連葉 その一

 空が橙色の光に染まり始めた夕刻。旅人が一人、荒廃した町の入り口に佇んでいた。傍には錆びてぼろぼろになった看板が立っていた。ほとんどの文字は読めなかったものの、かろうじて「ようこそ」と「の町マラミス」という文言は読み取れた。旅人は看板から目を離し、崩れた建物の並ぶ街道へと目を向けた。瓦礫まみれの道に敷かれた赤煉瓦はひび割れだらけで、その隙間から枯れ果てた植物が覗いていた。石造りの建物は崩壊した壁から無数の折れ曲がった鉄筋を剥き出しにしており、どこか異形の怪物を思わせた。そんな街の様子が鮮やかな夕日に照らされて残酷なほどにはっきりと旅人の目に映し出された。旅人は街道から目を背けた。かつては多くの人々が行き交い、笑顔に溢れていたはずの町、その町がどれ程の時間をかけてここまで荒廃していったのか。そんな考えが旅人の頭を巡った。しかし、旅人は長くそこに佇んでいる訳にはいかなかった。この先に、彼が休息のために滞在する町があるのだ。旅人は今一度街道へと向き直ると、足を進めた。

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