【初心者向け】質的研究報告ガイドラインを参考にした質的研究論文の書き方【動画講義付き】
こんにちは、京極真です。
本論の内容は以下の通りです。
自戒しながら言うと、質的研究論文は玉石混淆でして、査読者の質もまちまちなところがあるため、質的研究論文の質を高める書き方を知っておくと何かと便利です。
なお、「質的研究について学びたい!」という人は、本論とあわせて以下の無料オンラインコースを受講してください。
完全無料で質的研究の全体像を学ぶことができます。
さて、本論を読むにあたって、SRQRそのものは以下から無料で入手できますので、必要に応じて各自でSRQRをダウンロードしておいてください。
本論は読者の専門領域に関係なく読めるようにしています。
つまり、質的研究論文を書きたい人なら、誰でも読めるように書いています。
また本論は初心者向けですけども、質的研究論文を書いたことある人でも、数本程度なら本論からの学びがあると思われます。
ただし、SRQRそれ自体は無料で公開されている使えるので、質的研究報告ガイドラインさえあれば自分でできるという人は、本論の必要性は低いです。
また、本論は初心者向けなので書き慣れている人は「当たり前やん・・・」ってなるかもしれません。
また複数の質的研究論文を発表しておりまして、以下はその一例になります。
質的研究の報告ガイドラインはSRQR[1]のほかに、COREQ(Consolidated criteria for reporting qualitative research)[2]、ENTREQ(Enhancing transparency in reporting the synthesis of qualitative research)[3]、Journal Article Reporting Standards for Qualitative Research(JARS-Qual)[4]などがあります。
COREQはインタビューとフォーカスグループ、ENTREQは質的研究の統合に特化した報告ガイドラインです。
他方、JARS-QualとSRQRはさまざま質的研究に適用できところに利点があります。
JARS-Qualは心理系、SRQRは医療保健福祉系に位置します。
JARS-Qualは非常に包括的であり、医療保健福祉系でも有用性を発揮する可能性があります。
現時点において、医療保健福祉系はSRQRが先行者優位なところもあると感じています。
なので、本記事ではSRQRという質的研究報告ガイドラインを参照しながら、質的研究論文の書き方を解説します(今後、JARS-Qualを活用する解説記事も書くかも)。
本論では、SRQRを視点にした質的研究論文の書き方を解説しますから、読者は自身が採用した質的研究にそくして柔軟に書きやすくなると期待できます。
COREQは拙著『作業で創るエビデンス』[5]で解説していますので、本論とあわせてお読みください。
なお、本論と拙著『作業で創るエビデンス』は内容がほぼ重複していません。
なので、両方あわせてお読みいただけると、さらに理解が深まると思います。
また、その他の質的研究を学べるおすすめ本は以下のブログ記事でまとめているので、ぜひそちらもご覧ください。
交通費や食費がかからないので、研究法の研修会に参加するよりも圧倒的にお得です。
記事だけでなく、何度も視聴できる動画講義に加えて、研究論文の書き方に関する相談コーナーもついています。
すぐ元はとれると思うので、質的研究論文の書き方のノウハウに投資してください。
本記事以外にも研究法概論、事例報告の書き方を書き下ろしています。
それぞれよく読まれている記事でして、必要に応じて本記事とあわせてお読みください。
これから研究をはじめる実践家のために【強化版】 (thriver.one)
本論は質的研究論文の書き方に特化しているため、さまざまな個別の質的研究法については詳述していません。
次の質的研究法について詳しく知りたい方は拙著『作業で創るエビデンス』をご購入ください。
前置きは以上にして、さっそく本題に入りましょう。
1.質的研究の概要
厳密に言うと、質的研究とは何かという問いに対する解答は、研究者によって異なるところがあります。
例えば、構造構成的質的研究、グラウンデッド・セオリー・アプローチとそのいくつかの種類、ナラティブ研究、現象学的質的研究、解釈学的質的研究、エスノグラフィー、複線経路等至性アプローチ、事例コードマトリックス、SCAT、コンセンサスメソッド、混合研究法、カルシュラル・スタディーズなどの立場の違いによって質的研究の捉え方に相違があります。
これらは背景にある哲学も違えば、具体的な手法も異なっておりますので、もちろん結果の解釈も異なってきます。
けども、大きな結び目を示せば、質的研究とは対象者の「意味の世界」を構造化する営みである、と言えるとぼくは考えています。
ここでいう意味の世界は、研究に参加された方々の解釈・行為・文脈などの総体です。
例えば、「働き盛りの青年は日々の生活において膝前十字靱帯断裂をどう体験しているか」というテーマで研究したいとします。
質的研究では、このテーマにそって対象者の生活と膝前十字靱帯断裂に関するインタビューを行うことになります。
体験はその人の解釈、行為、文脈などの集合体でして、それについて語っていただくことによって意味の世界に肉迫できる可能性があるわけです。
そして、インタビュー結果から、日々の暮らしにおける膝前十字靱帯断裂の体験の内実を整理し、解釈できるモデルを組み立てる(構造化する)ことになります。
体験の語りはとても豊かなデータですが、そのままでは豊かすぎるために、ぼくらにはすっきり理解できないです。
なので、体験の語りは理解しやすいように縮約する(構造化する)わけです。
こうした営為は、インタビュー外の行動観察や歴史資料などといった他の質的データにも当てはまります。
意味の世界の探求は、測定可能な事象に着目し、全体的な傾向を明らかにする量的研究では無理です。
もちろん、測定できない要因を統計モデルに組みこむことは可能ですが、それは原因不明のデータのバラツキを表現したものであり、解釈・行為・文脈などの総体からなる意味の世界を解き明かすものではありません。
質的研究と量的研究は得意とするところが違う研究法であり、ぼくたちはそれぞれの特徴を理解したうえで両方を活用していく必要があります。
さて、まとめると、質的研究は、対象者の意味の世界を理解できるようにするために、語りや観察記録などの質的データを収集し、質的データに根ざしながら事象の理解に役立つモデルを作る営みだと言えるのです。
2.質的研究の歴史
質的研究のはじまりは約2600年前だという指摘があります[6]。
タレスは、自然現象の観察を通して「万物の起源は水である」という仮説を生成しました。
この仮説は哲学の端緒を開いたものとして有名ですが、自然現象の観察から構造化したという点では質的研究のはじまりでもあるというのです。
他方、量的研究が出てきたのは約200年前です。
量的研究の中心的方法である確率はパスカルからはじまっているので、その意味では約300年前からあったとも言えます。
いずれにしても、質的研究の方が歴史が古いと考えられます。
とはいえ、量的研究は質的研究よりも科学的方法として重宝されています。
理由のひとつは、科学革命による人類史的成功にある、とぼくは考えています。
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