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【全文無料公開中】言葉が苦手な子が「オンライン・イベント」の司会役に抜擢されて起きたこと

先日、「マレーシアにきて変わった子」たちの話を書きました。

環境が変わったり、クラスでの役割分担が変わると、「性格が変わったように見える」ことが、なぜか起きるのです。

先日も、言葉が苦手なTくん(10歳・日本人)が、英国人の男の子と一緒に共同でスピーチイベントの「ホスト」をするというので、私は驚いたのです。紹介したので、実際にご覧いただいた方もいると思います。

その後、Tくんのお母さんの渡部明子さんから、「今回の振り返りを日本の読者に共有してほしい」と言われました。

IB校フェアビュー・インターナショナル・スクールで行われた「学生主導ライブシリーズ」。何が起きたのか、その舞台裏をお母さんとのインタビュー形式でお届けします。

初日の練習後は号泣した


ーーまずは、今回のイベントにT君が司会をすることになった経緯を教えてください。

息子は、言語を介したコミュニケーションを苦手とする子どもでした。英語に関わらず、母国語である日本語でも同様で、小さい頃から、伝えたいことを絵に描くような子どもです。

ところが先生方は、今回そんな息子を、ライブホストに抜擢したのです。最初伺った際は、親として耳を疑いました。すぐに「これはこの子にとって、とてつもない大きなチャンス」と直感し、息子とも話し合った末、お引き受けすることにしました。

ーーどんな練習をしたのでしょうか。

それ以来息子は、1週間に渡り、担任の先生による1日2時間弱のスピーチトレーニングを受けました。マレーシアはロックダウン中でしたから、オンラインでのトレーニングです。
 初日の練習後、息子は号泣しました。

ーーなぜ号泣したのでしょうか?

校長先生から「今回のライブホストを務めるにあたり、もっとも大変だったことは何ですか? また、それをどのように克服しましたか?」との質問を受けた息子は、たどたどしいながら、次のように回答しました。

「ライブの練習を始めたとき、自分がハッピーではないことに気付きました。とても緊張していたので、ライブホストを務めることが嫌だったのです。しかし、『ライブに向き合う』と決めたら、ハッピーな気持ちでいられるようになりました」

てっきり、「最初はうまく話せなくて悔しかった。でも一生懸命練習したら克服できた」、そう答えるものと思ってました。ところが息子は、自分の内面の問題と、その内面を克服するための手段について話したのです。

ーーどういうことでしょうか。

不特定多数の聴衆に向かってライブをするという大きな試練に対し、心の中のネガティブな感情、問題の種を客観視し、向き合うと心に決めた。そこでポジティブになれたと、息子は心の動きを言葉で表現したのです。

翌日の練習前、「僕はもう泣かないよ」と母に伝えて練習に臨むと、初日とは打って変わった上達を見せ、先生や家族を驚かせました。

「このスキルは、他の問題にも適応できる」

ーー当日はどう感じましたか。

ライブはZoomを用いて行われたのですが、落ち着いて喋っていました。お陰様で、当日は大成功に終わりました。
 
長男はさらに校長先生とのセッションで、「このスキルは、他の問題にも適応できる」といいました。つまり、「問題と正面から向き合えば、あらゆる問題を解決できる」と理解したというのです。

負の感情を冷静に見つめること、心の動きを客観視することは大人にとっても大変難しいです。それができないからこそ、この世には多くの問題が存在しています。

言語の発達度の遅い子どもを持つ親として、これまで心配は尽きませんでしたが、今回のライブを通し、人間としての生きる力、この世の中で生き抜くために必要なスキルをすでに息子が得たことを知り、大きな喜びと、安堵感を得ました。

ーーどうやってこのスキルを得てきたのでしょうか?

IB教育では、「探求ユニット」という単元があり、子どもたちは各テーマに応じて深く探求し、考える機会を得ます。そのテーマの1つに「自分は何者か」があり、毎年生徒たちは、自分のルーツを探ることでアイデンティティーを確立していくトレーニングを受けます。

また、フェアビュー・スバン校の生徒たちは、毎回授業の終わりに、「この時間で学んだことは何か?そこで自分が得られたことは何か」を100文字以内で表現することを課されます。「リフレクション」が学びにおいて、最も大切という位置づけになっているためです。

これまでの息子の授業毎のリフレクションを目にすると、ほとんどが1文、30文字以内で終わっています。しかし、そこに表現する以上に、心の中では多くの気付きを得ており、これらのトレーニングを5年間受けてきた息子は、自然と内面や問題の種を観察する習慣を身に着けていたことを、今回のライブ後の感想を聞き、知ることができました。

ーー周囲の反応はいかがでしょうか。

ライブのチャットボックス(発言を入力する欄)には、ホスト役の生徒を賞賛し応援する言葉で溢れ、Q&Aセッションでは、誰よりも最初に息子のクラスメートが「今日のライブは素晴らしかった!最高のパフォーマンスだったよ!」と、多くの一般聴衆を前に声を上げてくれました。
 10歳の子どもたちが、大人以上のマナーを見せていました。

ーー普段から、学校の人間関係は良好なのでしょうか。

フェアビュー・スバン校での教育スタイルは、グループワークが基本です。非常に小規模な学校で、先生、スタッフ、生徒、そして生徒の家族にいたるまで、大きな家族のような温かい空気が校内に流れています。これが子どもたちに大きな安心感を与えています。そのアットホームさとグループワーク中心の教育スタイルにより、子どもたちの心に自然と「助け合いの心」、「お互いを鼓舞する優しさ」が芽生えていることも、今回のライブで知ることができました。

 IB教育が、人間力や、真っ直ぐで正しい人間性を育ててくれるのだと実感する、大きな機会となりました。

ーーありがとうございました。

*****

私も当日のライブを拝見しましたが、彼が「言葉が苦手なお子さんである」ことに気づく人は少なかったのではないかな? と思います。当日ご覧になってた方はどうでしたでしょうか?

2021年10月25日追記。
Youtubeのリンクをいただきました。当日の様子を見たい方はこちらからどうぞ!

貴重なシェア、ありがとうございました!

それではまた。

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