研究室におじゃまします! ―人文学科 山名先生編―
こんにちは。
広報グループのUです。
最近は、朝井リョウの新刊『正欲』を読みました。近年「ダイバーシティ」「多様性」という言葉が、簡単に使われすぎているのではないか、その言葉を自己満足に使っていないかと、強烈に皮肉った小説です。ちょっと見ないふりをしがちな社会問題に、ストレートに切り込む作品が多い朝井リョウ。今作も良かったです。
今日は先生の研究室の探検レポートをお送りします。
先生たちの研究室が並ぶ流渓館。ドラマの撮影などに使われたこともある趣ある建物です。螺旋階段に青い天井、古い照明の組み合わせが素敵。
さて、お目当ての研究室は2階。国際文化学部人文学科の山名先生の部屋に向かいます。精華で最も面白い研究室のひとつと有名な場所。いったいどんなところでしょう。
ドアをあけた瞬間、「わ!」と声が出ました。本の山。
山名先生、ほんとにいるのかな…。
あ、いはった。
人文学科の山名 伸生先生。日本美術や東洋美術の研究者です。手にしているのは福岡県朝倉市甘木のでんでん太鼓(パーツがとれてしまった…とお話し中)。
よく見ると本棚のあちこちに、可愛らしい姿が見え隠れしています。
山名先生は郷土玩具の専門家。このお部屋は、日本国内あらゆる地域の昔ながらのおもちゃ達が集結している、博物館のような研究室なのです。
特にたくさんいるのは張子(はりこ)と呼ばれるお人形たち。張子は、粘土などで型作った土台に、紙を貼り付けて描かれた人形です。張子の歴史は古く、平安時代に中国から伝わったと言われています。
面白いのはその制作背景。日本全国で、農家の冬場の副業として代々受け継がれてきたもので、アーティストのような商業作家ではなく、一般家庭の女性たちが子どもたちのために作ってきた歴史があります。
まず気になったのは、ぶら下がっているお猿。おどけた表情やポーズが堪らなく可愛い。これは埼玉県の郷土玩具、船渡張子(ふなどはりこ)。東京の亀戸天神で販売されることが多かったので、亀戸張子(かめいどはりこ)とも呼ばれています。山口県柳井市の金魚提灯とセットで吊り下げられていました。
棚の上には、鯛・馬・鯛。
左ふたつは、滋賀県草津市の郷土玩具。贈り物で、男児が生まれたら馬、女児が生まれたら鯛を贈る風習があったそう。
右の鯛は新潟から。海の描き方に日本海の荒々しさを感じます。
私の地元、熊本県の張り子はいますか?と聞くと…
いました。
熊本県宇土市の宇土張子(うとはりこ)。牛や船に乗っていて凛々しいです。奥のお相撲さんも立派な佇まい。
ちなみにお相撲さんの前にいる、日本一の旗を掲げる小さいお猿は岡山県倉敷の玩具。風で幟(のぼり)がたわむと、猿が昇っていくそうです。可愛い。
名古屋市八事の蝶々や、京都の伏見人形、鹿児島の土人形などなど、次々紹介いただく玩具たちにメモが追いつかないほど。
郷土玩具たちは、先述のとおりプロのアーティストによって生み出されたものではありません。各地域のひとたちが、子どもたちのために受け継いで作り続けてきたもの。精巧な技術、描き込まれた美しい表情などとは一味違いますが、温かみのある表情やユーモラスな動きなど、魅力がいっぱい詰まっています(現在は、伝統産業の工芸品として、プロが作っているものもあります)。
私は山名先生のお話をきっかけに、すっかり郷土玩具に魅了されてしまいました。
民衆史や地域の文化に興味をもつ人文学科の学生たちはもちろん、「つくるって、芸術って何だろう」と迷い始めた芸術系学部の学生たちにとっても、こうして過去の人々がつくり続けてきた手仕事に触れると視点が変わって刺激になるかも。
自分の地元にはどんな郷土玩具がありますか?と聞くだけでも面白いので、ぜひオフィスアワーを利用して訪ねてみてください。
山名先生、ありがとうございました。またお邪魔します。