……私も頑張ろうかな」自分ではそれほど意識をしていなかった。
「架純ちゃんは大丈夫だよ。痩せているんだし、必要ないって」
「そうですか? それなら雅美さんだって、必要ないですよ」
そんなやり取りをしていた時、ふとある事に気付いた。「でも、隼人君と彼氏さんに予定聞いていないですよね?」架純がそう言うと雅美が「私は、もう約束したよ?」と当然のように返して来た。
「架純ちゃんも早く聞いたら?」と雅美に言われ開催日時を尋ねると、やはり日曜日の夜だった。どうだろう……隼人は土日が一番忙しいと以前聞いた事がある。月末の日曜日だし難しいかな。私が不安に思っている事を雅美に吐露すると「何とかしてくれるって」と胸を張って答えた。
「甘えて頼んで見たら?」
「……そういうの苦手で」
「隼人君には甘えないの?」
「変に責任感というか、見栄を張っちゃう所があって……何だかそういうの苦手で」
「鴨川に行く時は架純ちゃんから誘ったんでしょ? だったら――」
「そうなんですけど……あの時は勢いというか、夢中だったから……」気持ちが先走り、雅美の話を遮る形になった。すると雅美は一呼吸ついて話し出した。
「男って、女に頼られたり甘えられたりするの、好きらしいよ? 彼がよく言っていた」
「……そういう女性の方が、モテますよね」自分にはない武器を持つ女性が羨ましかった。
「甘えてみたらいいじゃない? 素直に隼人君を誘ってみたら?」
「……そうですよね」すると雅美が「連絡してみたら?」と言い出した。
「いっ、今ですか?」
「『善は急げ』って言うでしょ? 思い立ったら即行動よ? それに、さっき言ってくれたじゃない……一緒に浴衣着てガツンと見返してやるって」
「……言いましたけど」仕事中の隼人の身を考慮すると、どうだろう。迷惑じゃないだろうか。
「お隣同士だし……やっぱり直接会って誘います」大事な事だし、会って言った方が、気持ちが伝わる気がする。そう思って雅美に話すと、予想外の答えが返ってきた。
「それは駄目だよ。架純ちゃん」先程までの柔和な顔がそこにはなかった。
「今、この瞬間の気持ちが大事なんだよ? 帰ってから隼人君に伝えても、『今』の気持ちにはならないんだよ? 今やらなきゃ駄目だって」私の手を握り、正面で見つめる雅美の真剣な表情に圧倒された。
「……どうしてですか?」
「……えっ?」雅美は私が尋ねてくるとは思わなかったらしい。
「……どうして、そこまで心配してくれるんですか?」気付いた時には涙が頬を伝っていた。雅美に圧倒されたから流したんじゃない。雅美がこれほどまでに私を気にかけてくれている事実に直面して、気が緩んだのかも知れない。包み隠さず吐露した事実を受け止めた上で、意見してくれる。その優しさに触れたからだった。
「なんで……なんで、そんな事を聞くのよ?」私の頬を流れる涙を拭うと、今度は自身の目元を拭い出した。
「私の周りの皆は、優しい人が多すぎます……皆私に同情してくれて……気にかけてくれて……雅美さんだって、そう。そんな真剣に――」
「架純ちゃん……人間って、悪くないわよ? 生きていれば、当然良い事も悪い事もあるわ……でもね、皆不安を抱えながら生きているけど、それは支え合っているからよ?」
「……私だったら、面倒なやつが来たなって思っちゃいます」客観的にそう思っていた。
「まぁ……最初聞いた時は驚いたけど……でも架純ちゃんは、誰かに助けてもらいたいから、正直に皆に話したんでしょ?」
「……はい。やっぱり、後々迷惑掛けたくなかったですし、それに時間がそんなに――」
「話したら、ちゃんと皆協力してくれているんでしょ?」
「……はい。だから、優しい人が多いなって」
「それは架純ちゃんが、優しくて良い子だから。じゃなきゃ皆協力しないって」
そう話しながら私の頭を擦る雅美。雅美の懐の深さと、暖かさに再び触れた時だった。そう皆が協力してくれる。本当に心配してくれている。明るく笑顔を向けて、私を受け入れてくれる。一度は全ての事に絶望したけれど、こうして周囲の支えがあって、ここまで辿り着いた。大した事をしている訳ではない。傍から見たら余計にそう見えるかも知れない。
価値観は人それぞれ。
他人から見れば、どうしてここまでやる必要があるか? 或いは、何故ここまで他人に迷惑をかけてやらなければならないのか? そんな疑問が聞こえてきそう。
でも私の中の今の価値観は、この計画を成就させる事に最も価値がある。
だから。
「ほら、架純ちゃん? 早く、隼人君に連絡しな?」
「……はい」
前に進まなくちゃいけない。誰に何を言われようと。
私は鞄から携帯を取出し、隼人にメールを送った。
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