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秋の終わりの小さい冒険。セイカの「木」を知ろう

こんにちは。広報グループHです。いつのまにか、すっかり寒くなってしまいましたね。

今回は、京都精華大学を取り囲む木々について、景観史や植生史を専門としている、人文学科の小椋純一先生に教えていただきました。

小椋先生

ではさっそく、スクールバスを降りてすぐに見える、本館そばの山から聞いてみましょう。

01_本館

「このへんはアカマツが多いですね。この斜面は土が吹き付けられていて分かりにくいですが、元はこの大学を創るために山を削ってできた岩場でした。マツは『パイオニア』の樹木で、切り崩した土地やなにもない場所に、最初に生える木なんです。京都精華大学は山を拓いて少しずつ形をつくってきたので、建物などの近くにはマツが生えてきやすかったんです。」(小椋先生)

ここ_本館のアカマツ

なるほど、言われてみれば、たしかに赤茶っぽい幹の木が多い(写真赤丸部分)。するとぼんやり「緑」と認識していたもののなかに、「赤茶の幹=アカマツ」が見えてきました!名前を知るだけで、風景の見え方が一瞬で変わるのが不思議です。そして、なぜマツの木が多いかという理由もわかりました。

「30年くらい前までは、流渓館の裏山などは大きなアカマツだらけだったんですが、1990年代の初期にはそのほとんどが枯れてしまいました。いわゆるマツ枯病によるものですが、根本的にはマツ林に人手が入ることがなくなり、土壌がマツに適さなくなったんです。
 昔、大学がある岩倉の木野周辺は焼き物の里で、その名残は明治くらいまで続いていたようですが、焼き物を焼くために森林が酷使されてきました。そのため草木のない禿山もできました。そして、山の樹木としてはパイオニアのマツが中心の時代が長く続きました。流渓館の裏には、平安時代の窯跡が残っていますね。」

パイオニアのマツ

写真は斜面に生えてきたマツです。かわいい。
ちなみに、平安時代の窯跡は、流渓館と光彩館(テキスタイル専攻)の間にある道を少し山の方に上っていくと、遺跡がしっかり残っているんです。大学の敷地内なので、誰でも見に行けますよ。

「そこでは燃料としてアカマツが使われていたことがわかっています。わざわざ遠くから木を運ぶのはたいへんなので、おそらく当時は近くにアカマツがたくさんあり、それを使ったのだと思います。ちなみに風光館の陶芸専攻のあたりには、奈良時代の窯があったんですよ。その窯の燃料はカシの木で、それは付近の森林がまだ酷使される前だったことを示していると思います。」

このあたりで、木々には、その周辺に住む人々の歴史と密接な関係があることがだんだんわかってきました。本館前のアカマツだけでも、いろんな歴史が見えてきます。大昔から同じようにあると思い込んでいましたが、この時代にはカシ、この時代にはマツと移り変わってきたんですね。

「マツは土壌に落ち葉などが多く残っているとよくないんです。いまはほら、そのままになっているところが多いでしょう。昔はマツの落ち葉も着火用などの燃料として、よく落ち葉かきをして人が利用していたんです。それでうまく育っていたんですね。この岩倉のあたりでは、アカマツと共生するマツタケもたくさん採れていましたよ。」

小椋先生のお話をきいていると、だんだん、そこに暮らす人々の姿が頭に浮かんできます。マツがよく育っていた数十年前の在学生は、学内のマツタケを食べていたかもしれないですね。

さて、次は春秋館へ。オープンキャンパスでよく利用するこの講義棟は、建物に入るまでにいろんな木々を目にする場所です。

02_春秋階段

建物の右手側(坂を上がって一番近く)にある階段を上った森に生えているのは「ヒノキ」。こんなに近くにあるとは。花粉症の人は要注意です。

春秋のスギ2

この春秋館の階段を上がったスポットは、緑がよく見えて落ち着く場所なんです。向かいに見える木々はどんな種類があるのか尋ねてみました。

03_春秋向かいの景色

「近くに行ってみないと確実なことはわかりませんが……。コナラが多そうですね。あの紅葉している木です。あと、シイやアカマツなんかもあります。山の稜線付近で枯れている背の高い木がアカマツです。稜線付近には今もわずかにアカマツが残っていますが、それもほとんどなくなってきました。一方、山の下の方にある、枝葉が少しもそもそとして丸っぽい木々がわかりますか?あれがスギです(下段の写真、赤丸部分)。」

春秋からの景色1

ここ_春秋からの景色(スギ)

わからないと言いつつ、どんどん特徴をとらえていく小椋先生。しかも、遠くにある木々の説明がものすごくうまく、素人でも見つけることができます。衝撃だったのが、この山のあたりも、江戸時代のころは禿山や禿山に近い山が多かったということ。植物が生えていない禿山は、山崩れや洪水を起こしたりしやすくなります。そこで人々が積極的に木々を植え、それがまた形を変えていまはこんなに豊かになっているんですね。

帰り道、立体造形のところにはクリの木が1本立っていました。下にはイガグリがたくさん。中の実はありませんでしたが、入っていればちゃんと食べられるんだそうです。

04_7号館のクリ

イガグリをつまみながら関心を示していると、小椋先生から「クリも美味しいですが、シイの実も美味しいんですよ」と教えていただきます。大きなシイの木は5号館の奥、鹿野苑(ろくやえん)近くにも生えているそうです。さっそく見に行きますが、残念ながらそれらしき実が落ちていません。

05_鹿野苑のあたり

シイの実を食べたい気持ちが顔に出ていたんでしょうか、気の毒に思ってくださったのか、森の奥へとどんどん進んでいかれる小椋先生。私はこの手前の木のところで立ち止まってしまいました。(写真中央、木の奥に小椋先生が写っています)

森の奥へ消える小椋先生

戻ってきた小椋先生の手には、小型の実が!

木の実

がしかし、これらはシイの実ではないそうです。「このあたりにシカの糞がたくさんあったので、おそらく野生のシカやネズミが食べてしまったんでしょうね。」とのことでした。精華はデッサン用に鹿を育てているのですが、その周辺の森にもたくさんいるんです。(たまに山から下りてきて、食堂前あたりで目撃されています)

アケビ

また残念な顔をしてしまっていたのか、最後に周辺にあったアケビの木(つる性)を教えていただきました。秋に実る実がとっても美味しいとのこと。楽しみに時々見に行ってみたいと思います。

木の名前やそれにまつわる人々の歴史を知ることで、普段見慣れたはずの景色がずいぶん違って見え、とても面白い冒険になりました。小椋先生、ありがとうございました!学生や教職員のみなさんも、たまには木々に注目して、京都精華大学を少しゆっくり巡ってみてはいかがでしょうか。

おわり


<おまけ>

のりちゃん

途中で、精華名物猫「のりちゃん」に会いました。相変わらず大きくて可愛かったです。