おもいで 3

「あ、そうだ。別れましょー☺︎」

付き合って2ヶ月くらい。ドンキホーテの装飾がハロウィンからサンタさんに変わったとき。2人の誕生日を超えて12月、クリスマスだなぁと思うくらいのタイミングで、不意に落とされた言葉。見た時は驚いてそっとLINEのアプリを閉じた。だけどどう考えてもそこにある文字列も意味も変わらなくて、意を決してもう一度読んだ。

上から読んでも下から読んでも、別れようって言われてるなこれ…。

ふむ、と思って返事をどうしようかと悩んだ。単純に疑問はあったので理由を聞く。

「理由聞いてもいいです?」
「理由必要あるー?」

3秒思案。うーん、まぁ確かに理由なんて別にいいか。あっちが別れたいと思ってそれを私が飲むかどうかの話でしかないのかなぁと、なぜか腑に落ちてしまった私は、まぁいいか、と思ってお別れをした。今考えると、もっと悲しんだり激昂したりしても良かったのかもしれないけど、最後までわからないまんま終わってしまった彼女のことだから、別れ方もよくわからないまんまになってしまったらしい。期間の短さも、あるのだろうか。

とはいえ、流石に少し落ち込んだ。何をどうしたらよかったんだろう、あの時のアレが悪かったんだろうか、もっとこの時こうしていれば…キリがないくらい考えた。だけど、もう終わってしまった恋だった。終わったという事実がそこにあるだけ。思い出の引き出しの中にそっと仕舞えばいい(私がいくら引きずったところでそれを意に介してくれる人ではないというのもある)後悔も絶望も意味がないな、と思ってこの恋を終わりにした。

でも思う。恋人に急に別れを告げられた時、どんな反応をするのが正解なのだろう。取り乱せばいい?話し合えばいい?泣き喚いて縋ればなんとかなってしまうなら、そんなのくだらないな、と思う。大人のフリをして話し合わないのも、それはそれで間違いなことがあるんだろうけど。わかんないね。

そうして、短い恋は終わりを告げた。

その後しばらくは連絡もとらず出会ったバーに未練たらたらで行っては、会いたいような会いたくないような気持ちでいた。結局1度も遭遇する事なく、マスターから話を聞いたらしい彼女から連絡がきてなんやかんやでお酒を一緒に飲む機会があったので聞いてみた。

「なんでわかれよーって言ったの?」
「うーん……?わかんない。当時の私に聞いてよー」
「聞けるかバカ。てか聞いたけど言わなかったじゃーん」
「まーたぶん、仕事だのなんだのが忙しくて恋愛?にエネルギー割けなかったんだとおもう」
「…ま、そういうことにしとくか」
「ふふ、そういうことにしておいて」

これが本当なのか嘘なのかはわからないしどうでもいい。彼女の口からそうだと聞いたならばそうだし、そうではなかったんならそれはそれ。どうでもいいのだ。この話を出来た事を価値として私は持っていることが出来る。そこそこへろへろになり、ピスタチオのジェラートが食べたいという彼女の発言を受けて、2人でタクシーを使って歌舞伎町に行ったけど、目当ての店が営業していなかったからもう一度拾い直して彼女の家へ。

出会った頃みたいに一緒に寝た。

だけどそこにもう歯ブラシは置いていなかった。

おしまい。

#おもいで #エッセイ

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