Interlude


 響き渡るチャイムと厳かなブラスの音色。それまでの忙しなさが嘘のように、一瞬で空気が変わる。


はじまり


 毎週のように練習に行き、毎月のように本番に出るというここ最近の生活は、2年前のBLOOM BRASS Vol.3からスタートしました。

 大阪に来て大学生になったはいいものの、コロナ禍で吹奏楽が満足にできない時期。そのときに誘われて参加したのがBLOOMでした。


 ブラスバンドという未知の領域。それでも、運営の皆さんや周りの奏者の方たちがあたたかく接してくれて、前向きな気持ちで心から演奏を楽しめたことを覚えています。


 演奏会終了後、あまりの満足感に今回限りの参加でいいかな…と思っていました。が、次第に練習や本番で味わったあの楽しさが恋しくなってきて、いつの間にかVol.4に参加することを決めていました。


素敵


 Vol.4ではパートリーダーを仰せつかり、しかもメイン曲でソロまで吹かせてもらいました。大学生の身分を活かして、平日にとにかく個人練を重ねました。あんなに練習したのは今までになかったかもしれません。


 BLOOMというバンドそのものに惹かれていったのもこの時期からでした。英国式ブラスバンドを広めるという明確な目的のもと、いろんな界隈の人たちが集結して、一年に一度のお祭りのように楽しむ。本当に素敵なバンドだと思います。

 そして、そんな素敵なバンドに演奏で貢献できていることが何よりも嬉しくて、どんどん練習に行くことが楽しくなりました。


 Vol.4終了後、BLOOMの運営に誘われました。本当に泣きそうなくらい嬉しかったです。


苦悩


 運営で担当することになったのは会計。初めての経験でしたが、NEW-Sの開催に向けて勉強だと思い、必死にやり方を学びました。何時間もパソコンに向かい、なんとか予算案を作ったりもしました。


 BLOOMを通して増えた仲間と一緒に、いろんな演奏会に出演するようにもなりました。気づいたらBLOOM Vol.5まで10ヶ月連続で本番を迎えることになっていました。

 精一杯頑張って楽しんでいましたが、一方で次第に自分に余裕がなくなっていくのをジワジワと感じていました。


 そして始まったVol.5の練習。大阪から神戸に引っ越したことや、ほかの本番を抱えていたことがにより、前年よりも大幅に参加率が落ちました。さらには、大学の練習場が使えなくなったため個人練の時間も取れず、ハイレベルな技術が要求されるブラスバンドでは自分の納得できる演奏ができる瞬間がなくなっていきました。


 会計担当としても自分のやるべきことが分からず、常に団長や他の運営の人におんぶにだっこの状態。演奏でも運営でも貢献できないことへの苦しみが募りはじめました。


決断


 4月に就職すると、より一層BLOOMにかける時間は少なくなっていきました。なんと本番当日ですら満足にリハに参加できないスケジュールになってしまいました。焦り、不安。巨大な塊に追い込まれていきます。


 そうして本番前、あることを心に決めました。

 「BLOOMへの出演は今回でひとまず終わりにしよう。」


 今の自分は心から音楽を楽しむことができているだろうか。去年や一昨年と比べると、どこか苦しくなってしまっている気がします。

 でも、BLOOMの記憶は自分の中でいつまでも楽しいものであってほしい。これから先、ずっとこのまま苦しみが続くのなら、今年で終わらせよう。そう考えた結果です。


 本番の数をどんどん減らしていくことも同時に決めました。自分はそんなに強い人間じゃありません。また心から演奏を楽しめるようになるまで、生活を整理していこう。そう考えました。


本番


 本番当日。合宿の引率の仕事が終わると、ホールに直行。アンサンブルのリハーサルのみ参加し、すぐに本番が始まりました。

 第1部は息つく間もなくあっという間に終わってしまいました。こんなに本番ってあっけなく終わるものだっけ?と思いながら、幕間アンサンブルを経て第2部へ。

 プログラムはどんどん進んでいきます。リハーサルに全く出ていなかったからか、演奏することに必死。気づいたらメイン曲「ドラゴンの年」の一楽章が終わっていました。

 このまま今年のBLOOMは自分の中であっけなく終わっちゃうのかな。そんなことを考えながら、二楽章の始まりを待っていました。


間奏


 響き渡るチャイムと厳かなブラスの音色。それまでの忙しなさが嘘のように、一瞬で空気が変わる。


 二楽章、綺麗だな。演奏しながら純粋にそう感じました。音符の数が少ない分、周りの音がよく聞ける。トロンボーンのソロをしっかりと味わいながら、次第に普段通りの落ち着きを取り戻していきました。


 続くフリューゲルホルンのソロ。聴いているうちに、この1年間のこと、今年もBLOOMが終わるということ、そしてしばらくこのバンドで吹くことはないということ、いろいろ思い出して涙が滲んできました。

 いろいろ苦しんだけど、やっぱりBLOOMって楽しい。最高に美しいフリューゲルの音を聞きながら、今年もこの感覚が味わえた嬉しさをしっかりと感じていました。


 続くコルネットのソロが終わり、いよいよTuttiでpppを奏でる場面。一番得意な弱奏で最高に良い音を、一番好きなこのバンドに提供しよう。ぼやける視界の中、指揮を見ながら、譜面を追っていきます。


 そしてクレシェンドの先に待っていたのは、2年前から確実にレベルアップした、正真正銘のブリティッシュ・ブラスのサウンドでした。思わず一筋の涙が頬を伝いました。今年も最後まで思いっきり楽しもう。

 さらにクレシェンドを重ね、いよいよクライマックスのfff。精一杯楽器を鳴らします。そして再び、曲は最初のフレーズに帰ってきました。


 美しくも儚いInterlude。それはまるでBLOOMに参加したこの3年間の記憶のよう。


 徐々に静かになっていくブラスの音色。最後に袖で目元を拭って、次の三楽章へと向かいました

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