準新幹線は鹿児島こそ必要

国土交通省が幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査令和2年度調査結果というものを2021年夏に出している。簡単に言うと、整備新幹線区間の完成が見えてきた今、次の新幹線基本計画路線を整備するにあたり、ミニ新幹線の高速化、スーパー特急方式などを念頭にしている。単線新幹線では公費節減効果が薄く、交換待ちなどで所要時間短縮も限られることから、土盛り構造を増やし、トンネルや橋梁を減らす、市街地は在来線を使うなどして、在来線をできるだけ活用し、曲線区間には短絡線を設けて高速運転を行うことを想定している。

これにより、現在鉄道シェアの高い300〜700kmの距離がある区間だけでなく、100〜500kmの区間も鉄道シェアを高めるとしている。これから建設される区間は、基本的に車社会なので、この距離は圧倒的に車が強い。具体的にイメージしているのは山形新幹線、秋田新幹線のトンネル区間だろう。

しかし私は基本計画路線区間に準新幹線は無理だと考える。どの自治体もフル規格新幹線を求めており、規格を下げれば反発は免れない。比較的有望と見られる四国、東九州、羽越は距離が長く、300キロ以上で運転しないと利用されないだろう。準新幹線は、基本計画路線区間以外の大都市と100km程度の郊外都市を結ぶのに適している。例えば東京と水戸、千葉、甲府。大阪と和歌山。名古屋と三重を結ぶ路線だ。福岡と大分は、大阪と結ばないと効果が薄いし、基本計画路線区間なので、大分県がフル規格新幹線を求めるから除外する。
しかし私は鹿児島周辺の在来線を準新幹線に置き換えるのが最適と見ている。

鹿児島が準新幹線に適している理由
①面積
鹿児島県は面積が広い。全国47都道府県で10番目に広く、西日本で最も広い。南北600kmに及ぶ離島があるからではなく、本土も広い。本土は鹿児島市を中心に各方向に100km程度の広がりがある。
②在来線の競争力が弱い
在来線はほとんど単線で、高速化されておらず、低速の列車が行き違い待ちをしながら運転している。このため、人々の移動手段はほぼ自家用車。駅などへのアクセスが悪いこともあり、九州内の移動は圧倒的に自家用車の分担率が高い。
③車社会なのに道路環境が悪い
鹿児島市内は都市高速道路もなく、逃げ道がないので道路渋滞は全国の都市で最悪とも言われる。また、鹿児島市の地形上の特徴として、平地が非常に狭く、慢性的に住宅が不足している。周囲のシラス台地の崖は開発困難なので、山を越えたさらに外側にベッドタウンが出来やすい。外側の住宅地から流入する車で郊外から鹿児島市に向かう道路は慢性的に渋滞する。

準新幹線で100km程度の移動をある程度鉄道に分散させれば、渋滞が緩和される。これらの問題はかなり解決できる。

どこに建設するか
準新幹線が有効なのは、指宿枕崎線鹿児島中央〜枕崎(約90km、鉄道2時間半、自家用車1時間)、肥薩線方面鹿児島中央〜人吉、小林(約100km、小林まで鉄道約3時間、車で人吉、小林は1時間15分)旧大隅線方面鹿児島中央〜桜島、垂水、鹿屋、志布志、日南方面(鹿児島〜日南は約120km、車で2時間半志布志・鹿屋は100km、車で1時間半)、鹿屋〜佐多岬方面(鹿児島中央駅から南大隅町役場まで67km、車で2時間半、佐多岬まで104km、車で3時間)である。

これらの区間は、大隅半島を除き、指宿枕崎線、日豊本線、肥薩線、日南線の改良になる。いずれも鹿児島中央まで1時間以内で到達できるようになり、通学や観光需要が見込める。地方の在来線は、車より低速で利用するメリットがないので利用されない。時速200キロ前後で走る準新幹線なら、高速道路を使う車にも対応できる。一般的な地方在住の人に、鉄道利用は新幹線しかないのを考えると、準新幹線化しないと在来線は残せない。面積が広く、鹿児島市と地方都市の間で移動時間がかなりかかる鹿児島県には有効だ。

また、今のままでは指宿枕崎線末端区間、肥薩線、日南線は、並行する地域高規格道路、高速道路に太刀打ちできず、いずれ廃止の運命にある。鉄道を残したければ準新幹線化しかありえない。

在来線鉄道の準新幹線化は突拍子もない発想か?
準新幹線は十分実現可能である。在来線鉄道は、日本では最高速度が130キロに抑えられているが、ヨーロッパや中国の在来線鉄道は、踏切がほとんどないこともあり、160〜200キロ運転が普通である。
1990年頃は、財政難で九州新幹線も新八代から鹿児島中央までを新幹線の路盤で建設し、在来線の特急を160〜200キロ運転で走らせる予定だった。これが研究頓挫したとは聞いていない。JR九州は当時、新聞報道で、狭軌で200キロ運転するとパンタグラフの音が騒音発生源になるので第三軌条方式を採用したいと言ったこともある。少なくとも200キロ前後で運転する研究は行われ、フリーゲージトレインのような台車の問題など深刻な問題はなかったと見られる。実際北越急行で狭軌160キロ運転を行っていたので、それほど技術的に困難ではなく、今の技術の延長でできるだろう。少なくとも160キロ運転する車両は、それ以上の速度で走れる性能を持っている。

地方都市の郊外路線こそ準新幹線
前述の通り、新幹線基本計画路線区間の沿線はフル規格新幹線を望んでいる。鹿児島を中心に考えると、宮崎方面の東九州新幹線は比較的早期に整備新幹線に格上げされて建設されるだろう。しかし肥薩線や指宿枕崎線末端区間は、いずれ廃止される。これらのローカル線を準新幹線に置き換えると郊外通勤路線になる。枕崎を例にすると、今は鉄道で2時間半かかるが、準新幹線なら30分以内になる。これなら鹿児島市内の谷山あたりと変わらないし、九州新幹線なら30分程度の出水や新水俣からは普通に鹿児島中央まで通勤需要がある。枕崎にとっても地元に住んで鹿児島に通勤が可能であるし、鹿児島にとっても商圏が広がりお客さんが増える。広い地域から日常的に鹿児島を訪れる人が増えれば経済効果が上がる。鹿児島に全くメリットがないということはない。

準新幹線化すれば規格の低い在来線は改良の必要があるし、踏切もなくすから、一気に鉄道が近代化する。鹿児島市内の路線は大半が地下鉄化され、線路跡は道路拡張に使われるだろう。鹿児島のローカル駅は裏通りにあることが多く、一般的な旅行者には使いにくい。地下鉄のように主要道路から直接入れれば利用しやすくなる。
九州の在来線は災害に弱いが、準新幹線化で近代化されれば災害に強くなる。いつまでも明治時代の規格のローカル線を残すのではなく、準新幹線化で近代化すべきだ。


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