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落とし物から目が離せない

つい先日、駅員をしているというかたからTwitterで注意喚起のツイートがあり、かなり話題になっていました。
拾得した遺失物をSNS等に載せないように……という内容のものでしたが、悪意のある人も世の中にはいるのだなぁと苦々しく思うのと同時に、なんとも言えない気持ちになりました。

おそらく、既に持ち主の元に届いていると思いますので書こうと思いますが、つい先日、まさに電車内で落とし物を拾い、駅員さんに届けたからです。

「お正月らしい、いい天気だなぁ。」

元日のお昼頃、電車がホームに滑り込んでくるのを待っていました。
1月でありながらも日差しが暖かくさえ感じられ、年が明けて晴れやかでもあり、ほんわかとした良い気分でした。

やがて電車がやってきました。
ガラガラの車内ということもあり、ロングシートの端っこに座りました。

ふと、斜め前の優先席の前に、何かが落ちているのが視界に入りました。

どう見ても、定期券を入れるようなパスケースです。
ピンク色のレザー、あるいはフェイクレザーのケースで、同じ色・素材のストラップが付いているように見えました。

パスケースが落ちているのと同じシートのひとり分ほど離れたところに女性が座っているのですが、どうやら、その人のものではない様子。
念のため声をかけて確認したほうがいいのかな、どうかな、と思っているうちに、その人は次の停車駅で降りていきました。
また、私の向かいに二人座っていましたが、視界には入らないようで、気づいていない様子。


誰もいないシートの前に、落ちたままのパスケース。


それに気づいているのは、私だけ。

(このまま、自分が降りる駅まで誰も拾わなかったら、自分が降りる駅で届ければいいのかな。)

(このあと、誰かが乗ってきてその存在に気づき、拾ってくれるかな。誰か拾ってくれないかなぁ。)

(いや、自分が拾って、届けよう。)

そう決心をしてから、今乗っている電車がどこを何時何分に出た電車で、種別は何で、何両目のどの辺りで、それは海側か山側か。
届ける際に必要な情報を頭に叩き込みました。

自分が"善い行い"をしようとしているというのに、妙にドキドキしてきました。
そして、落とし物から目が離せずドギマギしている自分のことが、だんだんおかしくさえなってきました。

自分が降りる駅はすぐにやってきました。
心の中でえいやっと気合いを入れ、腰をかがめてパスケースを拾いました。
中には、Suicaの定期券が入っていました。

ホームにいる駅員さんに駆け寄り、乗ってきた電車を指しながら、
「電車の中に落ちていたのですが・・・」
と声をかけた瞬間、
「ありがとうございます。こちらでお預かりします。」
と。
その直後、駅員さんが少しハッとしたような表情で私の背後に目を向けました。
振り向くと、更に2人の駅員さんがいました。

「?!?!」

なにごとかと思い、びっくりしましたが、駅員室からホームへやって来て車内の捜索をしようとしたところだったようで、駅員さんから駅員さんへパスケースは手渡されました。
様子からして、既に落とし物をされたご本人からの届け出があり、どの電車かも特定できていたようです。

つまり、もし、私が拾わなかったとしても、無事に拾得されたと思われます。

ヘンな汗だけが残りました。
電車に乗る前の、柔らかな日なたにいたときの私の、あのほんわかした気分はどこへ・・・・・・


実は、今までに何度か電車内に忘れ物をしたことがあります。

・網棚の上に置き忘れた、ルーズリーフと洋書の入ったケース。
・うとうとしてて慌てて降りたら、手元からシートにするっと落ちてしまっていたガラケー。
・飲んだ帰りにうっかり寝過ごし、ハッと目が覚めたときにまるごと置いてきた、紙の手提げ袋(中にはiPad!)。
・その他、何度か。

それは、みんな無事に手元に返ってきました。

駅員さんが車内を確認してピックアップしてくれたこともありましたし、善意のあるかたが「車内に落ちていた」と自身の降車駅に届けてくださったこともありました。

本当に、感謝しかありません。

年初から徳を積んだといえばそうなのかもしれません。
ただ、私にとってはどちらかと言うと「恩返し」のようなものに近いです。

車内で落とし物を見つけるたび、かつての私のことを思い出しては、落とし物から目が離せなくなります。

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