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『学校の未来はここから始まる~学校を変える、本気の教育論議』

2020年3月の突然の一斉休校。コロナ禍での対応が迫られる学校では、さまざまな課題が浮き彫りになりました。これらの課題を乗り越え、多様性が求められるこれからの時代を生きる子どもたちが自ら「育つ」学校となるために、学校は、教師はどうあるべきか ―――。

本書は、すべての子どもの学習権を保障する学校づくりに取り組んできた木村泰子先生、学校の「当たり前」を問い直し、子どもたちの自律に向けた改革を行ってきた工藤勇一先生、文部科学省で2度の学習指導要領改訂を担当した合田哲雄さんによる、忖度なしの教育論議を収録しています。

本編の前に、3人がどのような思いでこの座談会に臨まれたのか、まずは本番前の歓談の様子をご紹介します。

学校の未来

木村 この本のきっかけは、2020年2月26日に文部科学省で行われた千代田区立麹町中学校と文部科学省初等中等教育局財務課のジョイントセミナーです。合田さんと私はそこで初めてお目にかかり、お互いに好印象だったという話を聞きつけた教育開発研究所さんから、工藤さんを交えた3人の座談会を打診されました。

合田 木村先生のことはずっと以前から存じ上げていましたが、こうして座談会でご一緒させていただくのは初めてで、とても光栄に思っています。

工藤 木村先生と私のお付き合いは長いですが、こうして同じ本に載るということについては、私としても感慨深いものがあります。

木村 そうですね。私たち、「きっと前世はきょうだいだったに違いない」って、よく話していましたからね(笑)。

合田 自律した校長として積み上げられてきた実績はお二人ともすばらしいものがありますし、何といってもマネジメントに対する考え方に共通点が多い。

工藤 「固定担任制の廃止」をはじめ、本来の目的を見つめ直しながら学校の当たり前を突き崩してきたという点で、たしかに木村先生と私には共通点が多いですね。

木村 子どもの自律性を高め、「子どもを育てる学校」から「子どもが育つ学校」にするという点も、私と工藤さんの共通認識ですね。私は工藤さんのように、カッコいい言葉は使えませんが(笑)。

合田 木村先生が大空小の校長として、工藤先生が麹町中の校長として数々の壁を突き崩し、学校教育の新しい形を社会に提起してくれたことの意義は、われわれ文部科学省サイドとしても非常に大きなことと受け止めています。

工藤 自律的に学ぶ子どもを育てるという点では、今般の学習指導要領でも、そうした方向性が示されました。当時、文部科学省の教育課程課長として、その改訂の中心的役割を担ったのが合田さん。

木村 私が文部科学省の施策をほめることなんて滅多にありませんが、今回の学習指導要領が示す方向性は本当にすばらしいと思います。私は2015年に校長を退職した後、全国各地の学校を講演で回っていますが、「この学習指導要領は、学校が変わる大きなチャンス」と言い続けてきました。

合田 当代の教育界のスターでいらっしゃる御両所からそうおっしゃっていただけるのは本当にありがたいことだと思います。私も今回の改訂の担当課長として、その目的・ねらいが現場に正しく伝わるよう、あらゆる機会を使って説明をしてきました。

木村 2020年4月には小学校で新学習指導要領が全面実施されましたが、その矢先にまさかのコロナ禍。私の講演やセミナーも、すべてオンラインに変わりました。

工藤 学校関係者にとっては、本当に大変な1年となりました。ただ、これも「当たり前」を問い直し、新しい学校教育の形を築いていくうえで、一つの契機になると私は考えています。「履修主義」「修得主義」という言葉も聞かれるようになりました。

合田 2021年1月26日に「履修主義」「習得主義」「個別最適な学び」など、今後の学校教育を形づくる大事なテーマについて、中央教育審議会から答申が出ました。文部科学省には答申で提言された事項を確実に実施すべき大きな責任があります。

木村 コロナ禍による一斉休校は、学校とは何かを冷静になって捉え直すうえで、私もよい機会だったと思います。一方で、現場の状況を見ると、遅れを取り戻そう、元に戻そうと必死になっています。

工藤 その背景には、全国の学校が何十年間にもわたり、学習指導要領に基づき、教科書をただなぞるような授業をしてきたことがありますね。

合田 学習指導要領の改訂にかかわってきた立場から、工藤先生のご意見に全く同感です。学習指導要領や教科書は「なぞる」のではなく、正しく読み解いて「使いこなす」ようにしてほしいと心から思っています。

木村 その意味では、子どもだけでなく、教師も自律しなければなりませんね。

工藤 さらに言えば、学校も自治体も、自律しなければなりません。そして、各々が自律できるような仕組みを構築していく必要があります。

合田 この座談会では、せっかく木村先生、工藤先生というカリスマ的な実践家にご参加いただいているわけですから、単に批評をするだけでなく、議論を深めながら学校教育が変わるために何が必要か、具体的なロードマップを描けたらいいなと思います。

木村 私みたいに行政に反発し続けてきた人間が、こうして合田さんと話をするのが不思議な感じです。失礼なことも言ってしまうと思いますが、どうか許してくださいね(笑)。

合田 ぜひ、本音でお願いします(笑)。編集部には、「忖度なし」で一言一句、すべて書き起こしていただきましょう。お二人がその教育観をどのように築いてきたのか、個人的なエピソードもぜひお聞かせください。

工藤 今回の座談会、私もとても楽しみです。実を言うとこれまで、教育関係者が集う座談会などはどちらかと言えば苦手でした。論点が全くズレた人とは、いくら議論をしても話が平行線で深まりませんから。でも今回は、木村先生、合田さんというメンバーを聞いて「断る理由はないな」と思いました。

木村 事前に編集部からレジュメをいただいていますけど、これに目を通している矢先から、もう言いたいことが山のようにあります(笑)。

工藤 「コロナ禍」「個別最適な学び」「履修主義と習得主義」「自律」「合意形成の手法」など、今とこれからの学校教育を考えるうえでのキーとなる言葉も、たくさん並んでいます。

合田 最終的には、「何が問題か」というレベルから、「何をどう変えていくか」という政策的なレベルにまで到達させたいですね。どうぞよろしくお願いします。

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続いて、本編もちょっぴりお見せします。

論点1 「コロナ禍」は学校に何をもたらしたか
 2020年3月、全国各地の学校は新型コロナウイルス感染症による一斉休校に突入し、約3ヵ月間にわたって子どもたちが学校へ来られない日々が続きました。そうした日々のなかで、学校にはどのような変化が生じ、どのような課題が浮き彫りになったのか。まずは、今回のコロナ禍の振り返りから――。

新型コロナによる休校期間をどう過ごしたか
工藤 私は、コロナ禍のただ中の3月末に千代田区立麹町中学校の校長を退任し、4月からは私学の横浜創英中学・高等学校の校長になりました。メディアでは何度か、その間のオンライン授業等が取り上げられましたが、本校は決してICTの面で進んでいたわけではありません。そのため、着任直後からこれを一気に推し進める必要がありました。結果的に、1ヵ月もかからずに教職員のICTスキルは大幅に向上し、子どもたちや保護者から信頼を得ることもできたと思っています。

木村 今回のコロナ禍で、私自身も大きく変わりました。対面での講座・セミナーなどが、すべて「オンライン」で行われるようになりましたからね。これまではパワーポイントすらろくに使えなかった私が、こうやってZoomで皆さんと話しているんですから、我ながら驚きです。
 先日は、オンラインで800人もの参加者を相手に講演をする機会もありました。自分がこれまで積み重ねてきたことを大事にしつつ、新たなことにもチャレンジしていく。私自身がそうであるように、学校教育も同じような状況に直面しているように思います。

合田 安倍総理(当時)が全国の教育委員会や学校に休校要請を出したのは、2020年2月27日でした。萩生田文部科学大臣が国会(3月6日衆議院文部科学委員会)で答弁しているとおり、「文部科学省としては、当初、2週間、休校するとしても2週間程度でいいのではないか、あるいは、(……)インフルエンザと同じように、事態が進行した自治体から順次的確に対応していくことでいいのではないか、全国一斉の必要はないんじゃないかという思いも正直」ありました。
 安倍総理の3月2日から春休み明けまでの休校要請は、つまるところ春休みが明ける4月になるまでの間で先生方が子どもたちと向き合える日が、要請翌日の2月28日(金)しかないということを意味しましたから、たいへんとまどいましたし、年度末の学年最後の学びや卒業式などに先生方や子どもたちがどんな思いを抱いて向かい合っているかに思いを致し、財務課長席で大きな声をあげてしまったことをよく覚えています。
 萩生田大臣の「27日に断続的に官邸、総理とも相談をする中で、総理としては子供たちをとにかく守りたいという思いが、熱い思いがありました。私(萩生田大臣)としてみれば、やっぱりこれだけのことをやるとすれば、各自治体にあらかじめ連絡をして準備をしていただかないと大変な混乱が起こるんではないかという思いがございました」という答弁(3月10日参議院文教科学委員会)どおりでしたね。
 しかし、「確かに、科学的な一斉休校の必要性というものも総理側もなかなか説明はできなかったんですけど、私も科学的に休校をしなくてもいいということの反証もなかなかしづらかったという中で、最後は子供たちの安心、安全を最優先」(萩生田大臣の同日の答弁)しました。あの段階では、新型コロナウイルスについては科学的にまだわかっていなかったことが多く、学校でクラスター感染が発生して子どもたちの生命が危険にさらされることだけは避けねばなりませんでした。そのため、全国の教育委員会と連絡をとりながら、官邸の方針をふまえて、一斉休校への対応を進めました。

一斉休校期間に見えてきた課題
 …………

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この後、見えてきた課題に学校はどう対応していけばよいのか、議論は続きます。さらに、これからの時代に子どもたちの「学び」はどう変わり、多様性社会を見据えて教育は、学校は、教職員はどう変わっていけばよいのか、3人のこれまでの実践をふまえ、議論はますます白熱し、「自律的に行動する」「当事者意識を持つ」「子どもを主語にする」など、学校の「未来」に向けたキーワードが次々と繰り出されていきます。

1章 コロナ禍で見えてきたこと
 論点1:「コロナ禍」は学校に何をもたらしたか
 論点2:子どもたちの「学び」はどう変わっていくのか
2章 これからの学校、教職員
 論点3:「多様性社会」に向けて必要な教育のあり方
 論点4:これからの時代の教員はどうあるべきか
3章 ロードマップを描く
 論点5:日本の学校と社会が抱える構造的な問題点とは
 論点6:最上位目的に向けた「合意形成」をいかに図るか
 論点7:「自律」のために何が必要か
 論点8:どのような制度・システムを整えていくべきか

本書では、論点ごとにポイントを「グラレコ」でまとめています。

グラレコ

さらに、3人の先生方が今に到るまでにどのような人生を送ってこられたのか、コラムも掲載しています。

【コラム】
「みんなの学校」ができるまで 木村泰子
なぜ、学校の「当たり前」を問い直したのか 工藤勇一
私が受けてきた学校教育と、学習指導要領改訂 合田哲雄

「正解主義」や「同調圧力」から脱け出し、これまでの「当たり前」を改めて問い直す。これは、特別なリーダーではなく、すべての学校・教師ができることです。
これからの教育をつくるすべての方に、ぜひ読んでいただきたい1冊です。教育の「最上位目的」の達成に向けて、ここから未来を始めてみませんか?


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